ある料理屋で - 「ベラルーシ」の余韻
仕事は代休をとって、朝からルポのようなエッセイのようなものを読んでいた。
この間の同作者の小説がいまいち好みではなかったので (冒頭のnoteに感想を書いた)、彼女の筆力とそこに描かれているヨーロッパの空気が素直に自分に浸透してくるのに170ページほどかかった。
でもある地点から、もう認めざるを得なかった。なんと素晴らしい文章だと。
一度浸透してきたらあとはあっという間だ。何度も、その風景に圧倒された。
資本主義とはなんだろうと、イギリスの大学卒業後の2年半で初めて旅に出たくなった。
人生についてのQ&A
圧倒されたまま、つまりエモさを引きずったまま、昼食に出た。
昨日の夜、父親の誕生日祝いもかねて食べに出た近所のイタリアンに、そのまま入った。シェフとウェイターの男性2人だけで営んでいる小さなお店で、もう顔馴染みだ。
*
入ったのが遅かったので、1組、2組と消えて最後に一人だけ残ってしまった。2日連続なので、普段より親近感もあったのか、ウェイターの方と会話が弾んだ。
「失礼な質問してもいいですか」
途中で彼が切り出す。昨日彼が父親に「何歳になったんですか」と聞いた流れから、年齢のことだろうと容易に想像がついたし、それは当たっていた。
「25歳です」
用意していた回答を、とくにひねらず素直に答える。
「人生楽しいですか」
と、彼は続ける。
「概ね」
と、わたしは答える。
「楽しくないときもあるんだ」
「まぁ、ありますよね」
ちょっと考え直す。
「楽しくないんじゃなくて、思い通りにいかないことは、ありますよね」
反応を見るに、彼にとってはどちらもあまり変わらなかったようだ。
*
「どうなんですか」
聞く相手はほかに誰もいないのに、そして会話として大して不自然な流れでもなかったのに、同じ質問を返すと彼はびっくりしたようなふりをした。
「あ、あぁ、僕ですか。概ね、楽しくないです」
意外な回答だった。
いつも自然体で、よく気がきく。顔も覚えていてくれるし、ワインのこともよくしっている。料理だけでなく彼のプロの仕事ぶりも、このお店を好きな理由の人だったからだ。
「考えているようでなんも考えてなかった。適当だから、後で後悔する。30超えると大変だ。」
プロポーズに聞こえなくもない。
しばらく、店員とお客にしては真剣な (そして個人的な) 会話をした。
荒波
「なんか嫌なことでもあったんですか。それともそんな顔なの?」
帰り際、外まで送ってくれながら彼が言う。
2つ目の質問は、もともとそういう表情をするのかということだと思う。
エモさを引きずりすぎていたようだ。
「荒波にもまれてきてください」
わたしが逗子生まれ逗子育ち、都内在住ということをすっかり把握した彼が言う。
「荒波にねぇ。もまれてきます」
そもそも荒波に乗れなくなっちゃったんだよなぁ、と別れてから数分後に思う。
また一人で行く気がした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?