見出し画像

読書記録|『Purpose 「意義化」する経済とその先』

手に取ったきっかけ

 最近”脱資本主義”の考え方が注目を浴び始めているが、社会人として5年間資本主義にどっぷりつかった業界で働いてきたものの、自分自身も富だけを追求する資本主義的な社会構造に違和感を感じるようになっていた。
 もう少し分解すると、企業行動に紐づく多くの社会課題が露呈し深刻化している今、”マーケティング”という分野に軸足を置いて仕事をしている以上、たとえその企業社会課題に加担していたとしても、”いかに消費者の欲望を掻き立て、その商品を買ってもらうか”がマーケティングの本来的な役割なので、業務を通じて自分自身も負を生み出すことに加担につながる行動をしてしまいうることにもやもやを感じているというわけ。

 一方で、”マーケティング”によって消費者の心や行動を動かすことに面白みや仕事のやりがいも感じているので、このもやもやを解決する手立てはないのかと、ここ数カ月模索をつづけていた。
 そして、”マーケティング”という手段を用いて、人々の消費行動を環境や社会にとってより良いものアクションに変える道はないのかと模索している中で、「社会課題の解決」=「これからの企業の戦略の中心」としてとらえるパーパス経営の考え方に興味をもち、タイトルでどんぴしゃでその考えを謳っているこの本を手に取った。

「Human-Centered」から「Planet-Centered」へ

 「パーパス」とは、一言でいうと企業の”社会的存在意義”のことである。環境問題や人権問題などの社会課題に対し、世の中をよりよい世界にするために、企業がどのような社会的役割・責任をもってビジネスを運営し、それらの課題解決に貢献をするのかを示す指針のようなものだ。

 本の中でも語られているように、「パーパス」は新しいコンセプトではない。数年前にも、パーパス経営やパーパスブランディングという言葉は流行し、一気に「パーパス」というワードがつく書籍を目にすることが増えた。
そして、この数年でまた、社会課題が深刻化しているために世界的な関心度が高まっていることや、それにより日本国内でも社会課題に関して取り上げられることが増えたことによりこの「パーパス」という言葉に対する注目度が増えているのだ。

 これまでは、デザイン思考が注目を浴びていたように”Human-Centered(ユーザー中心視点)”でどのような課題を解決すべきか、どのような体験を提供すべきか、を意識したアプローチがとられてたけれども、社会課題の深刻度が増してきていることや、それらの社会課題に高い関心をもつミレニアル・Gen Zが消費市場の中心になりつつあることにより、企業経営において”Planet-Centered(地球中心視点)”という持続可能な成長を意識したアプローチへの注目度・重要性が増してきている。

「パーパス」思考で消費行動をかえたい

 これまではSGDsなど企業の存在意義に関連するような取り組みは投資家に向けたCSR報告の一環で広報やバックオフィスなどが対応する性質のものだととらえていた。
けれど、「その企業が社会課題に対してどのようなスタンスを示しているのか」が消費者にとって商品・サービスを選択する際により重要な指標になっていることを踏まえると、製品開発、ブランディングやマーケティングなどの消費者と接点がある業務の中でも企業の社会的存在意義(=パーパス)を発信することが今まで以上に価値があるのだと、期待をもつことができた。また、この本の中で紹介されている消費者により良い消費行動を意識させるためのアプローチをとっている企業の成功事例をみると、”マーケティング”と”よりよい世の中をつくる”ということを両立するすべがあるのだと、また、それが実証されているのだと希望を感じられた。

 一方で、この本の中では日本の生活者の意識に対するショッキングなデータも同時に示されていた。

 顕在化しつつある危機と、日本の生活者の意識の開きは非常に大きい。
2020年の春のIPSOSという調査会社の国際比較調査で、「人間の活動が気候変動につながっている」と考える人の比率は、日本がダントツの最下位だった。

p.125

 2015年の少々古いデータになるが、「あなたにとって気候変動対策はどのようなものですか」という問いに対する結果だ。ここで「多くの場合、生活の質を高めるものである」と回答したのは、世界平均の66%に対して日本では17%であり、「多くの場合、生活の質を脅かすものである」と回答したのは世界平均27%に対して日本では60%にも上った。
 この結果は、気候変動対策が、世界的には生活の質を高めるために前向きかつ積極的に取り組むべきものと考えらえれている一方で、日本では、生活レベルを落としかねないものとして敬遠されがちだということを意味する。

p.127

この本の中で紹介されていた気候変動や環境問題に限らず、海外の友人と会話していると(ヨーロッパ出身の友人の比率が高いからかもしれないが)日本人との社会課題に対する関心度や”自分の行動が社会を変える”という意識の差を感じることが多い。その一つの要因として、自分自身もそうであったが、良くも悪くも日常生活の中でそれらの問題にたいして意識させられるような”きっかけ”や”呼びかけ”が少ないことが挙げれられると思う。
 それはつまり、消費者にとって”気づき”があれば価値観や行動をアップデートし、よりよい社会につながるようなアクションを取りうるチャンスがあるというわけで、自分の生業である”マーケティング”を通じてそれらのきっかけづくりができたらなと思う。

関連リンク


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?