駅の写真が一枚
彼は歩くのが早い。私を置いてすぐに歩いて行ってしまう。
私は着いていくのと人を避けるので精いっぱいである。
傘の下の彼は猫背で、背中は身長に比べいくぶんか小さく見える。皮肉にも、かえって雨の中では絵になっている。
以前、彼は都会の雑踏が嫌だと言っていた。一人でいるより孤独な感じがするらしい。孤独とは数量ではなく関係性の問題だ、とも。
それで私が呼ばれたわけだけれど、彼は私とのつながりも希薄に感じているらしい。難しい人物である。
雷が鳴り、雨が強くなる。屋根のある場所の人口密度が高くなり、それ以外の場所で低くなる。人が集うと、湿度もぐっと高くなったような気がする。
からだ全体に水を含んだようになるまでじっとしていたら、強雨の中を走って出ていく人たちがいる。本降りになって出ていく雨宿り、と彼がつぶやく。
そうしているうちに人口密度は均等になっていき、彼はかかってくる電話を無視し続ける。どこも見ていないような焦点の目で私を見る。
ようやく3度目の電話が切れたあと、彼はカメラのアプリケーションを起動して私を撮る。可愛く撮れた?と訊くと彼は少し笑った。
最後の一日としてはまずまずの日であった。
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