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故郷の匂い。

海の町で生まれ、育った。そこは、潮の香りがする町だった。

私の故郷は、海に面した町で、魚がとても美味しい。昔、祖母が水産加工場に勤めていたので、よく魚を持って帰ってきてくれた。幼い頃はその魚を毎日のように食べていた記憶がある。

その水産加工場は、家から少し下ったところにあって、独特の匂いがしていた。磯と、魚の生臭さとが混ざったような匂いだ。車で通る時はできるだけ窓を閉めていたくなるような、そんな匂いだった。

その匂いを嗅ぎながら、私は通学していた。学校に近付けば匂いはなくなっていくのだけれど、通学路はどうしてもその匂いの印象が強い。

初めてそこを通る人は、思わず鼻をつまむ。だけど慣れれば次第に気にならなくなる。私にとってその匂いは、故郷の匂いなのだ。

就職して地元を離れた今も、海の近くに行くと懐かしくなる。匂いがあの頃の記憶を蘇らせているのだろう。潮の香りを嗅ぐと、なんだかほっとするのだ。

人によっては嫌うかもしれないその匂いを、私は本能的に愛してしまっているようだ。潮の香りと波の音に包まれていると、とても安心する。

そして新鮮な魚の味も、同じように忘れられない。今になって、あの味は贅沢だったんだと気付く。当時は当たり前のように食卓に並んでいたので、文字通り、飽きるほど食べていたのだった。

だから私は、またその味を求めて海沿いの町へ行く。刺身や焼き魚をたらふく食べて満足して帰る、そんな休日。昔なら考えられなかっただろう、それが大切な息抜きになるなんて。

* * *

地元を離れて気付くことは、たくさんある。当たり前だと思っていたものが、実はとても特別だったのだ。

また帰省したときには、存分に故郷の匂いと味を満喫したいなと思う。

ユキガオ

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