見出し画像

7. コミュニケーションの壁

秋田市文化創造館の開館時間中に敷地内を滑っているスケーターの多くは、高校生や専門学校生、大学生といった10代から20代の若者たちだ。
夏休みの間は日中から、学校がはじまってからは夕方になると一人、また一人と集まってきて、ひたすら滑ったり飛んだりを繰り返している。

そんな彼らに、文化創造館に寄せられる抗議の声を伝え、どうするのが良いのかを考えてもらおうと、これまで以上に積極的に声をかけ始めたのが8月の終わり。日に3回も4回も声を掛けるものだから、鬱陶しがられているだろうなと思いながらも、こちらも必死だった。それでも帰りがけには、「お疲れさまでした」と彼らから挨拶してくれることも増えた。
またある時には、「さっきルール違反をする大人のスケーターがいたんですけど」と事務所に伝えに来てくれることもあり、それを聞いて事務所を飛び出し、(足元はパンプスなのに)全速力で追いかけて、近隣から苦情が寄せられていること、だからルールを守ってほしいこと、ルールを知り合いにも拡散してほしいとお願いするというようなこともあった。相当に必死だった。

ところが9月の頭から、パタリと敷地内で滑るスケーターの姿がなくなった。頻繁に見かけ、執拗に声をかけ続けた高校生や大学生は、遠慮をしてなのか、私たちが鬱陶しいのか、敷地内には立ち入らず近くの道路で滑る姿を見るようになったし、その頻度も減っていった。
声がけ作戦が鬱陶しかったのかなと振り返りながら、2~3週間ほどその状態を過ごしていたところ、久々に道路で滑る馴染みの高校生を見かけ、意を決して「最近文化創造館で滑らなくなったのはなんで?」と声をかけてみた。


帰ってきた答えは意外にも、「え、だって禁止だって聞いたから」。

「え、禁止にはしていないよ」と応じたが、まるで信じてもらえないものだから、普段から彼とよくコミュニケーションをとっていた別のスタッフを連れてきて、禁止ではないということを説明してもらった。
その夜からしばらくして、再び彼らが敷地内で滑る姿を見かけるようになった。加えて、これまで良く来ていた高校生や大学生とは違う集団も加わるようになっていった。

抗議が再び寄せられるようになったのも、その頃からである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?