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5. 禁止する

8月に入ってから、スケボーの騒音やスケーターのマナーに関して、文化創造館に抗議の声が再び寄せられはじめるようになった。

市役所や町内会長、年長のスケーターに相談しながら、新たな対策を講じもしたが、抗議の声をあげる方が納得するような落とし所は見出せず、ある夜、いよいよ一時的であれ禁止をして、抜本的な策を考える時間を稼ごうと腹を括った。そして、その「決意表明」とも「敗北宣言」とも言えるような連絡を関係各所に入れた。

実務的に「了解」という反応もあれば、スケボーにはこういった抗議はつきもので仕方ないと言う反応や、ここまで文化創造館はよく頑張ったという慰労の声もいただき、安堵と不安と敗北感とが入り混じった感情を抱えながら翌朝を迎えた。

ところが朝になって館長から、「禁止はないね」というメッセージが届いた。私たち指定管理者は、文化創造というミッションを負って館の管理を担っているのだから、自ら率先して文化創造の可能性を否定する「禁止」は何に対してもしてはならないということだった。反論の余地もない真っ当な指摘だった。

そこで、前夜に「禁止」の方向性を伝えていた市役所に訂正の連絡を入れ、指定管理者ではなく市役所が禁止を命じる可能性を協議しはじめた。しばらく時間があって市役所から再び連絡が入り、市役所がスケボーを禁止することもない、という決定を聞いた。曰く、指定管理者がスケボーの利用を認めるとした方針を貫けるよう、これまで庁内でかなり丁寧に調整を続けていたそうで、それを今回を機に反故にするのはあまりに性急すぎるということらしい。
不幸なのか幸いなのか、これで「禁止する」という選択肢は無くなった。

さて、抗議の声がおさまらない中、どうするか。
また状況は振り出しに戻ってしまった。


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