「引越し業者は慎重に選べ」 (1)

 ついてなかった。

 ただでさえメンドウなことが山積しているのに、ここへきて、私は引越し業者選びのクジで大凶を引いた。

 引越しをするのはほぼ16年ぶりのことだ。ネットで引越し業者を検索すると、私でも知ってるような大手から地元密着型の小さな会社まで、どうやって選べばいいのか困惑するほどたくさんのリストが目の前に現れた。
 困ったのでとりあえずまとめて見積もりしてくれるサイトに登録してみた。

 たいていの引っ越ししようとしている人は、暇を持て余していることはないと思う。そんな人にこのまとめて見積もりをしてくれるサイトへの登録は、私はオススメしない。忙しかったので、そういうところに登録すると次に何が起こるか想像できなかった自分も悪いとは思う。しかし、登録した5分後、すさまじい勢いでスマホに電話がかかってきたのである。なんでか、メールで見積もりが届くと思い込んでいた私は、激しくびびった。まずはだいたいの見積額が知りたいと思ったのだ(当然、登録内容に部屋の広さやだいたいの荷物など記入する欄があったし)が、結局、電話がかかってきて見積もりのために家に来る日取りを決めることになるのである。メンドウきわまりない。

 で、私はわざわざあの最低な引越し業者に最初の見積もりに来てもらうことにしてしまった。今では「してしまった」だが、当時は、たまたま「電話がはやかった」ので日付が早くなってしまっただけだったのだ。その電話で「見積額に納得いかなかったらお願いしなくても大丈夫ですか?」と尋ねると「もちろん大丈夫ですよ。見積もりですから」と確かに、答えたのだ。

 しかし、やってきたのは輩のような人だった。スーツを着てはいるものの、明らかに柄が悪い。「荷物が多いですねー、これじゃ**は無理だなー」と否定的なワードを繰り返し、なぜか自分の自慢話を間に挟み(興味ない)、あげくに出された見積額に「次の見積もりをしてみてから」というと、態度を変えた。私は、怒られるのがきらいだし、この家には今、この人と自分しかいない。いくらなんでも暴力はふるわないだろうけど、結局「決めます」としか答えられなかった。怖かった。

 それから、引越しの日まで、いろいろと問い合わせたいことがあって何度か電話をかけたが、その人が電話口に出ることは二度となかった。(問い合わせへの返事がくることもなかった)

 引越しの日。
 予定していたトラックに荷物は載りきらなかった。それだけでも専門家としての見積力を疑うがそれはまあいい。
「*トントラックを用意しますが、もし載り切らなければ、有料で戻ってきてもう一度運ぶのは可能です」と言われていたのに、やってきた輩の子分たちはこう言い放った。

「次の引っ越しがあるので戻ってきてもう一度運ぶことはできませんねぇ」

「でも、できるって言われたんですけど」
「上の者から聞いてないんでムリっす」
「それじゃ困るので聞いてもらえませんか」
「いや、ムリっすねー」

 それからどうしたかというと、驚くべきことにその子分たちは口を揃えて「上の者」の悪口を言い始めたのだ。だいたいいつもこうしてオレらが迷惑被ってんすよー、etc。

 自分は車もないのでこのままでは困るし、実際、運んでもらえると言ってくれたのだからなんとか運んでもらえないかと頼み込んだが、追加で料金を払うのはもったいないから、車持ってる人に頼んで運んだ方がお得ですよ、などと言い出した。

 お金がかかるのは了解済みだし、頼める相手がいないからお願いしたいと言ってるのに。ムキーーーーーーーッ!!!

 見積もりした輩は、戻ってきて再度運ぶのに1万円くらいかかる、といった。(引っ越し先はごく近所なのだ。)1万円くらい、いや2万円であろうとも、可能ならば運んでもらいたかった。結局、段ボールや衣類ボックスが10個くらいと全身サイズの鏡、ダイニングチェアーがひとつ、残されたままになった。

 退去のための不動産会社との立会確認の日までには2日しかなく、仕方ないので黒い猫の運送会社に普通便で段ボール5個を10000円くらいで運んでもらった。それから、女の友人に手伝ってもらって小さなカートに載せた荷物を引きずって片道25分の距離を3往復した。鏡と椅子は手で直接持って運んだ。途中で何度も休憩したので倍くらいの時間がかかった。
 それでもまだ、部屋には運びきれない段ボールと衣装ケースが残った。