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原神。それは最高の素材を集めて作られた凡庸なキメラ。

運命づけられていたゼルダとの比較

原神は、中国のスタジオmiHOYOの第三作目のゲームとして2019年6月に発表された。

正直言ってその時点での印象は、ゼルダの伝説BotWに似ているという事に尽きる。開発者側も公に影響を認めているが、原神の場合は似ているというレベルより、ガワと冒険に必要な幾つかのシステム、そしてインベントリの画面構成、全体的なインターフェイスとアートスタイルのカラーリング、効果音の出方、画面の切り替えの雰囲気、そして決してBotWが初出ではないが料理においてバフ効果を含めた追加要素がある事、料理するための料理鍋の外観、さらにフィールドのBGMの雰囲気と各種戦闘エフェクト、スタミナ制のどこでも登れるシステム(いわゆる頑張りゲージ)、世界各地のマップ開放ポイントのエフェクト、属性武器のエフェクト及びアニメーション(武器のモーションはニーアオートマタにも似ている)、台詞のテイスト、一部の環境に影響を及ぼす属性の相互反応、木の枝に実る果物のキラッとしたエフェクト、滑空時の見た目、 さらにかなりの数の敵キャラのモデリングやモーション…
似ているということを否定するのがほぼ不可能なくらい似ている。これははっきり言って「参考にしたというレベルを超えた相似性である。

しかし、何もかも似ているのかと言えばそんなことはなく、BotWが優れたレベルデザインと、行動と攻略の自由度の高さを追求し、環境との相互作用で無限の攻略ルートや敵との対処方法を実現したのに比べて、原神の攻略ルートに関しては、昔ながらのマーカー追跡型である。ダンジョン(及びフィールドの一部)ではパズル要素のあるものもあるが、基本的に決められた手順で進んでいくもので、BotWのように最低でも三つの開発陣が想定した解法があるのとはだいぶ違う。BotWは、ユーザーの切磋琢磨によって、開発が想定していないような驚きの解き方があったりして、発売から随分経った今でもその探求は続いている。これはまごう事なき名作の証である。

問題と違和感が多いクエスト進行

原神は、ストーリー進行においても複数受諾するクエストの中から順次進めていくのだが、このゲームには冒険ランクという、クエスト解放のためのハードルがあって、低レベルではそのクエストはスタートすることもできない。一応序盤は単に進めているだけで問題なくどんどんクエストをこなせていくようになっているが、BotWはそもそものチュートリアルを終えればあとはどこへいくのも何をするのも自由だった事に比べれば、クエスト周りのシステムは凡庸なものだと言わざるを得ない。

でも、それらを鑑みても原神はそこらのコンソールのRPGと比べても素晴らしいクオリティで、中規模のJRPGや、なんなら大手のJRPGと比べても勝負できるどころか、殆どが原神の勝利に終わるだろう。さすが膨大な開発費をかけて作られたゲームだけのことはある。ゲーム内音楽に関しても、どこかで聞いたことのある雰囲気のBGMが多いが、演奏はロンドンフィルだったりしてかなりよく出来ている。

ただ、このゲームには個人的には致命的な問題ではないのだが、ゲームデザインとマネタイズのコンフリクトが起きているのは認めざるを得ない。

ここでゲームの基本について立ち返ってみよう。我々はなぜゲームに夢中になり、特にストーリードリブンなゲームでは、感情移入が相まってシナリオの展開で涙したりすらする人がいるのだろうか。
それは、例えばRPGにおいては、それが画面内のキャラクターの物語であると同時に、ユーザーである自分が体験した物語であるからだ。

ゲームをプレイするということは、すなわちそのゲームが提供する体験を私たちプレイヤーが経験しているのである。そして自分の過去や置かれた状況と知らずのうちに心の中でリンクさせて、キャラクターの痛みや葛藤や悲しみを自らの心の中に流入させる。それは主人公が喋ろうがそうでなかろうが大して変わりはない。優れたシナリオであれば主人公が喋りまくったところでゲーム体験が損なわれることはない。ロールプレイとは敵と戦って経験値を積んでレベルを上げていく事ではなく、役割を演じること、主人公やその仲間と心を一体にする事だ。

だがそうはいってもものには限度がある。シナリオで語られている状況と、画面内で起きている状況が乖離していれば体験としては著しく損なわれる事になる。

例を挙げよう。
原神の主人公はチュートリアルで各地の遺跡に行って西風騎士団の面々に協力する事になる。炎属性を持ったアンバーというキャラクターは、ほぼ最初から仲間になっていて、常時簡単に主人公と操作を切り替えることができる。
主人公の武器は剣のため、アンバーの基本攻撃である弓は遠距離攻撃がしたい時は必須の攻撃方法だ。そして、クエストマーカーに従いアンバーと共に攻略する遺跡に辿り着く。その遺跡の入り口にはアンバーがフィールド上で待っている。だが、ここでふと疑問に思う。わたしの操作キャラは主人公とアンバーなのだ。つまり、目の前にアンバーがいる状態でわたしはアンバーを操作キャラにすることができる。そして画面内には二人のアンバーがいるという極めてカオスな絵面になる。クエストの進行上、アンバーに話しかけた瞬間に主人公に操作キャラは戻されてからイベントは進むのだが、開口一番NPCクエストアンバーから出たセリフは「来たね」なのである。むしろここまで二人で協力してやってきたのだが、NPCアンバー的には「わたしはずっとここで待っていた」と言いたい素振りだ。

この後の序章のクエストもずっとこんな感じで話が進んでいく。つまり、クエストの受注元と操作キャラが一緒であることが問題なのだ。ではなぜこんな歪な構造になっているのかというと、それはこのゲームがソシャゲであるからに他ならない。
クエストでお試しで使えるようになったキャラはその後パーティーに加わる。火、氷、雷などの基本属性の仲間は一通りいないとストーリーが攻略不可になるのでこういう事になっている。そして、このゲームにはガチャがあり、当然キャラクターを引き当てることが出来るのだが、このソーシャルゲーム的なキャラシステムと、シングルプレイのオープンワールドRPG(ダンジョンなんかを各属性のギミックを動かして進んでいく)というゲームデザインが根本的にあっていないのだ。


ソーシャルゲームと参考にしたゲームの相性の悪さ

このゲームは見た目がBotWに似ていることはいうまでもないが、実はシナリオの進行時の会話等も、かなりゼルダの伝説を意識した作りになっている。そして、イベントシーンでは基本的に主人公は喋らない。主人公の意志はユニークかつゼルダ的な選択肢に滲み出ているが喋らないのである。だが、ドラクエのように絶対に喋らないかというとそんなことはなくて、宝箱を開けた時やメニュー画面でのパイモンとの会話ではボイス付きで普通にガンガン喋る。

クエスト進行時にちょっとした探索パートがあって、ほんのりウィッチャー的なものを感じるような仕組みがあるのだが、ここでも主人公は喋らない。イベントシーンの受け答えを担当するのはパイモンなのだ。なぜこんな風な流れにしたのかはよくわからない。あくまでゲームプレイの骨子はBotWだからリンクのように喋らないようにしたのかもしれないが、それならメニュー画面で聞けるパイモンとの会話(を使った世界観とかの説明)自体いらなかったと思う。

戦闘に関してはロックオンがないのに驚いたが、キャラクターの機動力が高いので快適に操作することが可能だ。属性攻撃が相互作用してさらに別の効果を生む元素システムはBotWより拡張されていてよく出来ているが、使いこなすのは案外難しい。これは前述のロックオンがない事が大きいのだが、それでも戦闘においてストレスを感じるようなことはあまりない。強いて言えば弓のエイムがヘッドショットをするには難しいということくらいか。

と、どちらかというと不満点やイマイチなところばかり書いてしまったが、逆に言えばこれらの問題点が気にならないのであれば、このゲームはモデリングやモーションの質も高いし、フィールドレベルデザインはそこまで高レベルではないものの、世界観のスケールの大きさを存分に感じられる作品である事に疑いの余地はない。しかも、コンソールやPCだけでなくスマホでもプレイできて、なおかつコントローラーにも対応しているので、バーチャルパッドやボタンに不慣れな人でも存分に楽しむ事ができる。

10段階評価で言えば8点は堅い。高レベルでまとまった優等生的ゲーム。それが原神である。


ポテンシャルがあるが故の期待

ただ、わたしはいいたい。
ここまでの作品を作る力があるのであれば、やはりオリジナリティの高い作品を作ってほしい。ひと目見ただけでBotWのクローンだと思われてしまうのではあまりに勿体無い。これだけの資金を投入して作れるメーカーが、結局(細部はそうでないとは言え)パクリメーカーと言われてしまうのはmiHOYOにしてみても気分が良いものではないだろう。

原神は決して歴史を変えてしまうほどの革命的なゲームではない。BotWは確実にゲームの歴史に残る大傑作だが、原神は志がそういうレベルに達していない。だが、これほどの技術力と資金力がmiHOYOにあるのならば、歴史的大傑作をつくる事ができるポテンシャルは絶対にある。

中国はいまゲームに対して風当たりが強い。原神は結局は優等生ではあるが、ゲームの歴史的立ち位置からすれば凡庸なキメラだったと言わざるを得ない。だが、神話のキマイラのように退治されてしまう事なく、いつかゲームの歴史に残るような大傑作をモノにしてほしいと願っている。

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