世界最古のクレームを受けた悪徳商人がクソすぎるあまり、レジェンドとして祭り上げられていた話
ある日、大学の授業中に暇を持て余した私はTwitterをいじっていました。教授が松下幸之助の人間中心的な経営理念を説明している中、とある投稿が目に留まりました。
なんじゃこれは。
画像は「もしWhatsApp(SMSアプリ)が古代メソポタミアにあったら」というコラ画像で、どうやらEa-Nasirという男が銅や払い戻しの催促を受けているようです。
古代メソポタミアのネタであることに加え、シュメール美術特有の「萌え目」を駆使した上質なクソコラを目にした私は確信しました。
大当たりだ。
幸い時間はたくさんあったため、情報収集ははかどりたくさんの興味深い小ネタを仕入れることができました。そして奇しくも、それは松下幸之助の経営理念の真逆を行く男の物語だったのです。
Ea-Nasirへの苦情
上記の画像の元ネタとなったのは「Ea-Nasir(エア・ナスィール)への苦情」という、1920~30年代に発掘されたこの遺物です。
紀元前1750年ごろ、ちょうどハンムラビ王朝末期あたりに、粘土板の表裏びっしりに楔形文字で書かれたものです。また、都市国家ウルで発掘されたこの粘土板は、ギネス世界記録にも認定された、現存する世界最古の苦情の記録となります。
もちろん紙もペンもまだ存在しない時代に、わざわざ楔形文字を打ち付ける大変な作業をしたということは相当ひどい対応をされたのでしょう。
(-ω-).。oO(怒った状態で楔形文字を刻むと、いつもより文字は濃くなるのかな)
たわごとはさておき、Nanniという男が彼に送った内容は以下の通りです。
ざっくり要約すると、
・Nanniはわざわざ使者を外国まで何度も派遣した
・Ea-Nasirは粗悪な銅を出し、「受け取るか、手ぶらで帰れ」と言った
・めちゃめちゃ高圧的だった
・払い戻せ
・ふざけんな
見ての通りのブチギレです。そらそうよ。
ちなみにその後Ea-Nasirの方から何かやり取りをしたかどうかは定かではなありません。ここまで来たらどうせ何もしてないでしょう。
ここまでがWikipediaで入手できた情報です。
その時点の私はこう思いました。
これじゃあ少々パンチが足りなくないか?
確かにこのEa-Nasirという男、イソップ寓話にでも登場してそうな、絵に描いたような悪者ですが、割とそこら辺のぼったくり居酒屋と同じですよね。
心配ご無用、彼はレジェンドの名にふさわしい、ぶっ飛んだ一面をちゃんと持っていたのです。
パンクすぎる悪徳業者
実はEa-Nasirへの苦情は複数存在し、別々の顧客から少なくとも3件は確認されています。
勘の良い人なら違和感に気付いたでしょう。
世界最古のクレームがなぜまとまった状態で保存されていたのか?
というのも、商売人にとって悪評は命取りであり、ましてや普通の人間ならすぐに捨てるなり壊すなりして無かったことにしたいと考えるでしょう。
そこが、Ea-Nasirが他の悪徳業者と一線を画すポイントであり、彼をレジェンドたらしめる要素なのです。
なぜなら、あろうことかEa-Nasirはクレームを保管するための専用の部屋を作っていたのです。
あたかも家にトロフィーを飾るスポーツ選手のように。
いや、パンクすぎるだろ!!
そこらへんの悪徳業者なんかとは違い、Ea-Nasirは完全にダークサイドに振り切っていたのです。
ぼったくり居酒屋を引き合いに出すなら、カモった客のレシートを全て飾っていたような感じに。
たいていの小説や映画は悪役が闇堕ちする背景を描いていますが、どのような人生を歩めばこのようなひねくれた生き方ができるのでしょうか。
Ea-Nasirの生い立ちがあまりにも気になりすぎて授業には集中できなくなってしまいました。元々集中などできていなかったが。
何人もの顧客を騙し、一切悪びれる様子を見せず、しいては受け取ったクレームを部屋に飾るという、剛田武も顔負けのジャイアニズム。
こんなにキャラの濃い商人、歴史を遡っても他にいただろうか、いや、いない(反語)
インターネットミームと化したEa-Nasir
Ea-Nasirのぶっ飛んだ逸話はたちまちインターネット民の心を虜にし、野蛮さのあまり祭り上げられてインターネットミームとなってしまいました。
これはどういうことかというと、一種の内輪ネタとなったという認識で間違いはないでしょう。
ここで別のツイートを見てみましょう。
(画像の彫刻は「礼拝者の像」というまったくの別人です)
これはEa-Nasirを別のミームのテンプレート(この場合、人に聞いてはいけないタブーを揶揄している。Ea-Nasirに払い戻しを求めてはならない。)に当てはめた二次創作であり、他のミームでもよく見られるような光景です。
また、いいねが数千もつくということはそれ相応の知名度がないと難しいです。
つまり、インターネットミームになるということは、世界規模の内輪ネタになることに加え、別のミームと組み合わせた大量のクソコラが電子の海へ放たれるという事を意味するのです。
ちなみに、Ea-Nasirがミームとして使われ始めたのは2017年ですが、2023年に再ブレイクしています。調べた結果、理由はわかりませんでした!
また、広く認知される前の2004年にも大量の検索件数が確認されています。調べた結果、理由はわかりませんでした!
余談ですが、Ea-Nasirはその後銅の商売から撤退し、不動産などの利益率の低い事業を営んでいったようです。
やはり悪評にはさすがに勝てなかったのでしょうね。これもまたイソップ寓話みがあります。結局、松下幸之助の理想とした人間中心の経営が長期的な視点で見ればうまくいくのでしょうか。
というわけで、これまでEa-Nasirという古代メソポタミアのレジェンド商人を紹介してきました。”Ea-Nasir memes” と検索すれば他にもいろいろなクソコラがあるので、もし良ければ見てみてください。
しかし、3700年前にも現代と同じような商売のいざこざがあったというのは、ある意味人類は進歩していなくて面白いですね。
なんなら現代にもEa-Nasirはまだいます。
お主、Ea-Nasirが過去の人だといつから錯覚していた?
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