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「Just a Gigolo(ジャスト・ア・ジゴロ)」

またまた映画のお話。こちらの舞台もベルリンです。
まったくボウイさんとこの街の所縁の深さは只事ではない。

第一次世界大戦後、敗戦国ドイツの青年将校だったポール(ボウイ)が祖国に帰還。
敗戦のショックでエリート将校としての誇りを失った青年がジゴロに身をやつす生活の中で何とか自己を取り戻そうと奮闘する姿を描いたストーリー。

ボウイさん曰く「軍服を脱いで自己を見失った男が、ジゴロという『制服』を着ることによって再び生きる意味を取り戻そうとする物語」。

公開前のスチル写真のボウイさんの水もしたたるジゴロっぷりにさぞや多くの女を破滅させる魔性のジゴロの退廃&背徳ストーリーかと思いきや…

生きる意義を見失い、なすすべもなく時代に翻弄される繊細な青年ポールをボウイさんは大好演。
女を惑わす危険なジゴロどころか、真面目で不器用で一生懸命なポールのイノセントでいじらしいこと。

そして特別出演のマレーネ・ディートリッヒ77歳の存在感は圧倒的!
とても強い眼力、お肌も潤いがありつやっつや。
もう出てくるだけでその場の空気の色が変わります。

暗く重いテーマを扱った社会派ストーリーであるのにもかかわらず展開は軽ーいコメディタッチでテンポよく進み、まるで70年代の少女マンガのよう。

女性ファンなら誰もが楽しめる映画だと思いますが、評論家からの評価は低くドイツでのプレミアは散々、イギリスでの配給会社も決まらず、日本では渋谷陽一氏がラジオでけちょんけちょんにケナしていたこともよく覚えています(笑)

それでは、一体何が一番の敗因だったのか?
ずばり、これが監督デビュー作であるデヴィッド・ヘミングスの力量不足に尽きると思います。

初めてこの映画を見た学生時代には、とにかくボウイの美貌と映像の美しさに魅かれシリアスなテーマを軽妙洒脱に仕上げた「お洒落なロマンチックコメディー」として自分の記憶の中にはとてもよい印象で残っていました。

しかしこのたび数十年の時を経て改めて視聴してみると…

「ボウイさんが延々セクハラされるだけの映画」でした(笑)(笑)
70年代の少女マンガどころか、随所に見られる悪い意味での軽さ、チープさは今はなき「昼ドラ」の世界に近い。
特にキム・ノヴァックにペット扱いされる諸々のシーンの軽薄さはかなり見るに堪えない酷いもの。

勿論、面白い部分も沢山あり、幼馴染役のシドニー・ロームを始めとする女性たちの過去を振り返らず今を図太く逞しく生き抜く力強さと、ジゴロとしての生活を始めても過去のプライドに囚われたままのポールの脆さ。
この男と女の生き方の対比がとても面白い。

最近になって、映画公開時とは別編集のDVDを視聴しましたが、序盤戦場でイギリス兵と間違えられて救出されたポールが病院のベッドで目を覚ますシーンが全面カット。
その他にもちょっとしたギャグシーンやデヴィッド・ヘミングスのホモっぽい言動も大幅カット。
ラストの花嫁衣裳で葬儀場に入って来るシドニー・ロームのシーンもカット。

それだけでもかなり全体的な印象が硬派なものに変わっており、これは編集次第ではもっともっとちゃんとした映画になるのではないか(笑)。
何なら今からでも再編集して再び世に出せば…評価が違って来るかも知れません。
3時間版のDVDも現行販売されているので、近々購入して見てみようと思います。
カットされたシーンが1時間以上もあるわけで、全体を通してみれば案外思った以上の名作だったりして(笑)

ふと思ったのですが、この映画をもしもベルナルド・ベルトルッチのような大監督が撮っていたとしたら…
社会派でもあり、華麗なる映像美とエロティシズムで知られる同監督であれば、もっと重厚感に満ちた格調高い仕上がりとなり、テーマもより明確化され、あるいはボウイの代表作として、後世に残る名作となりえたかも知れません。

しかし内容はどうあれボウイさんのPVとして観るならば文句なく「地球」に次ぐトップクラスの完成度です。
10数億もの製作費をかけ、欧米の名だたる女優陣を配しながらも大コケし、主演のボウイからは「なかったこと」にされてしまい、ディートリッヒの遺族からは怒られ、いつまでもトンチキなB級作品扱いのかなり不憫なこの映画ですが、実はファンからはとっても愛されている作品であると思います(笑)。