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なにもない自分を悟られないよう必死に取り繕う けどあのひとは全部分かっている 私がつまらない人間であることも 少しでも 何か を持っている人すべてに強烈な劣等感を抱いていることも あのひとに向ける気持ちさえ そういう汚いドロドロしたなにかを含んでいる
あのひとは今ごろ眠っている 寝息をたてている 目をつむって ふとんに寝転んで 私とは無関係に 生きている 確たるものなんてどこにもなくて どこのだれのなににおいても
皆 足場があると思っている 安定がそこにあって 運悪く あるいは仕方なく 足を踏み外すとか 不安定に なる と思っている 今まさに大きな裂け目 クレバス 柔らかな布がふんわりかかっただけのそれ の上をうろついているだけかもしれないのに

自信を持ちなさい と言う みんな違ってみんないい と言う 存在しているだけで尊いことなのだ と言う
それは全部 生まれたからには ということで 踏み固められた地面の上で説かれること

何もないことに怯えるのもそう 私も 組み合わされた世界の中で どうしたって自分を認めることができない とか 能力が低い とか 枠にはまらないという枠への激しい嫉妬 とか のらりくらりとしていたい と口先だけで唱える白々しさ とか

小さい とてつもなく小さい その小ささは ケチくさいとか 狡いとか ダサいとか そういう意味のそれ 私は小さい 死にたいのではない ただいることがなかったことになって消えてなくなりたいだけ 私を無二のようにあつかうわずかな人々 がいることに なにを感じたらいいのか 幸福なのか 窮屈なのか わからない

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