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【中級編】「夫婦別姓訴訟」最高裁判決の崩し方

前回の初級編では、平成27年判決が、「夫婦同姓制がギリギリ合憲であることを示し、選択的夫婦別姓制度等の検討を国会に求めた判決」だということをお伝えしました。

判決について、このような理解が広まれば、国会も動かざるをえなくなると思います。

しかし、このような理解を、草の根の活動で広げていくのは、膨大な時間がかかってしまいます。

そこで、今回の中級編では、平成27年判決を構築するロジックを解き明かし、そのロジックに乗っかって、改めて違憲判決を導くにはどうすればいいかということを考えていきます。

さて、もしかしたらこの時点で、次のような疑問を抱いた方もいるかもしれません

「一度合憲判決が出たのに、違憲判決を出させることなんてできるの?」

実は、それが可能なんです

その辺りの詳しい理屈については、憲法や民事訴訟法の勉強が必要になるのですが、ポイントはこういうことです

だからといって、無闇矢鱈に訴訟を提起しても、費用と時間のムダになってしまいます

そこで、どのようなケースで、どのような事実を主張し、どのような証拠を提出すればいいのか、その手がかりを得るために、判決文のロジックを解き明かすことが必要になります。

それでは、中級編、スタートです

中級編

判決文は、次のとおり非常に長いものになっていますが…

大きく分けると、次の6つのパートに分かれます

そして、このうち特に大事なのが、②③④です

結局はどの部分でも、憲法違反はないという結論になるわけですが、それぞれでどのようなロジックがとられたのか、順番に見ていきましょう

まずは、一番量の少ない、14条のところから

14条

憲法14条は、知っている方も多いかもしれませんね

いわゆる「法の下の平等」が定められています

もっとも、「平等」と一言で言っても、そこには色々な意味があるところ、裁判所は昭和39年以来、憲法14条は「不合理な差別を禁じた規定」だと考えていて、この判決でも同じ枠組みが取られています

具体的に、「不合理な差別」がされているかどうか、次のような2段階のテストを経て判断されます

①そもそも「別異取扱い」が行われているか
②「別異取扱い」の根拠が合理的か

裁判所の枠組みでは、①②の両方を満たして初めて、14条違反が認められます

それでは、以上の14条に関する判断枠組みを、民法750条に当てはめていきましょう

ここで改めて、民法の規定をご覧になって気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、法律自体は「夫又は妻の氏」となっています。つまり、「結婚したら必ず夫の氏を名乗らなければならない」というような形にはなっていないのです

裁判所も、ここに着目し、法律自体によって、別異取扱をしているものではないとして、①の段階で14条違反を否定しています

これが裁判所の14条に関する判断ですが、この部分については、裁判所の判断を覆すのは難しいように思います。ですから、ここはまず、大人しく引き下がりましょう

(個人的には、法律がこうなっているのですから、今の時代、もっと「妻の氏」に合わせるカップルがいてもいいと思うのですが、いまだに95%を超えるカップルは「夫の氏」を選択しているみたいです。もちろんそこには、「親世代の圧力」というのが作用しているのでしょう。ただ、個人的な経験からすると、女性の中には、自分の名字をパートナーの男性の名字に変えることに憧れを抱いているような方もいて…。でもこれも、恐らく幼少期からの刷り込みの影響なんでしょうね)

13条

次に、13条にいきたいところなんですが…

実は、ここで扱うことになる「人格権」というものが非常に難しい概念で、また、ここの裁判所のロジックは怪しいところもあるので、上級編でまとめて扱うことにします

24条

ということで、24条です

24条については、「立法裁量の逸脱」が争われているのですが、これは要するに、国会に与えられた立法権の範囲を超えて、法律が維持されていたのではないかということです

「立法権」と言われてもピンと来ないかもしれないので、簡単に説明しますね。(「そんなの当然わかってる」という方は読み飛ばしてください)

小学校とかでこのような図を見たことがあるかと思います。

「三権分立」と言われるものですね。

日本には国会・内閣・裁判所という3つの権力機関があり、それぞれ立法権・行政権・司法権を有しています。

ここで重要なのは、国会の立法権、内閣の行政権、裁判所の司法権は、いずれも日本国憲法によって与えられたものだということです。

それに加えて、憲法24条は、婚姻に関して、国会の立法権に一層の制限をかけています

裁判所としても、憲法24条2項の趣旨をそのように解釈しています

つまり、いくら国会議員が選挙で選ばれたとしても、国会がなんでもかんでも法律として定めることができるわけではないということですね

そこで裁判所は、夫婦同姓制を定める法律を維持することが、憲法が国会に与えた権限を超えていないかということを判断していきます

その判断をしているのが、判決文でいうとこちらの部分

これ、具体的に何をしているのかというと…

夫婦同氏制のメリットとデメリットを比較しているのです

つまり、メリットの方が大きければ合憲になり、デメリットの方が大きければ意見になるということですね

さて、ここで具体的に中身を見ていくと…

メリットの側に書いてあることがかなり微妙な感じで、このままいけばデメリットの方が圧倒的に大きくなりそうです

ところが、裁判所が最後にあることを付け加えます

この、「通称使用による不利益の緩和」という理屈で、デメリットの方が旧に軽くなり…

最終的には24条に関しても、憲法に違反しない、つまり、合憲という結論になったのです

裁判所のいう理屈も、分からなくはありません

この世界は、自然発生的な現実レイヤーと、人々が共同幻想として作り上げた法律レイヤーの、2つのレイヤーから成り立っているからです

今回、「夫婦同姓制」が問題となっているのは、そもそもは法律レイヤーにおける「法律上の氏名」の話です

普段、人と話しているときに「この人の戸籍上の名前は何だろう…」なんてことを意識しないように、日常生活においては、通称も含めて、どのような名前を名乗ることだってできるのが原則です

ですから、たとえ結婚しても、役所に提出する書類等を除いて、仕事や生活の中で旧姓使用を続けられるのであれば、日常生活において、夫婦同姓制が及ぼすデメリットは小さくなるのだ、というのが裁判所の理解でしょう

ただ、裁判所のこの考え方は、本当にそうなのか、怪しいところがあります。

たとえば、私達の多くは、労働者として会社に勤めることになるわけですけれども、会社は身元を保証するために、戸籍やそれに紐付いたデータを参照することがあります。そして、会社の便宜のために、社内において、旧姓使用を認めず、戸籍上の名前を使用するように求められることが往々にしてあります。

そのような場合、法律レイヤーの存在であった夫婦同姓制が、現実レイヤーの氏名にも悪影響を及ぼしていることになるわけです。

さらに、この部分については、裁判所が当時有していた認識に基づいて判断した部分であり、判断の基礎が薄いところです

ですから、攻めるべきはこの部分なのです。

「通称使用による不利益の緩和」という裁判所の考え方を否定することができれば、結局、夫婦同姓制は「デメリットの方が大きい」すなわち「24条違反」という結論を導くことができるはずです

それでは、そのために我々はどうすべきなのでしょうか

我々がすべきことは、まず、「通称使用が認められない場面」というものを、発見し次第記録し、たくさんストックしておくことです

そして、次に夫婦別姓訴訟を行う国民がいたら、その原告を通じて裁判所に情報提供するのです

最初に説明したとおり、裁判所は、当事者の主張した事実と提出した証拠に基づいて判断します。そこで、「通称使用による不利益緩和」というロジックを想定して、予めそれを否定する材料を沢山入れておくのです

そうすることによって、裁判所は、今回の判決のように安易に「通称仕様が社会的に広まっている」とか言うことができなくなり、結果として、異なる結論が出る可能性があるのです

ちなみに、上の図の中に東京地裁の平成28年10月11日という裁判例を載せておきましたけれども、これはそのようにストックすべき例のひとつです

これは、私立の○○大学が設置する中高一貫校において、その教員が、旧姓使用を希望したにも関わらずそれを学校側が認めなかったことから、損害賠償を請求した事件です。

結論として、損害賠償は認められませんでした。

旧姓の使用を認めないのは「さすが○○大学、ヤバイな」という感じもするわけですが、まあそれはおいておいて。

大事なのは、現実に、「通称使用が広まっている」などとはいえない事態がいまだに存在していて、そして、そのような事態について、裁判所を通じた是正をすることもできないということなのです

このような事実をたくさんストックし、裁判所に訴訟で情報提供することが、裁判所の判断を変えさせるポイントになります

ということで、以上が、24条についてのお話でした。

中級編は以上になります

次回の上級編では、13条の部分を詳しく見ていくことになります

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