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【裏技編】「夫婦別姓訴訟」最高裁判決の崩し方

初級編・中級編・上級編と続けてお読み頂いた皆様、また、この裏技編からお読みいただいている皆様、この記事をご覧いただきまして、どうもありがとうございます

今回、平成27年判例を読み解くに伴って、結婚に関する法令等を調べていたところ、法改正や判例変更をすることなく、今の日本の制度の中で「夫婦別姓」を実現してしまえる裏技を発見したので、それをお伝えしていきます

その裏技とは、すなわち

というものです

まあ、「戸籍回避措置」という言葉は私の造語ですし、これだけでは分からないと思うので、詳しく説明して参りますね

まず、法律の規定を改めて確認してみましょう

平成27年判決では、民法750条の規定が問題とされました

ただ、日本国籍の人と外国籍の人が結婚する「国際結婚」の場合に夫婦の名字を統一する必要がなかったりするなど、実は750条はかなり形骸化してしまっている規定です

実際に、夫婦別姓を実現したい人のハードルになっているのは、実は、民法739条と戸籍法74条なのです

民法739条が、婚姻を成立させるための形式的な要件について戸籍法に委任し、戸籍法が、婚姻届に「夫婦が称する氏」を記載することを義務付けているのです

実際に、婚姻届を見てみるとこんな感じで氏の選択をする欄があります(この婚姻届は、つい先日、文京区役所でもらってきました)

上のような法律の規定があるので、この欄を記入せずに提出しても、受け付けてもらえません。また、行政手続法37条も「記載事項に不備がないこと」が要件になっているので、法令で定められた事項が記載されていない場合には、発動できません

行政手続法第37条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

ちなみに、素直に指示にしたがってどちらかにチェックを入れて提出すると、次のような戸籍が編纂されます(ここでは、「妻の氏」を選択してみました)

まず、選択した氏を筆頭者とする戸籍が新たに編纂され、そこに、配偶者の戸籍が追加される形になるのです

こうして、戸籍上の名字が統一され、夫婦同姓が実現しているというのが日本の現状です

ただ、このような民法・戸籍法からもう少し視野を広げてみると、こんな法律があることに気づきます

「法の適用に関する通則法」というのを初めて聞いたという方も多いと思います

これはいわゆる「抵触法」と言われるもので、1つのケースに、複数の国の法律が適用される可能性がある場合に、どの国の法律を適用するかという前捌きをする法律なのです

そして、その中には、婚姻に関する条文もあります

そして、その規定によれば、婚姻年齢などの婚姻の実質要件については、本国法によるが、届出等の婚姻の形式的要件については、婚姻挙行地の法によることになっています

例えば、日本国籍の女性と、イギリス国籍の男性が、日本で婚姻する場合、婚姻挙行地は日本ですから日本法が適用され、先程の戸籍法が求める婚姻届を提出することで婚姻が成立することになります

ただし、外国籍の方は戸籍をもともと持っていませんし、また、日本人と結婚したからといって、新たに戸籍を取得するわけではありません

ですから、戸籍上の記載は次のようになります

このような状況だからこそ、外国籍の方との国際結婚では、夫婦の名字をそもそも統一する必要がないということなんですね

さて、ここで鋭い方なら既にお気づきなのではないかと思います

もし、日本人同士が婚姻する場合で、婚姻挙行地を日本以外の外国で行ったらどうなるのかということを

実は、たとえ日本人同士であっても、婚姻挙行地が外国であれば、その国の方式によって正式な婚姻を成立させることができます

例えば、アメリカのハワイ州の場合には、このようなウェブサイトまで用意してあります

アメリカの市民でなくても、マリッジライセンスを取得し、ハワイ州で婚姻できるということが書いてあります

さらに、外務省のHPには、このような記載もあります

もっとも、ここに記載があるとおり、婚姻「した」事実を戸籍に記載するために、日本にも、現地の婚姻証明書などを提出する必要があります

ちなみに、このHPもよく見ると(4)(A)のところで「婚姻届」を出すように書いてあり、その中には氏の選択をする欄があります

そこで、この氏の選択の欄も記入して出した場合には、次のような戸籍が編纂されることになります

緑色の部分が、まさに外国方式の婚姻の特色ですね

ところで、先程の外務省HPで記載のあった、3ヶ月以内に外国の婚姻証明書等を出さなければいけないというのは、戸籍法に定められていることです

ただ、実は、ここで求めているのは、あくまでも外国が作成した証明書であって、このような場合に日本形式の婚姻届を改めて日本に出すことまで、法律で要求はされていないのです

このように、実は、外国で婚姻した場合に提出する婚姻届と、日本で婚姻するために提出する婚姻届とでは、性質が大きく異なります。実務上、前者は単なる報告にすぎないことから「報告的届出」と呼び、後者は新たに婚姻の効果を発生させるものだから「創設的届出」と呼ばれたりしています

だからこそ、たとえばアメリカ合衆国にある日本大使館のHPにおいては、外国方式で婚姻した場合の「報告的届出」の場合に、「証人欄の記入は不要」としています。民法上、婚姻の届出には、成年の証人2人以上の署名が必要であるにもかかわらず。

同様に考えると、実は、「報告的届出」の場合には、戸籍法74条の規定もかかってこないので、「夫婦が称する氏」を記載する必要も、実はないということになります

戸籍法74条は、そもそも「婚姻をしようとする者」が主語になっていますから、既に外国方式で婚姻をした人はそもそも対象にならないのは、この点からも明らかですね

ここまでくれば、みなさんわかりましたね

つまり、私が今回お伝えしたい、今の日本で夫婦別姓を実現する裏技とは…

ということです

ただ、ここで気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか

外国の方式で婚姻した場合、きちんと日本法での婚姻と同様に扱ってもらえるのかと

ここで、もう一度、法の適用に関する通則法を見てみましょう

この25条によると、婚姻の効力は、日本人夫婦の場合、日本法によることになります

ですから、外国の方式で婚姻をしても、日本法の婚姻の効力を得ることができるのが通常です

もっとも、同性婚カップルの場合には、そもそも日本法が実質的要件として異性同士であることを求めているというのが現在の政府の解釈ですから、外国方式で婚姻がたとえ成立したとしても、日本法の婚姻の効力を得ることができないという運用が、現時点ではなされているようです

また、配偶者の権利として特に重要な相続権や配偶者控除に関しては、個別に民法や所得税法の「配偶者」という言葉の解釈が問題になりますが、これも問題ないのではないかと考えています。なぜならば、これらの「配偶者」という言葉には、外国籍の人同士が外国方式で婚姻した場合ですら含めて運用されていますから、日本人同士が外国方式で婚姻したとしても、同様に適用の対象となるのが筋でしょう(もちろん、実際にこのプランを行動に移す際は、専門家に心配なことを全て相談した上で、ひとつひとつ疑問を解消していくプロセスが重要になります)

さて、このようにして、夫婦別姓を実現したい人の望みを叶えることはできそうなんですが、恐らく、このような場合、役所の方としては困ってしまうと思います。前例がなくて、戸籍をどのように編纂すればいいのか分からないからです

私自身の考えとしては、次のように、それぞれの戸籍の身分事項欄に、婚姻に関する情報を記載すればいいのではないかと考えます

もし、子供が生まれた場合には、子に名乗らせる名字の選択に従って、いずれかの戸籍に追加すれば家族との関係も明瞭です

ただ、実は戸籍法には次のような規定があるので、役所の担当者を困らせることになるのです

その一方で、戸籍法施行規則には次のようなルールもあります

繰り返しになりますが、これは別に、私達国民の側が頭を悩ませる必要はない事柄です。ただ、役所の内部では、非常に困ったことになるのです

そうなった場合、想定されるのは「役所の担当者による受取り拒否」です

ただ、安心してください。戸籍法は国民の見方です

もし、戸籍に関して、受け取るべきものを受け取らなかったり、適切な記載・記録を怠ったり、その他職務怠慢があった場合には、市町村長が10万円以下の過料を払わなければいけなくなります

ですから、外国方式の婚姻をして、氏の選択をしていない報告的届出の婚姻届を、役所が受け取ろうとしないときにはこう聞いてみましょう

「本当にそれでいいんですか? このままだとそちらのボスが、10万円以下の過料を払うことになりますけれど…」と

別に私は、役所の人を困らせたいとか、そういうつもりは一切ありません

ただ、選択的夫婦別姓制度がなかなか導入されない日本で困っている人を助けようとしたら、他に、困る人が出てきてしまったのです

これ、もちろん役所の担当者や市町村長さんが悪いわけではないのです

ただ、逆に、今の制度の中で工夫をして、夫婦別姓を実現しようとする方々も、悪いとは言えません

本当に悪いのは、ろくに議論もせずに選択的夫婦別姓を導入せず、夫婦同姓制を強制する法律を維持してきた国会なんです

ですから、万が一、上記のような事態において、市町村長さんが過ち料を払うような事態になったら、是非、国会の立法不作為を原因とする国家賠償請求をしましょう。そのときは、私も力になりますから

ということで、以上が、今の日本のフレームワークの中で、抜け道をして、夫婦別姓を実現する裏技でした。

もちろん、海外まで申請しにいくコストはかかってしまいますから、無理に進めることができるものではありません。ただ、夫婦別姓訴訟を起こして労力と時間と費用をかけるよりは、ハネムーンのついでに外国方式で婚姻をする、という方が、コストパフォーマンスはいいと思います

また、「な〜んだ、結局、一時しのぎの方法じゃないか。こんなんじゃ、問題の本質は解決しない」と思われた方もいるかもしれません

ただ、実は、この方法、その場しのぎの方法というだけではなく、夫婦別姓訴訟の判断にも影響を与えるものなのです

ここで、中級編でみた、憲法24条の判断枠組みを思い出してみましょう

そこでは、夫婦同姓制のメリットとデメリットが比較されていたわけですが、メリットとしてあげられていた「基礎的単位の呼称を統一」とか「家族の一員であることの公示・実感」とかは、今回提示したような方式での婚姻が広まって、名字がバラバラの夫婦が日本社会で上手くワークしていることを示すことができれば、否定できるものです

そして、夫婦同姓制のメリットが否定できるのであれば、結局、夫婦同姓制にはデメリットしかないことになり、24条の観点から違憲であるという結論を導くことができます

ですから、もちろん、軽々しくとれる手段ではないと思うのですけれども、是非御一考頂いて、このような考え方に御賛同頂ける方は、是非、専門の弁護士に御相談の上で実行して頂ければなと思います

それでは、最後までお付き合い頂きましてどうもありがとうございました

誰もが住みやすい社会になることを祈って、今後も活動を続けたいと思います

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