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snafu_2020
懐古美術館 #シロクマ文芸部
「ガラスの手」という題名の現代アートを前に、私は30以上佇んでいる。閉館1時間前に滑り込んだので、もうあと数分しか観覧時間はない。周りには人気がなく、薄ぼんやりとした照明だけが其れを照らしている。何度目になるか分からないが、小型ライトを掴んで、展示物を照らす。
ガラス面に浮き上がる無数の手の跡。最後まで沢山の人を乗せて運んだのであろう、電車の自動扉のガラスに、車内に渦巻いていたであろう人臭さを垣間見る。もうどれくらいの間、満員電車に乗っていないだろうか。すし詰め状態の車内の熱気と、扉の上部を掴んでお尻でぎゅうぎゅうと身体を捩じ込んでくるサラリーマン達を思い出す。
再びライトを消すと、「ガラスの手」は見えなくなった。
来月新しい仕事が決まった。もう私が、このガラスに手をつく事はない。実家に帰って畑を手伝う。次の「浮き出る」シリーズは、きっとそこから着想を得ることになるだろう。