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はじはじのつづき『緑の療養所』

シモーヌさんの企画に参加させていただきます。
今回はこちら、の続きを。

この療養所を利用するのは、5度目だ。

近ごろ、活気のない日々が続いていた。

日差しもあまり入らない。

私も彼女もなんだか萎れてきていた。

彼女は、「またお願いします、」と言い残し、

帰って行った。



私は、彼女がヘアサロンの、

新人アシスタントとして採用された

2年前の春にやってきた。

つまり、同期みたいなものだ。

私への栄養や水分補給も、彼女が進んで引き受けた。

誰から押し付けられた訳でもなかった。

歴が浅く、未だに新人扱いされる彼女が、

毎日囁くように私に話しかけるのを、黙って聞いた。

だから、彼女を癒す為に、頑張ったけれど、

繰り返す日々に疲れてしまった。

それは彼女も同じだったのだと思う。



けれども、

最近の彼女は私をここに置いていくばかりで、

自分を労うことはないのだった。

(ここに来ればベンチで日向ぼっこできるのに)

(ここに来れば満点の星空がみられるのに)

(ここに来れば…)




どれほどの日が昇って沈んだろうか。

私は療養所の一部になりつつあった。

そんな時、「ありがとうございました!」

と懐かしい彼女の声がした。

心なしかハツラツとしているように見える。

(あ、髪型を変えたのか!)

思い悩んでいたような表情はどこにもなく、

服装も随分シンプルなものになっていた。




私達は今日から、

日光のよく当たる窓辺で一緒に暮らすことになった。

そこから見える景色はとても綺麗で、

あのヘアサロンからは見えなかった森が見えた。

もしかすると、あの森が診療所だったのかもしれない。


トップ画はエディさんの写真を
使用させていただきました。

とい。