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実父に会う②

「いやあ、もうだめだよ。」
父はそう言う。

従妹や亡き伯母に、彼が心臓のバイパス手術を受けたことは聞いていた。
だが元気そうであり、僕は、歳とったなあ・・ということの方を感じていた。

僕には父の記憶がない。だから、なにか親戚のおじさんと話しているようだった。

おもむろに父が話し出す。

「ゆきが神社にお参りに行ってくれたって、アイツ(亡くなった伯母のこと)が泣くんだよ、電話の向こうでさ・・」

涙で言葉が詰まっている。
どうやら、伯母が患った際、月2回、神社にお祈りに行っていた事を聞いたようだ。
僕の2人の娘がもらい泣きしている。

「身体は大切にして下さいよ。」

そう告げた。

それからは家族の紹介とか、僕の近況とかを話し、場は穏やかに和んでいた。
「孫」に会えたことは、彼のこの上ない喜びになったに違いない。

「写真を撮ろう!」

父はそう言った。
その写真をどうするつもりか、僕は少し戸惑ったけれど、まあいいかとなりゆきに身を任せる。

約束の時間はあっという間に過ぎて、父は宴席に移動することになった。

玄関に出ると、

雨だ


予報にない「雨」が降り始めていた。

僕は、

ああ、浄化の雨だな・・


と、天にお礼を言った。

結局僕は、当初考えていたことを一つも口にすることはなかった。その日は、父へのギフトの日となったわけだ。

僕は思った。

これで良かったな。

別に言わなくてもいいではないか。
皆がハッピーになれたのだから、それでいいと。

そしてふと感じた。

これが狐の導きか・・

と。

道案内の狐。
そっちに行くなと噛みつく狐。
そして、黙って道を示した狐。

僕は間違わずにその「道案内」に従った。無意識に。
であればそれは間違いではないはず。

お金や親、過去に囚われる道を手放して、僕は違った道を歩み始めた。

これでいいと思う。

ありがとう、狐さん。


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