「血染めの才」本編

冬晴れの静かな雪原に、鋭い銃声が2つ響いた。
互いに視認できる距離にいながら決着がつかない。
すると、突然木から身を乗り出したところで動きが止まった。
今だ!というタイミングで
「何やってんの!」
声が聞こえたと同時に一瞬視界が遮られ、後ろ手を抑えられて押し倒された。
「痛ってぇ!何すんだ!」
「あんたこそ何やってんの!そんなおもちゃの銃で」
顔を上げるとランドセルを背負った女児と警察官らしき中年男性がいた。
「俺はトレーナーだ!そしてこれはおもちゃじゃねえ!」
警官がちょっと失礼とポケットから財布を取りだし、身分証を確認した。
「えーっと、夏目 鋼太郎 16歳 火神 咲耶 代行…?」
男はこちらを睨んでいた。

無線で確認したところ、どうやら本当に警察関係者らしい。
お詫びとして、お父さんのレストランに連れてきた。
「ごめんなさい。本当に警察の人だったなんて…」
片手で栗色の短髪をいじり、もう片方でジュースを飲みながら謝る。
「娘が申し訳ありませんでした…お代は結構ですので召し上がってください」
「でもさ、こんなおもちゃの銃で戦ってたら不審者だよ?小6の私だってあんなのでもう遊ばないよ?」
「おもちゃじゃねえって…見せた方が早いか。水丸、チェンジ。」
テーブルのおもちゃ銃がお茶碗くらいの大きさのゲル状の生き物になった。
「うわっ、なにこれ!?」
「ギフターズみたことないのか」
今から100年前、ある惑星から送られてきた生き物ギフターズ。彼らの生態系保全及び悪用による犯罪を防ぐため、日本では彼らの所有は国家資格だ。
「国の認定資格を持ってる人をトレーナー、中でも日本各地域に1人ずつのトップトレーナーは警察権を認められてる。それを預かってるトレーナーを代行って言うんだ。学校で習わなかったか。」
ジュースを飲みながら悪態を吐かれた。
「あるけど見るの初めて…あ、私はお前って名前じゃない。三春 多喜」
言うと、スライム状の生き物はB5サイズくらいのボードを作り、
ぼくはミズマル よろしくねミハル
と型抜きの要領で文字を作った。
「この子かわいい!こちらこそよろしく水丸!」
頭をなでると嬉しそうに震えた。かわいい。
和んでいると、夏目は驚いたような顔をしてこちらをみていた。
「…お前、水丸の言葉が分かるのか?」
「え?」
「基本的にギフターズとコミュニケーションは取れない。長年一緒にいれば、多少は何を言ってるか分かるようになるもんだが…」
何か思いついたように身を乗り出す。
「なあ、協力してほしいことがあるんだけど」
「え、内容による」
「お前…悪かったって自覚があんのか…」
ひとまず飲み物を取りに行くと、父親が改めて謝罪をした。
「本当に申し訳ありません。同情してくれというわけではありませんが、今日はあの子の母の命日なんです。山際の立ち入り禁止区域で遊んでいて行方不明になったあの子を探して土砂崩れに…それ以来、私を心配させるようなことは一切していません。私に残された大事な愛娘なのです。山奥の墓参り帰りに大変なご迷惑をお掛けしましたが何卒…」頭を下げられて
「いやいや、大事には至ってませんからこちらも事を荒立てるつもりはないです。ただ、少し多喜ちゃんにこの周辺を案内してもらってよろしいですか」
「もちろんです。何もない村ですが、楽しんでいってください」
言っていると、村の駐在さんが戻ってきた。
「いや~すみません。本部に確認したらどうやら本物のトレーナーさんのようで!すんませんね!」
「そうでしょう。まあ良いですよ。それより、ちょっと三春ちゃん借りていきます」
渋る三春を少々強引に連れ出した。

歩きながら会話をする。
「ねえ、私に何させる気なの?」
「この地域に変わった狼がいるって聞いたことないか?」
「ああ、お父さんが言ってた。目が緑色のきれいな狼がいるって。でも危ないから近づいちゃいけないって言ってたよ」
「そうだな。火を吐くからな。」
「何言ってんの?狼はそんなことしないよ?」
呆れている。
「普通はな。ギフターズなんだよ。そいつを仲間にしたい。」
「仲間にしてどうするの?」
「別に関係ないだろ」
「何か悪いことに使われたら嫌だから教えて」
はあぁ~…ため息を吐きながら渋々答える。
「『反才会』っていう連中を取り締まるためだ。さっきも言ったが、俺は警察権を預けられてて、ギフターズを排除しようっていう過激な連中を追ってる。」
言うと、夏目は内用液が緑色をした注射器を取り出した。見るからに怪しい。
「怪しいだろ。実際そうだ。こいつを撃てば一定時間命令を聞かせられる。これで暴れさせて最後は自殺させるのが奴らの手口だ。これで反対派を襲わせといて、その危険性を主張する自作自演のクズ共だ。俺はそいつら全員ムショにぶち込むために動いてる。」
立ち止まり、正面に向き合う。
「狼たちの居場所が知れれば追加の追手が来かねない。事情を説明してわかってもらうために、三春、お前の力を借りたい。頼めるか」
まだ信用しきれてはいないが、うなずいた。怒りに滲む口調から本気が伝わってきたからだ。

狼たちがいるという洞穴につき、中を進むと体育館くらいの空洞があり、最奥に山ほどの植物と、その前に鎮座するひときわ大きく鮮やかな緑色の目をした狼が座っていた。
そして、あたりを囲うように狼たちの緑色の目がこちらをうかがっていた。
奥のボスらしき狼が口を開く。
「人間が何の用だ?」
「お願いがあってきたの!私たちの仲間になって!」
「ならん。去れ。」
「待って!話を聞いて!」
オオカミが驚いたように目を見開く
「貴様…私の言葉が分かるのか」
「わかるよ。お願いにきたの。」
夏目から教えてもらったことを話したが、大狼は大きく笑い、周りの狼たちも大きく笑った。
「これはこれはご忠告痛み入る!人間の娘、お前が言っていることが本当だとして、私たちはここを動く気はないよ」
「そんな、どうして…あなただけじゃない!あなたの家族や友達も危ないんだよ!」
「いいかい小娘。私たちは代々100年この地で生き抜いてきた。私たちを狙う他の生物や人間を幾度となく相手してきた。これからもそうだ。そんな訳の分からないもんに尻尾まいて逃げるくらいなら、この地で死んだ方がマシさね!」
分かってないようだから隣の男にも伝えてやんな。そういって笑うと
「さあ立ち去りな!この私の決定だ!これ以上人間と口を利くつもりはないよ!」
口を大きく開けて吠えた。
「…わかった。夏目、帰れって」すると、夏目が口を開いた。
「あんたらはボスがいうことが絶対って感じだが、ボスはどうやって決めるんだ?」
大狼は不機嫌そうに、
「そんなものは決まってる。長は一番強い者だ。それ以外に何がいる」
「一番強い狼だって…」夏目に伝えるとニヤリと笑って、
「じゃあお前を倒せば、他の奴も俺の言うことを聞いてくれるのか?」
言うと大狼もニヤリと大口を開けて笑った。
「勝てるつもりでいるのか…愚かな人間だ。」
ピリピリした空気が流れる。2人がぶつかろうとした時、外から走ってくる足音が聞こえた。
「おお~い、多喜ちゃん、夏目さ~ん」
「駐在さん!どうしてこんなところに」
「多喜ちゃんのお父さんに三春ちゃん探してって…ひゃあ!狼がたくさん!おっかね、早いとこずらかろ!」
私の腕を取ろうとした手を夏目が払い、塞ぐように一歩前へ出た。
「な、夏目…?」
「三春、お父さんはここに近づかないように言ってたんだよな。」
三春は普段、お父さんを心配させるようなことはしない。それに、村を出てからまだ何時間も経ってない。捜査願いを出すのは不自然だ。
「三春、この人がこの村に来たのはいつごろだ?」
「えっと、3か月前くらいかな」
「3か月…それだけありゃあ顔も変えられるわな…相楽 純也!」
瞬間、水丸が銃に変わり、夏目が引き金をひいた。
ガキィン!
固いもの同士がぶつかる音がした。
銃弾が当たったはずの駐在さんからは血が出ていない。
「ばれていましたか…」
洋服が発光し、洞穴を照らした。視界が真っ白になるが、分かっていたのか夏目は走り出していた。
「いつからですか!?」
走りながら少々楽しそうに聞いてくる。
「最初っからだよ!」
銃声は1つではなかったのに相手を確認しようともしなかった。
代行の制度なんて現場で混乱しないよう警察官が一番最初に叩き込まれる知識だし、拘束された時に警察手帳も見せられてない。
もう少しで追いつくというところで
「でもいいんですか?私の相手なんかしていて」
空になった注射器を3本見せつけてきたと思ったら、後ろから狼の咆哮が聞こえてきた。
「くそっ…水丸、三春を頼む!」
水丸を先に行かせ、急いで戻る。
相楽は「ご心配なく!狼は有効活用して差し上げます!」
笑って駆け出して行った。

「どうしたお前たち!落ち着け!」
大狼が呼び掛けても暴走した3頭の狼は止まらない。
お父さん、あなた、もうやめて…他の狼たちが動きを止め必死に呼びかけるも、噛みつこうと暴れるばかりだ。
「酷い…こんな…家族に家族を…」
ゆるんだ拘束を、1匹がすりぬけて噛みつこうとする。それをかばって美春が左肩を噛まれた。水丸が間に入って衝撃を和らげるが、血が滲んでいる。
「三春!」
狼を離そうとするも、三春が抱きとめる。
「気づいたら、自分のせいで大切な人がなくなってたなんてそんなのつらくて耐えられないよ…そんなことには絶対にさせない。お願いだから正気に戻って」
涙と血を流した三春に噛みついた狼の目が赤色から緑色に戻った。
「俺は何を…」狼が正気に戻った
何が起きた?効果切れだとしたら、正気に戻るのが早すぎる。何が要因だ…三春の血か?
夏目が三春の血が混じった水丸の水を飲ませると、他の狼も正気に戻った。
「貴様…いったい何者なのだ…」
三春の血は不思議だが、それ以上にまずい状態にある。三春の止血をしながら、「おいボス狼、ここにいるので群れは全員か?」
「いや、全員ではない。外に何人かまだ…私の息子も…」首をふるわせていると
全員じゃないんだな?夏目は言って大狼の胸倉をつかんだ。
「よく聞け。奴はお前の仲間に村を襲わせる気だ。そんなことは絶対にさせない。俺と三春を乗せていけ。三春の血で狼を元に戻し、奴は俺が仕留める」
「お願い狼さん…みんなを守って」美春が言うと
「分かった…つかまっていろ」2人を背中に乗せると、すさまじい速度で一気に洞穴を抜け出した。

街につくと、狼が暴れまわっていた。大狼が動きを抑え、水丸が三春の血を注ぐとやはり正気に戻った。三春は住民への説明のために残していき、大狼と夏目、水丸は相楽を追った。

街の様子を見ていた相楽は内心高揚していた。
素晴らしい!こんな田舎町でロード候補に出会うとは!
先生…ようやく見つけました…!
用意していたジープで逃走を図るも、夏目達にすぐに追いつかれた。
「あなたもしつこいですね…この子と遊んでいてください。」
巨大な雪の結晶の塊がジープから出てきて、猛吹雪を吐いた。
「この子は周囲の雪を吹雪に変えて操れる!この雪山で敵う者などいませんよ!」
「おい言われてんぞ!お前あれどうにかできんのかよ!」
「人間風情が何を…この地で最も強いのは…私たちヒフキオオカミだ!!」
吐いた爆炎は猛吹雪を一瞬で消し去り、ジープまで燃やした。
命からがらジープから這い出た相楽にゆっくりと近づき、胸倉をつかんで持ち上げる。ナイフを取り出そうとするも、水丸に抑えられる。
「殺人教唆、ギフターズ保護法、薬物使用に係る法律その他もろもろで…」
ゴリッ
鈍い音がして相楽の鼻から血が噴き出し、気を失った。
「現行犯だ。クソ野郎。」

事件から3日後、
「もう行かれるんですね。」
三春の父が見送ってくれる。三春は体調を崩しており、見送りには来れないらしい。
「目的は果たせましたんで。」
後ろには大狼が控えている。
「ふん、私は三春の頼みでお前に付いていくだけだ」
「はいはい分かってますよ…っていうかなんで俺ら会話成り立ってんの?」
「私が知るか!さっさといけ!」
「本当にありがとうございました。最後にもう一つだけお願いがありまして…私の大切なものを預かっていただけますでしょうか」言うと、後ろからリュックを背負った三春が出てきた。夏目が驚いていると、
「私の血って特別っぽいじゃん。私も連れてってよ。居場所がばれたら危ないんでしょ!」
何と報告したものか。悩みながらボスに電話んかけた。

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