貧乏の神様


貧乏の神様がいました。貧乏の神様の見た目はみすぼらしく、誰が見ても一目で貧乏の神様だとわかるいでたちでした。
貧乏の神様は酷くお腹が空いていて、寒くて凍えていました。貧乏の神様は裕福そうな家をさがしては「助けてください。空腹と寒さでとても辛いのです。どうか一晩泊めてください」とお願いしました。どの家を訪ねても「貧乏神に用はない」「貧乏神なんかくるな」と家に入れてくれないばかりか、とびらも開けてくれません。
ひもじい思いをしながら、貧乏の神様はとある家のとびらを叩きました。その家の見た目は決して裕福そうではなく、すきま風が入ってきそうな家でした。
「とてもひもじいのです。一晩でいいから泊めてください。なにか温かいものを一口でいいのでいただきたいのです」その家の主人(あるじ)はとびらを開けて驚きました。本当に貧乏神はいるのだなと思いましたが、貧乏の神様だって神様です。困っているのに見過ごすことはできません。
「これはこれは。こんなに寒い日に大変でしたね。わたしの家は決して裕福ではありませんが、こんな家で良ければどうぞお入りください」主人は、貧乏の神様を家に迎え入れると、それまで自分が座っていた家でいちばん暖かい場所に神様を座らせて、野菜のくずで作った今日の夕食(ゆうげ)の残りのスープを温めて神様に差し出しました。
「ああ、おいしい。温かいだけでごちそうです。ありがとうございます」神様は満足して、そのまま眠ってしまいました。

翌朝、神様は帰り支度を始めながら言いました。「わたしは貧乏の神様なので叶えられる願いは貧乏に関することだけです。ですが、わたしも神様の端くれなので、その願いを叶えることはできます。なにか願いはありますか?」
主人は「本当ですか?それはありがたい。わたしはお願いごとがふたつあるのですが、いいでしょうか?」貧乏の神様は今までお願いごとをされたことがなく、お願いごとをされるだけでも嬉しいと思いましたが、その願いがふたつもあるときいてとても張り切って「いいですよ」と答えました。
「ひとつは、病気貧乏になりたいのです。病気にならないようにわたしを病気から遠ざけてください。もうひとつは、わたしの家が貧乏で困らないように見守ってほしいのです。よろしくお願いします」神様は微笑んで、「わかりました。どちらも貧乏に関する願いなので必ず叶えて差し上げます。あなたが病気の貧乏になるようにして、貧乏がこの家とあなたにふりかからないように見守っていますよ」貧乏の神様はそう言うと消えてしまいました。

それからこの家の主人は、決して大金持ちではありませんが、食べたり生活するには困らない程度のお金が手元にあり、大きな病気もせず幸せに暮らしました。

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