山登りにおける下り坂の攻略法
登山という行為において、やはり大変なのは「のぼり」ですが、「くだり」の方が実は局所的なダメージが大きいという認識は一般的にあるものかと思います。
このnoteではそのくだりをどう攻略するかについて考察したいと思います。
私自身は登山の専門家でもなければ歩行動作についても得意分野とは言えないレベルではある点をご了承ください。
歩行は落下を使っている
下りを考えるに当たり、まずは歩行そのものについて考えます。
歩行は倒立振り子運動(逆さ振り子運動)だと言われています。
片脚で立ち、前に倒れ、それを受けて逆の足を接地することで自分の重心は落下し、ついでに前進もします。
この前進の力をうまく足が転がるように受けると、また重心は高くなり、落下の準備が整うのです。
つまり重心の上下動が繰り返されることで推進しているのです。
この位置エネルギーをうまく使えないと筋力を使った歩行となり、効率が悪い歩行となってしまいます。
落下の難しさ
つまり、歩行はかなり受け身な運動であると言えます。
受け身であるが故に、効率的。
受け身であるが故に、その制御は難しい。
歩行の制御は落下したエネルギーの向かう先の制御と言い換えても良いかもしれません。
落下したエネルギーで自分自身が怪我をしないか。
落下したエネルギーをできる限り効率的に前進する推進力に換えられるか。
このあたりが重要なテーマになります。
落下というエネルギーに対して、まず衝撃をうまく吸収する必要があります。
いちいち落下のエネルギーに対抗するように身体を強く固めていたら、いずれ身体のどこかが壊れはじめてしまうかもしれません。
また、落下の力に対して体の剛性が不足していたら「くしゃ」っとその場で潰れてしまい前進どころではありません。
つまり、歩くためには落下に対してうまく衝撃を吸収しながら、必要最小限の緊張をするとても繊細な調整が必要なのです。
さらに、落下を前進する力に変えるには足部、膝、股関節などが中心となった身体の絶妙な連携が不可欠です。
これだけ複雑な歩行を人間は無意識のうちに行っているのは驚きですよね。
ただし、みんなが「効率的な歩行」ができているわけではないと感じます。
登りは落下を使えない
次に登りについて考えます。
登りの場合は落下を使うことができません。
水が低きに流れるように、人間の重心も自分よりも高いところには落下することができないのです。
なので、推進力を自ら生み出す必要があります。
これが登りがキツイ理由ですが、一方で落下を使用しない分、平地での歩行よりもある意味では簡単な運動になると考えることもできそうです。
下りは落差が大きすぎる
一方で、下りは落下を使うことができます。
しかし、問題は落差が大きいことです。
「最小限身体を緊張させる」の最小限が平地の歩行よりも大きくなるのです。
その結果、膝は屈曲ー伸展の働きを平地よりも多く要求され、膝関節を伸ばしておく役割を持つ大腿四頭筋(前もも)は大きな役割をもつことになります。
では、下りを効率的に行うために必要なのは大腿四頭筋を鍛えることなのでしょうか?
私はそれだけではないと考えています。
ただでさえ複雑で難しい歩行ですから、やはり戦略的に取り組んでいく必要があるのです。
落下エネルギー利用の戦略
最も活躍するのが膝だからと言って、膝だけに仕事を押し付けて良いわけではありません。
膝以外のあらゆる部位が、最適な働きをしてくれれば、膝の負担も最小限になってくれるはずです。
逆にそこを無視して膝に関係する大腿四頭筋ばかりを鍛え続けるのは場合によっては穴の開いバケツに水を注ぎ続けるような行為になりかねません。
まずは、穴をふさぐ作業をした方が効率が良いはずです。
いかに膝の負担を減らすのか、、、
まず、衝撃吸収と言う意味で最も関係するのが脊柱であると考えています。
どこを衝撃から守りたいかというと頭部ですね。
頭部は脊柱の上にのっかっていますので、脊柱がただ硬い棒状のものだったら衝撃はもろに頭部に直撃します。
そうならないために、例えば膝が過度に仕事をすることになるという想像もできます。
実際には脊柱は彎曲と言うものが3つあり(首、胸、腰のいわゆるS字カーブ)、衝撃をうまく吸収できる構造になっています。
ただし、様々な要因で脊柱周囲の筋や腰部、背部の筋が緊張しているとこの衝撃吸収能力は低下し、やはり他の部位がバックアップのために働く必要が出てきます。
この脊柱の衝撃吸収の能力を改善することが落下の衝撃を全身で和らげることに繋がり、効率的な下りの歩行の助けになるかと思います。
登りは簡単だけど、大変。
下りは難しいので、大変。
と言えるのかなと思います。
下りで必要な能力は、平地を歩くときも当然必要です。
脊柱の衝撃を吸収能力の改善
細かく解説すると長くなりすぎるので、簡単にまとめます。
まずは動いていない時の背骨の緊張を落とすところから。
寝ている状態から立っている状態まで、安静時の緊張をできるだけ落とすことが目標です。
呼吸や食事、睡眠などの生活習慣はここに関係してきますし、背骨を一つ一つ動かすようなエクササイズも大切。
その上で、動いていても緊張を高めないことが次の目標です。
これも横になった状態での動きから、徐々に立位に近づけていきます。
最終的にこれを実践で使うには、できるだけ多くの運動のパターンで「緊張」がでないよう訓練していく必要があります。
足元の環境を不安定にしてみたり(これも様々なパターンがあります)、移動をともなうような課題のなかで動作をしてみたり、目と動きを繋げるようなワークをしたり、、、とより高度な戦略をとっていくフェーズです。
ここで大切なのは「登山を再現するわけではない」ということです。
登山の再現では、登山以上の負荷をかけることはできません。
ジムで行うのであれば、ある側面では登山以上の負荷を、登山よりも安全に実施することが目標になってきます。
こういった準備をすることで実際の登山では「ジムよりも簡単なので楽」という感覚を作り、実際により効率の良い歩行が実現できると考えられます。
長い文章を書いてきましたが、めちゃくちゃシンプルにまとめると「歩くことをもっと上手にする」「特に背骨が大切」「落下に耐えられる体の機能作り」といった感じです!
恵比寿でパーソナルトレーナーをしています。 ダイエットやボディメイクに興味のある方はお声かけ下さい。