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美術館のススメ1

5〜7年くらい前、箱根のポーラ美術館に中高生数十人を連れて行ったことがある。

友人が主催している合宿かなにかで、全国の中高生が集まった。その1コンテンツとして、僕が担当していたのがポーラ美術館での滞在だ。

「美術館で、1つの言葉を持ち帰ろう」
という内容で、絵を眺めながら頭に浮かんだ単語を紙に書き出していってもらう。

その時のことはよく覚えてる。1人の女の子。中学2年生。髪を後ろで1つに結び、千葉からきたその子は、モネの作品の前で1時間ほど立ち尽くしていた。

何も言わずにその子の横に並んで一緒に絵を眺めていたら、彼女は「ねえ、ゆうきさん」と声をかけてくれた。

「なに?」と返すと、彼女は「分からないことがあるんだけど、あの橋のあたりを見ると悲しいんだ」と言う。

「他の絵でも、この絵の他のところでも感じないけど、あの橋のところだけ悲しいの」

そういう彼女に「その悲しさは、どこからきてるんだろうね」と聴くと、彼女は続けて言った。

「おばあちゃんのこと、、、、かな。思い出すの。おばあちゃん、2年前に死んじゃったんだけど、わたしね、最後に会った時に"何度も言わなくていいから"って少し怒っちゃって。何度も"学校の行き帰りは気をつけるんだよ"って言われて、うるさいなと思って怒っちゃったんだ。そしたら、そのあとにすぐ死んじゃった。その時のことを思い出すといまも悲しいけど、そんな感じ。」

彼女は目に涙を浮かべて、少し声を震わせながら、こう続けた。
「けど、なんかあの橋から見てくれてる気がする。」

彼女はそう言い終わった後、なんだか嬉しそうな表情を浮かべた。

絵は、過去の記憶の色に差す、一筋の光だ。

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