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マルチカラーぱうぺあ杯に際して

昨今のコロナ禍によって甚大な被害を被った業界は何もトラベル会社や飲食業界だけでなく、私が日々嗜んでいたカードゲーム界隈も例外ではなかった。公式サポートによる店舗大会の中止、デュエルスペースの利用停止、営業時間の短縮、そして新商品の発売日の延期。紙媒体でのカードゲームは愈々その勢力を世論に押し竦められるに至ってしまった。

そこでフォーマット:パウパーに造詣が深く、且つご自身で関連動画も投稿されているSEIGAさん(@siro_seiga)が「毎週土曜日にぱうぺあ杯(MO上で行われるフォーマット:パウパーの大会)を開く」との声明を掲げたのであった。オルレアン防衛戦に彗星の如く現れたジャンヌダルクを藁にも縋る思いで担ぎ上げたシャルル7世が如く、私はその鶴の一声に深々とひれ伏し、毎週の大会への参加を自身へ課したのである。

しかしながら本よりSEIGAさんへは色々な面でお世話になっている為、仮にこの時流が無かったとしてもぱうぺあ杯では是非とも皆勤賞を取りたいところである。ちなみに筆者はかつて小中高と一度も(各学年ですら)皆勤賞を取ったことがない。

勿論私は可能な限りすべてのぱうぺあ杯に参加しているのだが、肝心である今まで参加してきたぱうぺあ杯の成績が

① 第2回 通常構築パウパー 優勝
② 第4回 通常構築パウパー 3-1
③4/12 赤単限定パウパー 3-1
④ 4/18 通常構築パウパー 1-3
⑤ 4/26 禁止解除パウパー 3-1
⑥ 5/2 通常構築パウパー  2-2

勝ちきれねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!11111111111111111111111

昨今の紙大会でも4-1とか3-1とか2-0-1とか2-0-2とか、勝ってもないのに負けてもないみたいな成績がめちゃめちゃ続いていてフラストレーションが尋常ではないのだ!

さらにリアルでの交流も長いなおきち氏(@akan_naoki)がコンスタントに勝利を収め、長いぱうぺあ杯の歴史の中で初となる2連覇+1優勝を成し遂げたのである!ここは素直に祝福の言葉を贈りたい、おめでとうございます!

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さて、第2回の優勝からも日が経ち、負け癖ならぬ勝ちきれない癖がついてきてしまったと自覚し始め目頭にこみ上げる熱いものを感じる最中、5/2大会終了の号令と共に次週の大会形式が発表されたのである。

https://twitter.com/siro_seiga/status/1256824312981422080?s=20

「マルチカラー限定戦・・・!?」

これは好機である。今までの異種戦とは一線を画した戦いになることが予想されそうだ。今回こそ勝ち切るべく腰を据えて練り上げていきたい。

一線を画した、というのは、固有色が2色以上のコモンは長いMTGの歴史の中でさえ615枚しか存在せず、今までの通常、異種パウパーと比べて遥かにカードプールが狭いことによるものである。その上パウパーにはまともな2色土地がタップインゲインランドとバウンスランドの2種しか存在せず、他に2色以上出る土地といえばフィルターやサクって2色出たりする、通常の運用では不便なものが多い。

カードパワーを優先するのであればもちろん色は足した方が良いが、土地の都合動き出しが遅くなる。であればいっそのこと単色にして事故らず展開すればよいか・・・?いや・・・

構築に頭を悩ませた私は、この発表を受け普段から共に調整している私の友人達へ積極的に声を掛けて調整Discordを作成。とりあえず各々がたたき台を複数個用意することにした。

発表から約2時間、早速トナプラでたたき台同士のテストプレイが始まる。初戦からお互いの憶測が交錯する熱い展開で、感想戦でも様々な考察が交わされた。この時間が一番楽しいよな。
考察をまとめる。

①ゲームスピード及びテンポはかなり遅い
⇒コントロールは強い?

A.そこまででもない。ハンデスや火力をカウンターしながらアドバンテージの取れる環境最高の《否認》である《妨げる光》や、通常構築でも採用されていてかつてのスタンダード環境でも大活躍していた優秀な除去《苦悶のねじれ》は非常に魅力的である。しかしながらテンポが遅いことを逆手に取ったマナクリを搭載する素早いテンポデッキには非常に脆く、もっさりとした受け札しかないことに加えアドバンテージを稼ぎながら受け切ることがカードプール的に不可能に近いのが致命的だった。

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ねじれ

② ということはアグロが強い
⇒つまり《炎樹族の使者》デッキがトップメタ?

A.多分合っている。通常構築のパウパーでさえクリーチャー版《Time Walk》と呼ばれる程のテンポ感を持っているので、その圧倒的なテンポで環境上のあらゆるデッキをなぎ倒してしまうのではないかと思われる。赤緑系には優秀なクリーチャーも多く、《炎樹族の使者》1枚によってゲームは簡単に崩壊してしまうであろう。さすエミッサリー。君に決めた。

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しかしながらたたき台を磨き上げていく過程で、調整チームの加糖氏(@kato1850)の持ち込んだデッキによってこの《炎樹族の使者》最強伝説という幻想は粉々に砕かれる。

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(レシピは見様見真似で作った近似値)

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バケモンがいた

このマルチカラー環境、残念ながら布告除去や全体除去は存在しない。全体除去に関しては5マナで全体-1/-1が存在するが実用性からはあまりに乖離している。つまるところ、この《器用な決闘者》を除去する手段はコンバットトリック以外存在せず、必ずカードを使用することを強いられてしまう。《炎樹族の使者》もこの2/1 先制攻撃 被覆の前には何体キャストされようが棒立ちである。
これは痛い。
ただでさえアドバンテージ獲得手段に乏しい環境で必ずカードを必要とするのはアグロにとって押し切るプランを持ち込みづらいことを示唆する。相手は脇をどけて《決闘者》と2/2を睨ませるだけで加速度的に有利を広げてアドバンテージを得ることが出来てしまうのだ。
また、この《決闘者》を後押しするカードもしっかりと搭載されている。

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モダンマスターズ2017ではアンコモンとして再録された、まさに規格外のカードパワーを持つ《魂の操作》。簡単に1:2交換を生み出すことのできるスーパーカードで、必然的にクリーチャー主体となる当環境では無類の圧力を誇っている。コンバットトリックを駆使しながら必死こいて除去した《決闘者》は、後続のクリーチャーをカウンターしながら再び戦場に舞い戻ってくるのである。「あれ?俺またなんかやっちゃいました?」

更に《宮廷の軽騎兵》《返済代理人》のダメージを軽減しながらアドバンテージを得るギミックや《はね返り》によるテンポバランスの修正、《損ない》という貴重な確定除去を苦にすることなく搭載が可能であるということ・・・あまりにも魅力的な要素で詰まっている。
環境で唯一の確定カウンター《心理的打撃》もしっかりフル搭載である。
「えっ・・・私の《炎樹族の使者》弱すぎ・・・!?」と思わず零してしまうほどだ。

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stりけ

しかし、だ。

どんな最強デッキにも必ずつけこめる隙は存在する。かつてスタンダード環境で猛威を奮っていたバントカンパニーだって、突如として現れたトークンデッキに悪戦苦闘してたじゃないか!
きっと今回も同じで、何かしらの策が存在するはずだ!
・・・と、色々なカードを探していた時である。



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あった



実のところ、今の記事の紹介している順番にはテンポよく話を進める為に誤りがある。一番最初に激突したたたき台はこの《セレズニアの福音者》を擁するセレズニアアグロと上述のエスパーコントロールなのであった。結論から言うと初戦からほとんどのマッチにおいてセレズニアアグロの圧勝であって、エスパーを駆っていた加糖氏は「白緑ミラーの練習してたほうが有意義」(原文ママ)とまで嘆いたほどである。何故勝てたのか?箇条書きで抜き出す。

①《クァーサルの群れ魔道士》等によるパワータフネスラインの上昇(《宮廷の軽騎兵》や《決闘者》を簡単に越えることが出来る)
②《狩りの興奮》による除去避け
③《セレズニアの福音者》による横並びのサブプランが存在する攻撃の多様性
④《大霊の盾》による無敵の飛行アタッカーの形成

先述した通り、エスパーコントロールは《決闘者》と《宮廷の軽騎兵》+《返済代理人》に地上戦を任せている為、それを越えられるとカードを使用して脅威を排除する必要が生まれてくる。そこで《狩りの興奮》は最適なリアクションスペルであり、なんとフラッシュバックまでついている。どんな《さまようもの》でも簡単に《決闘者》を越えることが出来るのである。
加えて全体除去の存在しない環境で《セレズニアの福音者》は暴力的な盤面をいとも簡単に築き上げることが可能だ。調整チーム内で”エヴァンゲリオン”と呼ばれるようになる《福音者》は自己完結能力が高く、他に1体でもいれば後はそのトークンから自身の能力を起動することができる為相手に強力なプレッシャーを与えることが出来る。まさしく”エヴァンゲリオン”、次々と苗木という”使徒”を戦場に送り込んでいく。2体並ぶとマジの地獄。
また、環境の特徴として単体で強力な飛行クリーチャーがほぼ存在しないことが挙げられる。故に《大霊の盾》は飛行と破壊不能を付与することで対戦相手の対処手段の多くを無視することが出来るのである。《決闘者》もさすがに飛んではいない。
多彩な戦略を持ち合わせ、フラッシュバックによるアドバンテージ手段まで存在し、エンチャント戦略によって別角度からライフを詰めることも出来、《福音者》から無限のリソースを生み出せるセレズニアが爆誕してしまったのである。

・・・

さて、《炎樹族の使者》から始まった考察は《器用な決闘者》という強大な壁を経て《セレズニアの福音者》というひとつの回答に辿り着いた。狭いカードプールの中で繰り広げられるデッキの数々に圧倒されつつも、そこで私は気付いてしまったのである。

実はメタゲーム回ってね?

そう、この615枚のカードプール、メタゲームが形成されるのである。
その”気付き”を与えるのが、私がたまたまお気に入りとして少しずつ形成していたひとつの《炎樹族の使者》デッキだ。

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(レシピは大会前のものであり、参考程度でお願いします)

ジャンド。《炎樹族の使者》から控えめ(?)な展開をして細かく削ったライフを《荒廃稲妻》や《圧倒する雷》で削り切る、当環境で”飛び道具”を唯一有効に採用することのできるデッキである。

環境最軽量の除去《終止》や、目にも留まらぬクロックを生み出す可能性を秘める《ヴィーアシーノの殺戮士》、2体いると無限にぐるぐるすることもできるリソース源で《グレイブディガー》の亜種である《冒涜するハッグ》、《苦悶のねじれ》や《決闘者》の突破を容易にしながら素早いクロックを形成する《朽ちゆくヒル》、サイドボードには攻守共に優秀なシステムクリーチャーである《雷景学院の弟子》を搭載し、何より相手のアドバンテージを刈り取りながらライフを詰めることのできるスーパーコモン、《荒廃稲妻》とゲームプランがしっかりと合致している。

このデッキ、コントロールには有利を取れる上にセレズニアといい勝負が出来るのである。
優秀な除去と押しつけの強さから有利な立ち回りをしやすく、セレズニアの強みであるコンバットトリックやエンチャント戦略、《福音者》をたった2マナの除去でテンポ損なく対処することが出来る。
そして何より《力の消耗》は対セレズニア戦において容易に《狩りの興奮》を越え、尚且つ純粋に1:2交換を取りやすいコンバットトリックとして獅子奮迅の活躍を見せてくれる。
同カードは対エスパー戦でも《決闘者》を越えながら《宮廷の軽騎兵》を0/1にすることが出来るため、地上戦での有利をとても作りやすい。

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つまるところ、ジャンドはエスパーにもセレズニアにも勝てる可能性を秘めているのである。

さて、ここから考察する限り、読者諸君は「ジャンドの一強ってことやんけ!」と思っているかもしれない。しかし私はメタが循環したと述べた。それはどういうことか?
それはエスパーコントロールの相対的な柔軟性を持つ構築が握っているのだ。

”相対的な柔軟性”、先述している通り、この環境では使用できるカードプールは615、その中でもプレイアブルなカードを抜粋すればその半分程度になってしまうだろう。その中でエスパーコントロールはサイドボードを最も有効に利用することが可能で、そして最も不利とされているセレズニアに対して5:5:4.5程度の微有利まで持ち込むことができるのである。
その秘密兵器が以下のカードである。

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5点を支払うかクリーチャーを生贄に捧げることでキャストすることのできる《最後の支払い》、このカードをサイドボードに搭載することでエスパーコントロールは《福音者》や《大霊の盾》のターゲット等、ライフを詰められる前に予めリソース、クロック源を絶つことが可能になるのである。であればコストの5点は軽いもので、ほとんど《終止》と同じような使い方で運用することが出来る。これにより対セレズニア戦の相性を劇的に改善することを可能にした。
勿論生贄に捧げる方のコストはインクの染みではなく、《魂の操作》の回収元を自身から用意することが出来る為、既にライフが詰められコストの5点を支払いたくない場面でも有利な条件を整えながらキャストすることが可能であり、2つの条件を扱いやすいようにプレイすることが可能である。
エスパーコントロールはこのカードをサイドに4枚投入することで、セレズニアへの相性を劇的に改善することが出来たのだ。

また、エスパーコントロールは対ジャンド戦においては先述した様々なギミックやアドバンテージ源のお陰で《荒廃稲妻》を1発食らった程度では簡単に息を吹き返すことが出来る。その上、ジャンド側としては《妨げる光》が脳裏にちらついてしまう為、青白2マナの浮きマナを見るとエンドカードである《荒廃稲妻》をキャストするのがどうしても困難になってしまうのである。その上《力の消耗》は強力でありながら3マナでありどうしてももっさりしてしまう。もし《妨げる光》を合わせられた日には、光の速度で右クリックからConcedeを押して相手の引きを恨んでしまうことだろう。互いのプランが見事に合致してしまう、非常に駆け引きの難しい勝負になるのである。
畢竟、エスパーvsジャンドは完全に使い手と噛み合いの勝負になるのだ。

さて、ここでメタゲームの全容が理解できたと思う。

ジャンド⇒セレズニア⇒エスパー⇒ジャンド・・・という循環が生まれたのである。


しかし、だ。(二回目)

ぱうぺあ杯といえば、青単上陸フェアリーや赤単杯で現れたトロン、禁止解除パウパーで持ち込まれたスーサイドブラック等、メタをかいくぐる創意工夫に満ちた素晴らしいデッキが毎回のように出現している。
私が提示したこの循環はあくまで調整チームの中で現れたデッキにおいて考察していたものであり、このマルチカラーという環境を一言で言い表すことのできるような完璧なものではない。
《ニヴィックスのサイクロプス》や、《夜空のミミック》等、魅力的なカードももちろん存在しているのである。確かに練習過程でこれらのデッキとも相対したし、かなり悪戦苦闘したのも事実である。

しかしながら、ジャンドが頭一つ抜けているのは事実であるし、想定するデッキによって柔軟に構築を変えることのできるエスパーは強力であって、多彩なプランを持つセレズニアはやはり強固な壁なのである。それ故、本記事はその3デッキをメインに据えてのものとしたのでご了承頂きたい。

明日の本選が待ち遠しい!
最強のマルチカラーはどのデッキだ!?




そして、俺はしっかりと勝ち切ることができるのか!?


ここまで読んで頂き有難う御座いました。




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