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【小説風プレイ日記】超探偵事件簿 レインコード【1章解決編#27】

©スパイク・チュンソフト | RAINCODE

※8月中旬頃から「2章」まで公開範囲が広がりましたがとりあえずは「1章」までにしときます。
今回で一応のラストです。事件の真相を明らかにしたユーマ達が現実世界へ戻ってきたところから始まります。





『真犯人の告白』


まとわりつくような重たい空気が晴れていく感覚がする。
謎迷宮を海に例えるなら深い深い海の底、日も差し込まない闇の世界に沈みゆっくりと浮上している様な…。
冷たい風が生暖かいものに変わる。
現実世界が近いってこと。海で例えるなら海面が近いってことだ。


「ハッ…!」


肺に思いっきり空気を吸い込む。鼻から吸い込んだ空気は雨の臭いがする。謎迷宮じゃない。ここ夜行探偵事務所前で、保安部に囲まれたままの絶望しかない現実世界。そう現実の世界に戻ってきた……っ、そうだ! 真犯人の神父と信者はどうなったんだっ!?


「みゃ、脈がない…! 死んでる!」

「し、死んだ!? はぁ!?」

「…なんだって? これは一体…どういう事だ?」


糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた神父と信者を見てボクはまだ"もしかしたら生きているかもしれない"とありもしない"もしも"にすがっていたのだと思い知らされた。……二人はボクが殺したのだと。

『あー、今日もいい仕事としたー。
殺人犯をぶっキルして、いい気分だねー。』


死に神ちゃんが真犯人の魂を狩る事で、謎迷宮は崩壊する…。
すると、その代償として、謎迷宮を生み出した元凶そのものも消滅する…。
…わかっていた事だけど、目の前で死ぬ瞬間を見るのは胸が痛い。
これじゃあ、まるで…ボクが殺したみたいじゃないか。
いや…ボクが殺したんだ。真実という残酷な刃で。


『まぁまぁ、人間誰しも牛や豚をぶっキルしてるじゃん。しかも食べてんでしょ?
食べないだけマシだし、どうせ極悪卑劣な殺人犯の魂なんだから…うん! 心を痛める理由はナッシング!』

「…そんな簡単な話しじゃないんだよ。人が死ぬって事は。」


その証拠に保安部のセスとヤコウ所長がてんやわんやで…。


「こ、これは…まさかあなた達が?
毒でも仕込んで…殺したのですか!?」

「ちょ、ちょっと! 待った待った!
オレにも何がなんだか…。」


言い争っていて物凄く面倒くさい事になっているし…。
所長なんて冷や汗が吹き出しすぎてベチョベチョになってるよ…セスさんも訳がわからないままとりあえずでボクらを連行しようとしている。
死に神ちゃん…なんか謎迷宮に入る前より、ややこしくなってない?


「んー? 助けて欲しいの?
まーた、オレ様ちゃんを頼っているの?
もー、しょうがないなー。
オレ様ちゃんって、頼られると弱いんだよねー。」


いや…頼ったというより相談したんだけど…。
死に神ちゃんは倒れた神父の死体に近づくと、入った!? ズボッと神父の身体の中へ入ったと思ったら…。


「えー、みなさん…。」

「うわぁ! 生き返ったぁ!」


起き上がった神父が喋りだした。
生き返った…というより死に神ちゃんが操っているんだよね?

「いやー、ゴメンゴメン。
"クギ男"はオレ様ちゃ…私だっんだよね」

「な、なんですって…?」

「これはダイイングメッセージってヤツだから…絶対に嘘は言わないよ。」


いや、死者が生き返って罪の告白をするダイイングメッセージなんて聞いた事ないよっ!?


"クギ男"は私なんだ。
横で倒れている信者は…ただの便乗犯。
教会を調べれば、犯行に使った道具とか、証拠品がいろいろ出てくると思うから…嘘だと思うなら後で調べてよ。それじゃ、よろしくー。」


そこまで言い切ると神父はまた倒れ死体に戻った。
死に神ちゃんも出てきてボクの方へ戻ってきた。
…あんな事もできるんだね。
でも、かなり適当な自白だったけど…あんなんでいいの?


『ま、あんなモンでしょ。
証人もいるし、これにて一件落着!』


…と、死に神ちゃんは高を括っていたけれど現実はそんなに甘いわけもなくて…。


「神父が…何やらうわ言を呟いていたようですが…よく聞き取れませんでしたね…。
とにかく…ここにいる全員、アマテラス社に連行します…!」

「えええっ!?」


まったくもって効果はなかった。


『もー、頑固すぎるよー!
これだから村社会で権力持ってるヤツは。』


そんな事言っる場合!? ど、どうするの!?


「…待て、何か聞こえるぞ。」


連行しようとする保安部達が止まる。


「は? 今度は何?」


耳をすましてみるすると遠くの方から何かが聞こえてくる…いや音が近づいてきている?



「バイクの音…? 猛スピードで近付いている?」

「ま、まさか…!」


音の正体とセスさんの顔が青ざめるのと同時──バイクがコンテナの上から降ってきた。
アクション映画のようなキュイイイン! 大きなブレーキ音を鳴らしバイクは止まった。
乗っていたのは二人。
保安部達はバイクに轢かれちりじりに伸びている。
二人を知っている風のセスさんは「なぜ、あなたが…ここに…」と、いるはずのない人物の登場に驚き立ち尽くしていたところをバイクの後ろに乗っていた小柄な人に腹を蹴り飛ばされた。


「…何者だ?」

「気安く話し掛けてんじゃねぇよ。
オレを誰だと思ってんだ…。」

「このお方は、カナイ区の平和と秩序を守る英雄…
アマテラス社保安部部長…
ヨミー=ヘルスマイル様でいらっしゃいます。

黄泉の国(地獄)からお届けするベストスマイル(笑顔)



「アマテラス社保安部…部長?」

「保安部のトップという事か…。」

「わかったかよ、雑魚ども。
頭がたけーんだよ、アタマが。」



この人が保安部のトップ…クセの強い幹部ばかりだと思っていたけどトップも負けじとぶっとんでる。
会頭いきなりセスさんを蹴り飛ばしたのもそうだしこの人…暴力ですべて解決するタイプの人だ。
平和だ愛だなんだ口では言っていても最終的には全部暴力で解決して黒も白に変えてしまうんだ。


「あ、あなた達…何しに来たんです?」

「そう構えないでください。
優しいヨミー様はあなた方を助けに来たのですよ。
あぁ、申し遅れました…。
私は保安部副部長のスワロ=エレクトロです。」

「こいつはオレの愛する右腕だ。オメーらにはやらねーぞ。」


ヨミーさんの横に立った女性スワロさんの抑揚なく淡々と語るその姿はロボットの様だと思ったけどその印象は一瞬で砕けた。
ヨミーさんに『愛する右腕』と言われ後ろから抱きしめられると頬を赤く染めそれだけじゃくヨダレまで垂らしていたから…。な、なんだ…この人?


『ご主人様、気をつけて。
このヨミーってヒト…かなりヤバいかも。』


…ヤバそうなのは見たらわかるけどどうしたの?
死に神ちゃんがそんな人間を見て怯えるなんて珍し…。


『こんなヤバいオーラを放つヒト…オレ様ちゃんでさえ、そう会ったコトないよ。』


そ、そんなに!?
いつもみたいなくだらない冗談を期待したけどガタガタ震えている様は嘘じゃない…本当なんだ。


「そ、それで…あなた達は何をしに来たんですか?」


死神ちゃんですら震えるヤバい人相手にグイグイ行ける所長すごい…顔色は真っ青になって今にも泡吹いて倒れそうになってるけど。


「あぁ、その話だったな。
愛する右腕に夢中になって忘れてたぜ。」

「先ほども申しました通り、ヨミー様はあなた方を助けに来られたのです。
そこにいるセスの横暴に手を焼いていたのでしょう?」

「ヨ、ヨミー様…一体…どういうコトですか…?」


両脇を保安部に支えられヨロヨロと立ち上がったセスさん、だけど彼にもこの状況は理解できてないみたいだ。
拡声器で拡張された声は震え顔は涙でぐしゃぐしゃで口元は少し出ちゃったのか唾液で汚れていた。


「こ、これは…? どうして私が…?」

「教会が集めた寄付金から、多額の裏金があなたの元に渡っていた事が判明しました。」

「…は?」

「あなたが"クギ男"事件の後片付けに必死になっていた理由が、これでわかりました…。
神父が"クギ男"として捕まったら大変でしょうね。
もうお金を貰えなくなってしまいますらから。」

「ちょ、ちょっと待ってください。
私は…ヨミー様の指示で…!」


…ひどい。


「何か言ったかぁ?
まーったく、なーんにも聞こえねーなぁ。」



真実を告発しようとしたセスさんの武器である拡声器を弾き飛ばした。
あれがないとボソボソとした声になってまともに他人と会話する事ができなくなるのに。


「だ、だから…私はあなたの指示で。」


掠れた声でボソボソとセスさんはさっきと同じ事を言うけれどその声はか細く聞き取れない。
泣きながら必死に小さな声で訴えるセスさんを鼻で笑うとヨミーさんはわざとらしい大きなため息を吐き出し。


「セス…オレは悲しいしぜ。
オレはこの街の平和を守る英雄だ。
お前ら保安部は、その誇り高き兵隊にも関わらず…汚職に…手を染めるなんて…な、なんて…酷い事をしやがんだよぉ…!」


ボロボロと大粒の涙を流し始めた。
ところどころの嗚咽、悔しいそうな物言い、本気でそう思っている…そう思わせるような…。


「だから、セス…保安部の…カナイ区の平和の為にも…死んでくれー。」


…演技だった。
涙も言葉も全部嘘っぱちの演技で最後の一言が彼の本心だ。


「保安部の幹部という立場を利用した罪は重罪です。
厳罰を科します。」

「そ、そんな…!」


抵抗する間もなくさっきまでセスさんの命令で動いていた保安部達一斉に手のひらを返しセスさんを捉え連行して行った。
連れて行かれるセスさんの顔は絶望に染まり項垂れ何もする事ができなった…少し違えば自分がああなっていたかもしれない光景をただ見ている事しかできなった。


「あー、まったくよぉ。
部下に裏切られるのはムカつくぜ…。
ムカつき過ぎて、愛する右腕をいじってねーと、正気でいらねーよ。」

「光栄です…。」

このバカップルやべーよ。こえーよ。


まるで目の上のたんこぶが落ちたと言わんばかりの清々しい変わり身の早さでイチャイチャし始めた保安部部長と副部長…。
罪をなすりつけられたセスさんを気にするふうもなく自分達の世界に入り浸っている。


「…とんでもないヤツだな。
トカゲの尻尾切りどころじゃない。」

「あ、あんな人が保安部の部長なんですか?」

「あぁ、目を合わせるな。
できる限り、言葉も交わすな。
可能なら同じ空気さえ吸うな…これはもう遅いけどな。」


まるで猛獣と会ってしまった時のようなレクチャー。
たしかにヨミーさんは小さな暴君というのがしっくりくる。すべてが自分の思うがままになると思っている独裁者。


「で、だ…。幼稚ななかよし探偵団のクサレ脳ミソ共に、ついでに忠告しといてやるけどよぉ…。
オレの街で余計な真似するんじゃねーぞ。
ルールに従わねぇ平和を乱すヤツがいると…そいつらにも死んで欲しくなっちまうからなぁ! はははははははっ!」

「…ッ!」


笑っているけど目は笑ってない。本気だ。状態で言ってる訳じゃなく、本気でつぎ邪魔をしたら殺すと言っているんだこの人。


「この街の治安はヨミー様そのものであり、保安部そのものなのです。
それに逆らうような事があれば、治安を乱す者として、それ相応の対応させて頂きます。」

「今までは単なるチリだったから見逃してやったが、そのチリが集まって目立つようになってきやがった…。
何が探偵だ…クソうっとうしい。」


ヨミーさんは探偵をクソだと言い捨てヤコウ所長に唾を吐きかけた。
何も言い返せずじっと耐える所長に興味をなくしたと踵を返し。


「帰るぞ…愛する右腕。」

「はい、ヨミー様。」


来た時と同じ様に二人でバイクに乗りまた爆音を轟かせ去って行った。
嵐が去ったひと時の平穏…誰からともなく皆大きなため息をついた。


「………………。」


重たい…とてつもなく重たい空気になってる。
ヤコウ所長の深すぎるため息が痛い。


「と、とんでもない人に目を付けられちゃいましたね…。」


ボクなりにこの重たい空気をなんとかしようと言ったつもりだったんだけど…。


「そうだよ! お前達のせいでな!
一歩間違えれば破滅だったぞ! わかってんの!?」



地雷を踏んでしまったみたいだ。
先ほどまで我慢していた所長の怒りが一気に吹き出し爆発する。



「あー、もう! 一体なんでこんな事になってるんだよ!」

「ハララさん、助けてください。
一緒に事件の説明をしてください。
言ってくれましたよね、ボクの事を認めてくれるって。だったら…。」

「僕が君を認める? 一体なんの話だ?」

「…え?」


…覚えてないんですか? 謎迷宮を攻略した事も、最後に交した握手の事も…なにも覚えてないんですか?
ハララさんの表情は変わらず訳が分からないといった風だ。


『ご主人様、ざーんねん。
謎迷宮の中のコトは忘れちゃってるみたい。
入る時にいったん記憶が消えて、出る時にまた、中で記憶が消えたんだろうね…。
謎迷宮内のものは現実世界に持ち込めないんだよ。
たとえ、それが記憶であっても。
もちろん、オレ様ちゃんと契約してれば別だけど!』


そ、そんなぁ…せっかく、ハララさんと分かり合えた気がしたのに。


『ただ、謎迷宮に入る前までの記憶は残っていると思うよ。
依頼したコトも、借金の件も。』


最悪じゃないか!


「おい、ユーマ! 聞いているのか!?
もう二度とこんな事はないようにだなぁ…。」


かなしい…認めてもらえたと思ったのに、ハララさんと少し分かり合えたって思えたのに…全部幻と消えてしまっただなんて…。
なにか所長が言っているけど、かなしみが勝って入ってこない。



「所長、ところで…。
さっきから事務所の潜水艦が傾いているぞ。
保安部に工作でもされたんじゃないか?」

「えっ!? マジで!?
やべーっ! 急いで修理しないと…!
ユーマも手伝ってくれ! ほら、付いて来て!」

「…はい。」


正直潜水艦の修理なんて気分になれないけど、本当に沈んでしまったら帰る家がなくなってしまう…だからしぶしぶ所長の後を追いかけようと…。


「ユーマ、君の解決編が始まるはずが、とんでもない騒ぎになってしまったな…。」


ハララさんに呼び止められた。
ああなってしまったのは他の誰でもないボクの自業自得なんだけど…。


「真犯人を指摘する前に、その真犯人が死亡するなど、さすがの僕も初めての事態だよ…。」


それは…そうだろうね、今回の事はボクが死に神ちゃんの力を借りたから起こってしまった事だし普通に調査していれば起こらなかった事態だ。
そう…僕のせいで神父と信者は死んでしまったんだ。
元々落ち込んでたけど彼らの事を思い出しさらに落ち込むボクにハララさんは…。


「だが…君が事件解決の為に、最善を尽くして動いていた事は覚えている。」

「…え。」

「…胸を張っていい。」

「ハララさん…。」


ひと言そう言ってくれた。


「ほら、所長が呼んでいる。早く行きなよ。」

「はい! ありがとうございました!」


謎迷宮の事を覚えてないはずなのに、その言葉からはあの時と同じ絆なのようなものを感じた。
そっか…記憶には残らなくても心のどこかには残っているんだ! ハララさんとの絆が失われなくて良かった…!







☩☩☩








『おしおき』



謎迷宮での冒険を忘れた現実世界でもまたハララさんに認められた嬉しさいっぱいウキウキな気分で夜行探偵事務所に戻ってきたボクを待ち構えていたのはお説教タイムだった。
認めてくれた風だったハララさんだったけど、事の始まりはボクが一人勝って突っ走って事件に突っ込んだせいだとあっさりバラされてボクは今部屋の中央で皆に囲まれてる中で正座させられている。

反省中…。



「…で、ホントなのかよ? 保安部の幹部と教会との間で、裏金のやり取りがあったてのは。」

「保安部部長のヨミーが言っていたのだから、たとえ嘘でも本当だ。」

「神父が"クギ男"だったって話は?」

「それは、事実として公表されたようだ。
人々を救済したいと強く願う気持ちが、神父を"クギ男"として生まれ変わらせた。
彼は、森で恨みを晴らそうと釘を打つ人々を見て、自分が助けなければならないと思うに至った…それが動機という訳だ。
まぁ、これも保安部が作ったストーリーに過ぎないが。」


謎迷宮で神父がそうだって自白してましたよ、とは言えない。


「郵便犯の方はどうなのですか?」

「…便乗犯な。」

「そっちの犯行も公表済みだ。
"クギ男"に憧れるあまりに犯行に及んだってさ。」

「そんで、最後には罪の重さに耐えかねて服毒自殺?
なんだか、よくわかんねー事件だな…。」

「だけど…どうも服毒自殺にも見えなかったんだよなー。」

「………………。」

『やったのは、オレ様ちゃんと、そこの正座猛省中探偵でーす。』

「むしろ、ヨミーがなんらかの方法で、彼らを殺害したと考えた方がまだ納得できる…。
登場するタイミングといい、あいつならやりかねない。」

「ヨミー=ヘルスマイル…アマテラス社保安部の部長。
要するに、敵の親玉だな。」


謎迷宮の事は言えないからしかたなく黙っていたら頭の上でヨミーさんに対して次々とあらぬ疑いがかけられていってる。
…まぁ、あの人なら本当にやりかねないから怖いんだけど。


「オイラの調べた話だと、アマテラス社内でも保安部の権力は増してるらしいぜ。
いわゆる、権力闘争ってヤツだ。社内でもやりたい放題みてーだな。
中でも、親玉のヨミーってヤツは、規格外のヤバさだって話だ。」

「キカクガイ…ナイスガイみたいなものでしょうか?
とにかく恐ろしいですね…。」

「おそらく、保安部が全権掌握するのも、そう遠くない話だろうな…。」


あの人がカナイ区の王様に?
今も権力にものを言わせて暴力をふるっているのにさらに酷くなるってこと?
アマテラス社は政府とも太いパイプがあるらしいからあの人が社長にでもなったら、カナイ区の外にも手を出しそうで恐いな。


「そうなったら、連中は世界探偵機構にも堂々と反旗を翻すようになるかもしれない…。」

「世界探偵機構が動きたしたのも、そういう兆候を掴んでいたからとも考えられるな。
だとすると…"カナイ区最大の秘密"とやらも、そこに関係してくるのかもしれない…。」

『そうだ、その"カナイ区最大の秘密"ってヤツ…結局、まだ何もわからないままだね。』


うん…"クギ男"事件とも関係なさそうだし、一体なんの事だろう…。


「まったく…面倒事だらけだな。骨が折れそうだぜ。」

「だから…最初からそう言っていただろ?」

「いくら困難でも、やるしかない。
これは世界探偵機構ナンバー1からの指令なんだ。」

「はぁ…。」

「ま、まぁ…こうして優秀な超探偵が集まっているんだ! きっと…なんとかなるだろ!
………………これから色々と…いや、すべてが変わるかもな。」


ことわざでもあったけ、一寸先は闇って。
…先が思いやられるな。


「ユーマ、もう椅子に座っていいよ。」

「あ、足が痺れたぁ…。」


記憶を失ってから初めての長時間の正座は堪えるな…足が痺れて感覚がない。立ち上がるのもやっとだ。


「今後、1人で考えもなしに飛び出さない事!
それがみんなの為でもあるんだ、いいな!?」

「わかりました…。」

『こっちだって必死に頑張ってるのに!
あぁー、ストレスで死んじゃう死んじゃう〜!
ま、死に神ちゃんは死なないんだけどね!
きゃっきゃっきゃ!』


はぁ…足の痺れもそうだし、死に神ちゃんのくだらない話もそうだし…安心したらどっと疲れが出てきた。
今日はよく眠れそう…コンコンと外からノックする音が。


「なんだ、来客か?
珍しいな…ユーマ、出てくれ。」

「はい…。」


ボクがこの事務所に来てから来客なんて一度も見たことがない、依頼人なんて尚更だ。
じゃ、じゃあもしかして帰ったと見せかけた保安部がまたやって来た!?
要らない想像をして玄関に行くのをしぶっていると所長に早く行けと怒られた。そんなに言うなら自分で出ればいいのに…自分の事務所のお客さんなんだから。
保安部じゃありませんように…っ! 祈り開けたドアの先にいたのは。


「あっ、君は…!」






☩☩☩






『くたびれた野球ボール』



「父さんが無事に家に帰ってきました!
お兄さんのお陰です!」


時計塔で会ってあの男の子だった。
そうか真犯人が捕まってお父さん釈放されたんだ…良かった。


「ぼくと父さんの事…助けてくれてありがとうございました!」

「い、いや…ボクなんて別に…。
でも…良かった。本当に良かったよ。」

『いっちょ前に感謝されちゃって。
さっきまで正座探偵だったクセに。』


うるさいよ…。


「あ、あの…それと、お兄さんにもう1つお願いがあるんですけど…。」

「…お願い? 何?」

『また誰か死んだとか?』


…もしそういうお願いだったら嫌だな。解決できるように頑張るけど。
少し照れくさそうにもじもじしながらレインコードのポケットを探る。何が出てくるんだろう…じっと見つめていると取り出されたのはあの土で真っ茶色に汚れた野球ボールだった。


「ぼくとキャッチボールしてもらえませんか!」

いやこの画質だと泥団子にしか見えないんだって。



「え? キャッチボール? でも雨が…。」



部屋の中でやるには潜水艦は狭すぎるし、カナイ区は年中無休で雨が降り続けている場所だ外でやるのも…一瞬躊躇ったけど男の子の曇りない笑顔を見ていると気が変わった。


「いや…うん。わかった、やろうか。」






やむことのない雨…


記憶はいまだに遠い雨音のようで、


ボクは何ひとつ、この手に掴めないままだ。


まだボクは迷っている。


ボクは…ここにいてもいいのだろうか?


それでも、くたびれた野球ボールを手の中で包むと、


少しは気持ちが軽くなる。


ボクが探偵を目指していた理由…


それはこうして、手の中に収まるくらいの、


ささやかな何かの為だったような気もする…


それがわかっただけでも、上出来かもしれない。


だから、ボクはもう少しだけ…


探偵のふりを続けてみようと思う。






第1章
『連続密室殺人鬼クギ男』
END


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