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【『問いのデザイン』のB面】新刊『パラドックス思考』に込めた“矛盾と遊ぶ”効能

最新刊『パラドックス思考:矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』が2023年3月1日に発売されます!

予約開始直後からさっそく大きな反響をいただいて、Amazonカテゴリ1位 ベストセラーを達成!

カテゴリ「ビジネス・経済」に登録されるはずが、なぜか「人文・思想」に登録されてしまい、「論理学・現象学」で1位を獲得……これはこれで偉業な気もします(笑)

先立って共著者である立教大学経営学部 准教授・MIMIGURIリサーチャーの舘野泰一さんから、出版にあたっていい感じにnoteを書いてもらったので、この記事では『パラドックス思考』が生まれた背景を“裏話多め”にご紹介しようと思います。

『パラドックス思考』は『問いのデザイン』の【B面】

これまで『問いのデザイン』『リサーチ・ドリブン・イノベーション』『問いかけの作法』と、複雑な課題解決や価値探究・創造、マネジメントなどにおける「問い」の意義とその方法論を体系化し、実践的なアプローチで提示してきました。これらを読んでいただいた方には、良い「問い」を立てることの大切さを十分に理解していただけたかと思います。

けれども一方で、創造性を生み出す「問い」を立てようとすると、しばしばその問いが"歪んで"しまうことがあります。問いのデザインではまず「問題の本質を捉え、適切な課題を設定する」ことが重要ですが、自分自身のバイアスが本質を見抜く邪魔をして、課題設定が歪んでしまうのです。

なぜ問いは歪んでしまうのか。私たちはその要因を、自分自身の「矛盾した欲求=感情パラドックス」にあると定め、これを紐解くことが「良い問いを立てる」ために不可欠だと考えました。

例えば、あるマネージャーが「部下への権限移譲を進めたいが、うまくいかない」という課題を持っているとします。この際、マネージャーの中にあるのは「自分がいなくてもうまく回る職場を作りたい」という欲求です。

けれども一方で、本人が自覚せずとも「自分なしでうまくいってもらうと困る」という感情があるかもしれません。「いつまでも頼れる上司でありたい」という隠れた欲求が部下へのマイクロマネジメントにつながり、かえって権限移譲がうまくいかないのは「あるある」話です。

これまでの著作では、問いのデザインについて技術的な方法論を網羅的に語ってきましたが、その背後にある「感情」についてはほとんど語っていませんでした。

ですから今回、いわば『問いのデザイン』の【B面】として、問いを歪ませてしまう人の揺らぎ……「感情パラドックス」に着目し、“手懐ける”ことで、キャリアやマネジメント、価値創造におけるさまざまな課題解決を図る思考法を体系化しました。それが『パラドックス思考』です(ちなみに、既刊を読んでいなくてもまったく問題なく読めます!)。

舘野泰一さんとの15年間のコラボレーションの集大成!

共著者の舘野さんとは、かれこれ15年来の友人になります。2009年に私が山内研へ進学したとき、舘野さんは隣の中原研に所属する2つ上の先輩でした。研究テーマはそれぞれ異なっていましたが、「ワークショップ部」という部活動を立ち上げ、非公式の研究活動としてさまざまな実践をしてきました。その後、私は経営者と研究者の二足の草鞋、舘野さんは立教大学へ……と道は分かれましたが、互いの活動を横目で追いながら、たびたび飲みに行くような距離感で付き合ってきました。

「HR領域で“次に来る”若手研究者」みたいな感じでコンビで取り上げられたこともありました(笑)『人材教育』2014年3月号(日本能率協会マネジメントセンター)

そんな舘野さんとの共著プロジェクトが始動したのは、2021年。これまで本どころか論文も一緒に書いたことのない私たちにとって初となる共著として、何をテーマにするのか。最初は「プレイフル」について書こうと考えて、「CULTIBASE Lab」や「Playful Radio」でも話していましたが、ふたりに共通する研究と実践の「核」を深掘りしていくうち、舘野さんが「これだ!」というテーマを見つけてくれました。それが「パラドックス」です。

「パラドックス理論」や「パラドキシカル・リーダーシップ」に関する海外研究を概観した時点で、「これまで僕らが実践してきたことの根幹にあったのは、これだったのか!」と確信めいたものがありました。

が、その一方で先行研究をまとめるだけでは、良い本にならないと感じたのも事実です。「A or B(二者択一)」ではなく「A and B(両立)」を前提としたマインドセットや行動の重要性は繰り返し説かれていても、それをリーダーが実践する際の「感情の揺らぎ」や心理的特性に関しては書かれていない。「A and B(両立)」を実践したいのは山々でも、それができないから、リーダーに悩みは尽きないのです。

私たちなりにこの問題を解決するには、「論理パラドックス」ではなく「感情パラドックス」に着目すること。そして人間は「めんどくさいけど、愛らしい存在である」という前提に立つことが不可欠だと考えました。それでようやく、私たちがこれまで実践してきたことを言語化・汎用化した『パラドックス思考』が生まれたのです。

例えば『パラドックス思考』では、感情パラドックスを5つのパターンに分類しています。

これに当てはめてみると、『問いのデザイン』でも例示した問い「危険だけど居心地の良いカフェとは?」はまさに【変化⇄安定】パターンに基づくものですし、物事の本質を捉えるために有効な「素朴思考」「天邪鬼思考」は、【素直⇄天邪鬼】という欲求が人に備わっていることを利用したもの。ある自動車メーカーの「AI時代にカーナビはどうすれば生き残れるか?」という問いを「自動運転社会においてどんな移動の時間をデザインしたいか?」とリフレーミングしたのも、【大局的⇄近視眼的】のパターンを利用しています。これら感情パラドックスの基本パターンを足がかりに、“良い課題(問い)”設定を行うことが一段と容易になるはずです。

最後まで読めば「矛盾」と遊びたくなる

さらに『パラドックス思考』では、サブタイトルにある通り「最適な問題解決」を目的としているものの、実は最後まで読み込むと、あえて自ら矛盾を生み出したくなる“パラドックスフェチ”になることを隠れテーマにしています。

さかのぼれば、私は博士論文の考察において「合意形成を急ぐことは、創造性をかえって停止させる」現象について指摘しました。ワークショップでは、ファシリテーターはとかく合意形成を求められますが、早急な合意形成を行うと、創造性をかなり早い段階で停止させてしまうことにほかなりません。時間いっぱいギリギリまで合意形成を“粘る”ことが、もっとも良い合意形成だと結論づけたのです。

けれども多くの人にとって、それは容易なことではありません。世の中では1秒でも早く結論を出すことが是とされますし、早めに答えが手に入るに越したことはない。昨今、少しずつネガティブ・ケイパビリティ曖昧さ耐性の重要性が認知されるようになってきましたし、個人的にはずっと「葛藤」に惹かれ、前身のミミクリデザインでは5つの矛盾した行動原則を掲げていましたが、必ずしも多くの人が実践できるものではないと感じていました。

それが『パラドックス思考』によって、パラドックスが起こる要因を「心」と「世界」の構造から紐解き、「それが良いとわかっていてもなかなか一歩踏み出せない」人の感情的な揺らぎを理論的に体系化し、それに対する実践的な方法を提示することができました。私自身もこの本の執筆を通じて、パラドックス思考の“効能”に後押しされ、自己成長することができたと実感しています。

(今はなき)六本木のSuper Deluxeで「サードプレイスコレクション」を2010年に開催したのが、舘野さんとの初期の大きなコラボレーションでした。社会学者オルデンバーグの提唱する「サードプレイス」を知ったときも「これだ!」と思いましたが、今回の「パラドックス」も、私たちが「A or B」ではなく「A and B」もしくは「C」を求める理由がパラフレーズされた感覚があります

というわけで、新刊『パラドックス思考』は、『問いのデザイン』の【B面】でありながら、自分と向き合う本にもなりました。そういう意味では、プロジェクトやチーム、組織だけでなく、自分のキャリアや生き方……あらゆる課題解決に役立つ、間口の広い一冊になったと自負しています。

社会を変える立場にある人が「社会が変わってしまう」と不安を表明する現象も、「これも【変化⇄安定】のパラドックスだな」と一旦受容すれば、少しものの見方が変わります。『パラドックス思考』はその前提を踏まえた上で「感情パラドックスを編集して、問題の解決策を見つける」方法を提示し、さらに「感情パラドックスを利用して、創造性を最大限に高める」ことで、思いもよらない価値を生み出す一冊となっています。ぜひ「紙の本」で、発売前に予約いただけるとうれしいです!よろしくお願いします!!

CULTIBASEにて、書籍の序文も公開しています。



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