【ライブレポ】JUST LIKE THIS 2023@コニファーフォレスト(山梨県)


2023年8月11日、バス停から見上げた空には抜けるような青が広がっていた。
台風予報も出ており大雨が見込まれていた山梨県はそれを覆し完璧な快晴。熱い風が頬を撫でる。

富士急ハイランド内・コニファーフォレスト。
この地で開催される一年に一度の“祭り”を、今か今かと待ち侘びる人達がいた________



【君はJUST LIKE THIS 2023を知っているか】
~SPYAIRを追って山奥までやってきたヲタクによる全力ライブレポ~




SPYAIRのライブに雨はつきものだ。
むしろ、雨が降ってからが本番だと語る猛者もいる。だが紛れもない快晴の空を前に、いつもと違う景色が、いつもと違うスタート地点に立ったことを教えているようだった。私達も、バンドも。
いつまでも泣いていられないと慰めるような温い風に目を閉じ…………

いや熱いな。
ポエミーな気分になる前に死んじゃうよコレ。



ワタシは零れ落ちる汗を拭いながら、スパイスの効いたカレーを貪った。ハンバーグ、ほうれん草などトッピングが贅沢に乗った素晴らしいクオリティのフード。バンドの拘りの強さが滲み出ている。こんな所まで本気出さんでも………と思いながらありがたく完食し、ガチャを回し、CDをゲットした。やるべき事は全て終えた。

開演まであと3時間もある。

嘘だよね?
蒸発して消えるのが先か、無事その時を迎えられるか、勝負のゴングがワタシの頭に鳴り響いた。


ところが、時間はここからあっという間に過ぎていく。“SPYAIRのライブ”はもうスタートしていたと言っても過言では無い。

ファミリーの団結力、すごい。

ワタシは不意に知らない人(後々フォロワーさんだと知る)に話しかけられた。

「あの、良かったら一緒に写真撮りませんか?」
「エ……!?」
「あの、良かったらこれ、お土産……」
「エエ……!?」

小学生の頃「知らない人に話しかけられても、ついていっちゃダメよ!」と口酸っぱく言われた過去が木っ端微塵に吹き飛ぶ空間がそこには広がっていた。
語弊を正せば、ここに“知らない人”は居ない。SPYAIRのファンは、本人がファンを自覚した時点でファミリー(家族)という位置付けに自動認定される。

このバンドにおける同好の士の団結力ときたら、もう天井知らずだ。知り合いの知り合いの知り合いの犬まで“ファミリー”と位置付け、何処から取り出したのか次々とお土産のお菓子を配り、近況報告に花を咲かせ、ひと段落したかと思えばまた新たなファミリーが登場する。

ブラジルの大家族でもここまでの規模感で交流はしないだろう。

私は地球の裏側に想いを馳せながら、富士急の空に木霊するファミリー達の明るい笑い声に耳を澄ませた。
曇りなき魂の共鳴が、SPYAIRの登場を待ちきれずあちらこちらで始まっている。


____


時間が経つにつれ、緊張感も増してきた。
何に対してかは言語化出来ない。ただ、この異例の事態と新しい歴史の始まりを目の当たりにできる事実に胸が高鳴っているのは確かだった。

YouTubeチャンネル“SPYAIR、ボーカル探しています。”で2023年8月11日のコニファーフォレスト会場を抑えた瞬間の映像を思い出す。神妙な面持ちと何とも言えない空気感、メンバー其々異なった心の動きが画面越しに流れ込んでくるようだった。
あの日から、ここまで来た。
JLT開幕のカウントダウンが始まってもずっと、ワタシはどこかフワフワした気持ちだった。

____


遂に時は満ちた。
誰もが固唾を飲んで見守った一発目。
緊張と不安と、それから圧倒的な期待に会場全体が集中する。

Rockin' the Worldは晴天を突き抜けるような音の圧だった。決意と再起の産声が轟く。SPYAIRは生まれ変わり、また始まるのだ。歓声が木霊して唸りのように腹奥に響く。

これがSPYAIRの真骨頂、野外ライブ……!

ワタシは拳を突き上げながら既に感動していた。戸惑いが力強いリズムに押し流され、いつの間にか無我夢中で飛び跳ねていた。

YOSUKEさんの赤く染め直したばかりの髪が、青空によく映える。
このたったひとりの青年に託されたバンドの未来。どれだけの重圧、眠れぬ夜を重ねただろう。
辛い思いをした分、必ず素晴らしいリターンが来る。それが今日この時であって欲しいと願いを込めて、観客は元気一杯の煽りに全力で応えていた。


数曲の後少し息を切らしながら、「JLT初めての人何人くらいいますかね?」とオーディエンスに問い掛ける。疎らに挙がる手のひとつひとつを数えるように眺めた後、「俺とお揃いですね」と微笑んだ。その顔のなんと魅力的なことか。吠えるように歌う姿とのギャップに多くの女性ファンが黄色い歓声を上げていた。
一部、男性も……。

____


恒例のトイレタイムにて、たった2滴だけ(本人談)を振り絞るべく果敢にも厠に突撃したUZさんの背を追わなかったYOSUKEさんは、あまり会場の同意を得られなかったイオンの話を早々に切り上げ突如こう言った。

「おしっこが、したいです。」

ファミリーは皆無言で頷く。内股気味に走っていく彼の後ろ姿を見つめ、UZさんは「行っとけって言ったじゃん……」と呟いた。茜に染まるコニファーフォレストの花道中央に、滲むような笑みが溢れる。

昼と夜のちょうど真ん中、一番良い時間帯にSPYAIRのボーカルであるYOSUKEさんは歌声を響かせることなくおしっこを選ぶ。このバンドに加入するにおいてこれ程誂え向きな人材はそうそういない。感無量、という言葉がワタシの頭を過った。

楽器隊3人は、彼の帰還まで永遠に尿や腰の話に花を咲かせていた。戻ってきたYOSUKEさんによる「水をいっぱい飲んだので、急にしたくなりました。」というごく当たり前の事実を並べ立てた謎言い訳も爆誕し、会場は伝統芸能でもあるトイレネタに大いに沸いた。

ようこそ、SPYAIRのLIVEへ。

____


そしてゆっくりと色を変えていく空を仰ぎ、丁寧な歌い出しとアコースティックギターのなめらかな音色に乗って始まったのは“Beautiful Days”。
一際はっきりと紡がれる音のひとつひとつに、バンドの想いが籠っていた。
徐々に雲がかってきた空の隙間から、時折光が淡く差し込む。メンバーは時折目を細めてその優しい灯りを胸に刻むように演奏していた。

“暗闇の中で きっと光はあるさ”

SPYAIRにとって、そしてファミリーにとって光そのもののYOSUKEさんが大切に歌ってくれたその瞬間、隣席の何名かがタオルで涙を拭った。大丈夫、大丈夫、とワタシは心の中で呟いた。このバンドは、きっと大丈夫である。



YOSUKEさんは一呼吸置いてから、皆さんどうですか?楽しめてますか?と会場全体を気遣う。

「俺はね、今日が人生で一番楽しいです。」

そう微笑んだ。ファンにとってこれほど嬉しい言葉は無い。拍手と共に改めて歓迎される新ボーカルの顔つきはまだあどけなく、それでいてどこか誇らしげであった。
「音楽って良いですね」とも彼は語りかけた。だいぶ緊張がほぐれてきたのかその表情は柔らかい。彼の愛した音楽は意外な形で大勢の耳に触れることとなったが、その不思議な縁を肯定的に捉えていることが何より嬉しかった。


今回のJLTを序盤から支え続けた楽曲“RE-BIRTH”の存在も忘れ難い。作詞作曲にYOSUKEさんが加わった事により新体制SPYAIRの存在を改めて思い知らされた象徴的な一曲だ。
空気を切り裂くようなシャウトから始まる新鮮な流れに、往年のファンの1人は「駆け出しの頃の彼等を彷彿とさせる」と喜びの感想を述べていた。始まりの合図なのに何処か懐かしさを孕む、運命的な詞とメロディーに沿って歌うファンの声音は愛に満ちていた。


そして、JUST LIKE THIS

この曲は正直IKEさん止まりでお蔵入りだと思っていた。これまでのSPYAIRの歴史を語るJLTに於いての特別な楽曲だからだ。IKEさんが歌わないと説得力を伴わない。それこそ只のカラオケになってしまうかもしれない。

だけどその解釈は間違っていた。UZさんの魂が籠ったMCが過去と今、そして未来を繋いだ。躓きながら揺れながら、UZさんは時間をかけてゆっくりと語った。涙ぐんで、俯いて、ひとつひとつ噛み締めながら、誰もいない名古屋の公園で始まったSPYAIRのこと、軌道に乗り始めた頃メンバー間に軋轢が生じたこと、溝を埋め気持ちをひとつに、初心に還るべくはじめたJLTのこと、IKEさんがいなくなったこと、メンバー其々の気持ち。

会場の四方から啜り泣く声が聞こえてきた。
長く彼等を追いかけてきたファンの心に、直接響くような痛切な魂の叫びだった。すごく赤裸々で、泥臭かった。何かを堪えるように会場の遠くを見渡すMOMIKENさんとKENTAさんの表情にも、胸の奥をぎゅっと掴まれた。
人生で様々なLIVEを映像中心に見てきたが、あんなMCは初めて聞いた。口ではなく心が言葉を紡いでいた。不安じゃない人はいない。完璧すぎでは前を向く意欲は生まれない。不完全だからこそ届けられる、彼等ならではの世界が確かにそこにあった。


余談だがワタシはこのJUST LIKE THISという曲の詞で忘れられない衝撃的なフレーズがある。

“いつか離れるから 永遠なんてないから
 だから、いま知って欲しかったんだ”


SPYAIRはずっとずっと続くものではない。
当たり前の事実が永遠のように横たわる。限りある眩い今を懸命に、との想いがあることは承知の上だが、敢えて本人達に突き付けられるとは思わなかった。SPYAIRは夢だけを見せるバンドじゃない。現実と向き合う力と勇気を与えるバンドの、真髄のような切なさを孕んだフレーズだ。


そして、今へ。歴史の語り部であり未来への架け橋としてマイクを握ったYOSUKEさんを筆頭に奏でるJUST LIKE THIS____

YOSUKEさんはSPYAIRがインディーズ時代に公園を人でいっぱいに埋め尽くした喜びも、メジャーデビューが決まった瞬間も、メンバーが見てきた景色の全てを知らない。あるのは、今とこれから。そして、たった一言。

「つないでいくぜ、JUST LIKE THIS!!」

拳を突き上げ、大声でそれに応えた時、涙が溢れてもう止まらなくなった。タオルで拭っても拭ってもボタボタと零れ落ちる。見渡せば多くの人が同じだった。
“ここまで来た10年”。YOSUKEさんが知らない年月。メンバーの涙ぐむ顔に苦しくなる。
でも、間違いなくこうなるべくしてなっているのだ。未来は誰にも分からないから必死に今を胸に焼き付けなければならない。JLT2023は二度とやってこない。やっとの想いで帰ってきたのだ、彼等はこの場所に。これからまた何度でも何度でも帰ってこれる。
きっとそうだと、信じるだけだった。

_____

ある意味、バンドの看板であるボーカルというポジションが脱退を決めた時、普通に考えれば解散の道を選ぶのが昨今の流れとしては妥当だ。
存続を決め、再起を誓い、動きはじめた物語。自らの手で後戻りできないよう会場を抑え、驚愕のキャンセル料を3で割る未来を描きつつも葛藤し、約1名を丁寧にほぐし、思い出と軌跡を辿り、日々を重ね時は流れ、そして運命のようバケハを目深に被ったオーディション規則違反のYOSUKEさんが現れた。

あっちもこっちもてんやわんやだがYOSUKEさんもまた岐路に立っていた。前身、彼自身の言葉を借りれば“母体”である20/Around解散後、ソロに転向するも思い悩む日々、音楽を手放すか否か決めあぐねていた。メンバー3人とYOSUKEさんは度々インタビューで「しがみつく」という言葉を用いる。音楽にしがみつく、這ってでも演る、情熱というよりは執念に近い何かを感じた。JLT2023で、彼等が愛してやまない音楽の魅力に触れた。今4人が出来る最大限を出し切った最高の本編だった。

____


波のような声のうねり、アンコールのリクエストはファミリーの愛そのものだ。SINGINGのフレーズが遠く遠く響いてまた繰り返される。
手を振りながら再度ステージに現れたメンバーを見るやいなや、会場はまたひとり、ひとりと立ち上がり拳を空に向ける。SPYAIRの嬉しそうな笑顔にこちらの頬まで緩んだ。
アンコール一曲目、YOSUKEさんの曲紹介は唯一で秀逸だった。

「俺SPYAIRでこの曲だけハマっちゃってさ、久しぶりに聴こうと思ってYouTube開いたら、下の所に“SPYAIR、ボーカル探してます。”って出てきたんだよ!この曲が俺とバンドを結び付けてくれた!!だったらやるしかねェよな!?0GAME!!!!」

アツすぎる………………

こんな演出があっても良いのだろうか。
立場的にも世界中どこを探してもYOSUKEさん以外不可能な天才的とも言える曲紹介に会場のボルテージは最高潮を迎える。おそらくあの時日本で一番、否、世界で一番熱い夏が到来していた。スパイダーマンカラーの赤髪が陽が落ちかけた富士急の風に揺れていた。


彼もずっと、不安で眠れぬ夜を過ごしたに違いない。とても、常人では経験できない日々だ。世界的にもほんの一握りの立場に置かれた、まだ少年との間を行き来する青年。
華奢な肩に括り付けた荷が、鉛のような冷たさでのしかかっていた。とても重いものを持って、花道を走っていく。翼が生えたような軽やかな足取りと歌声に聴衆は完全に惚れていた。想像以上にボーカリストの立ち振る舞いで、最後まで笑顔を絶やさず会場にピースサインを掲げて見せた。大した男だと思った。拍手は心からのものだ。メンタルが鋼のように強い。ここを見抜いたメンバーの人選も、流石としか言いようがなかった。

どうしても上手く歌えない曲がある自覚が、本人にあった。名古屋・東京と重ねたファンクラブ限定ライブでも思い悩んでいたようだ。でも確実にステップアップしていた。練習を重ねていたのは誰の目にも明らかだった。

YOSUKEさんは元々SPYAIRのファンではない。ということは、披露した殆ど全ての楽曲をこの数ヶ月間で覚えたということだ。違う人のために作られたキーの合わない曲をなんとか歌えるようにしてきたということだ。世界観を身体に染み込ませたということだ。何もかもを受け止める覚悟を、富士急まで持ってきたということだ。
それだけで、どうだろう。想像に任せたい。もしあなただったならどうですか?ワタシだったならどうだろう?改めて問いかける。

勇気と度胸とあの魅力は、誰にでも備わっている訳じゃない。


アンコール二曲目、JLTのラストは恒例のSINGINGで締め括られ、会場は完全に一つになった。夜空に輝く光の花を目に焼き付けながら、ワタシはそれを見上げるメンバーの横顔を見た。どうかずっと、そんな素敵な顔でいて欲しいと思う。人前に出る職業には色んな声が付き纏う。勿論覚悟の上でやっているとはいえ、心が傷付かない特別な仕掛けを持っている訳じゃない。真摯に、懸命に取り組んでいる姿が全てのうちは、傷付く必要は無いと個人的には思う。苦しんで踠き続けた先に見る景色よりも、今日この時皆で一緒に見上げた花火に焦がれてほしいと、心から願った。


___


唐突な自分語りで大変恐縮だがワタシは仕事柄、明日を生きるのも精一杯な人の話に耳を傾けることがある。当たり前に眠り目覚めたら朝が来ることの尊さを忘れがちな日々で、語り手達の言葉は重く深く響く。永遠は無いのだと新鮮に思い知る。だから、向き合える時に真剣に向き合わなくてはならない。

IKEさんはもうSPYAIRにいない。
随分と縮小された会場に愕然とした声を漏らす観客も多く見受けられた。でも、私達は生きている。明日からもきっと生きていく。
だから、10年かかっても、20年かかっても、またこの会場を人でいっぱいにしたい。それがファンの、ファミリーの夢であり目指す場所になった。最初から全盛期ではつまらない。SPYAIRは再起を掛け、闘っていく。ついて行こうと思う。いつまでも、何処までも。ファンとしてSPYAIRの光でありたいと願い共に歩む。
だからどうか、永遠ではないからこそ、SPYAIRも限りある時の中で燦然と輝いていてほしい。
平凡で勝手な、一ファンの戯言である。
その一ファンは、あの曲、あの声、あの4人を追って、紛れもなくここまで来たのだ。

そして今この富士急の地に立って想う。
光は、進む先に必ずあると。

ありがとうSPYAIR。
JUST LIKE THIS2023、本当に行って良かった。
願わくばこの先の道をずっと、前に、前に!


2023.08.13
文責 : yuki (@yuki___snowy__)

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