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榮猿丸先生の俳句 鑑賞No.1~5

竹馬に乗りたる父や何処まで行く

季語:竹馬《冬:生活》

けん玉、めんこ、コマ、何でも上手な父。
風も比較的おだやかな冬の日。
竹馬に乗った父はまるで少年のようだった。わたしに教えるはずだったのにぐんぐんと楽しそうに何処までも行く。それはそれでなんだか嬉しかったあの日。

箱振ればシリアル出づる寒さかな

季語:寒さ《冬:時候》

暖房は消して寝る派だ。今朝は冷えた。寒さでお互いくっつき合ったシリアル。ゴロッと冷たい皿に転がり出る。ミルクでもかけてやろうかと思ったけれど、かたまり合っているシリアルだけは口に放り込んだ。ゆっくり体が目覚めていく。寒い一日が始まる。

M列六番冬着の膝を越えて座る

季語:冬着《冬:生活》

早く着きすぎてしまった映画館。よく暖房の効いた館内。ポップコーンとメロンソーダでも買ってこようと一旦席を立つ。パンフレットやらグッズやらを眺めやっぱり映画は一人に限るなんて思いながら席に戻る。M列六番。あ、M列七番八番に人がいる。五番にも。ダウンを膝にかけた女性に会釈をしながら両手にメロンソーダとポップコーンを持って跨ぐ。この不思議なすいません感。
冬の映画館には冬着の膝と小さな会釈が溢れている。

しやぶしやぶ鍋真中の筒や葱くつつく

季語:葱《冬:植物》

私はくっつく方の葱。人に合わせる気はさらさらない。瑞々しい優等生の葱たちはそのまま美味しく人間に食べられたらいい。
私は気づけば外れている。
嫌なもんは嫌と言えば敵をつくる。
たまたまここが合わないだけだよ多分。
しゃぶしゃぶ鍋の真ん中の筒にくっついた葱。
これは予想外?想定内?
どちらが良いかは自分で決める。
剥がれないなら貫くしかないよ。

斜交ひに置きある葱やシンクの縁

季語:葱《冬:植物》

葱の生き生きした姿がありありと見えてくる。置くんですよ、斜めに。シンクの縁に。
葱は火が通りやすいので最後なんです。
出したは良いけれど少し出番の早かった葱はシンクの縁で絶妙にバランスを取りながら。
料理好きもそうでない人も経験あるのではないでしょうか。
このありのままの光景の鮮やかさ。
詠むたびに広がる時代背景を読者に託す。
俳句はこうであるべきだと先生の句を詠むといつも感じるんです。

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