さらっと読める300字小説#2

「女喰い」

娘は逃げるべきか、留まるべきか迷っていた。
実はこういうことだ。
目前に迫った水揚げの相手をひと目見てから、震えが止まらないのだ。先祖に巫女がいたせいか、娘は勘がいい。その勘が、絶対にアレは駄目だと言っている。
最終結論は、今夜出さなくてはならない。
逃げればこうなる。ただ逃げても捕まるから、本気でアレから逃げたければ死ぬしかない。
留まればこうなる。娘は水揚げを済ませて女郎になる。アレを相手に、その水揚げが無事に済めば、だが。

いよいよ決断の時が来た。
だが、娘は動けない。アレは怖い。でも、死ぬのも怖い。
震えるだけの娘のもとに、遂に男が現れた。娘を見て、笑みを浮かべる。
「おいおい、そんなに怯えなさんな……すぐ終わるから」
その男の口が、耳まで裂けた。鋭い牙がずらりと並んでいるのが見える。
娘は声も出せず、それが近づいてくるのをただ見つめていた。

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