さらっと読める300字小説#4

「ガスと電気と男と女」

斉藤家の嫁、夏海さんの意見はこうだ。
「IHヒーターですわ。お義母さまの火の消し忘れ予防にもなりますし」
一方、姑の加奈子さんの意見はこうだ。
「いつ私がそんなことを?それに、料理はやっぱり直火のガスコンロがいいに決まってます」
壊れたガスコンロの買い替えを巡って、両者は一歩も譲らない。

「おいおい、喧嘩してないで決めてくれ」
これは夏美さんの夫、俊夫さんの言葉だ。他人事のような口調に、女性陣の矛先が彼に向かう。
「あなたはどうなのよ!」
「そうよ。俊夫はどっち?」
その剣幕に驚きつつ、俊夫さんは庭を指差した。
「俺はアレだね。これぞ男の料理!」
庭にはいつの間にやら大型のダッチオーブンが設置されていた。しかも、なにか焼いているのかいい匂いがする。
得意げな俊夫さんの横で、嫁と姑は呆気にとられるのだった。

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