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移動動物園の思い出

先日、近所のショッピングモールの前を通りかかると、移動動物園が来ていた。とまり木に大きくてカラフルな南国っぽい鳥が何羽かとまっているのと、木製の柵の中にうさぎなど小動物がちらっと見えた。朝一番の仕事が終わり、次の現場へ向かうための移動中だった。

私はこどもの頃、京都のはずれに住んでいて、公立の保育園に通っていた。木造の古い平屋建てで、遊具らしい遊具は、ぶらんこと鉄棒、小さなすべり台くらいしかなかったが、保育園にしてはかなり広々とした園庭があった。広い園庭を利用して、毎年秋頃に移動動物園が来ていた。当時はカラフルな鳥なんかは来てなくて、ヤギとか、羊とか、豚とか、いかにも家畜というような、穏やかな動物が来ていた。キリンとか、ゾウとか、ヒョウとかが来ると思っていた当時の私には地味なラインナップで、残念に思った覚えがある。今思うとそんなのが来たら大変なのだが。

園庭の真ん中あたりにサファリルックの動物園のお兄さんが立ち、その前に園児が集まって座り、さらにそのまわりを先生や保護者が囲む。お兄さんは慣れた様子で挨拶をし、動物達の紹介をしてくれる。

「みんな、動物好きかなー?」

「はーい!」

「やぎさんにごはんあげたい人ー!」

「はーい!」

和やかに進行は進み、いよいよ後ろの檻から、とっておきの動物が紹介される。
お兄さんが取り出したのは、ヘビ。
あざやかな黄色とオレンジ色の細くて長いヘビは、地味目の動物達の中、とてもきれいに見えた。
お兄さんは手慣れた様子でヘビの説明をしながら首にかける。

「大人しくて可愛いでしょ?首に巻いたりもできます。巻いてみたい人ー!」

「はーい!」

…元気よく手を挙げたのは、わたしただ一人。

後ろの大人たちのざわつきの中、「ゆ、ゆかちゃん⁈」という慄いた母の声。

(あれ?誰も手挙げへんかったん?)

ライバルがいないため、めでたく前に出て蛇を首に巻いてもらう。はじめて触らせてもらった蛇はひんやり、乾いていて、きれいな黄色とオレンジ色の鱗がピカピカ光っていた。

それ以来何かにつけて、蛇を首に巻いた女と家族にいじり倒されるはめになったが、当時の私は巻きたかったのだから仕方がない。今は多分無理だけど(笑)アルバムの中、蛇を首に巻いてもらってニヤニヤしている5歳のわたしの写真は、我ながら幸せそうで何度見ても笑える。


雨あがる夏野に移動動物園

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