ノート用梅

アルビノと黒染め~神実知さん~

アルビノ当事者に黒染めについてインタビューする記事第二弾、始めていく。
春の近づくなか、お話を聞かせていただいたのは、神実知さんだ。
小さな頃から黒染めをしていたが、昨年春から黒染めをやめ、現在は元の色が少しずつ出てきている。
目の下あたりまで伸びた白い髪と茶色の毛先、という今しかできない髪型を楽しんでいるようだ。

神 実知(じん みち)さん  アルビノ当事者の女性。3年の教師生活を経て、夫の中野渡さんと青森県十和田市で「14-54 CAFE」を経営している。

黒染めは当たり前のものだった子ども時代

雁屋:神さんは子どもの頃から黒染めされていたんですよね。

神さん(以下神):そうですね。幼稚園の頃から染めてました。おばさんが美容師だったので、お母さんがおばさんから染料を買って、私の髪をずっと染めてくれてました。幼稚園、小学校って進むにあたって、私のことを思って染めてくれてたんだと思います。

雁屋:幼稚園の頃から……早いですね。どれくらいの頻度で染めてたんですか?

神:全体を月1回、生え際とか見える部分だけ2週間に1回とか染めてました。伸びるごとに染めてたので、その頃は黒染めというより染めるのは普通、当たり前って感じでした。

雁屋:その頻度だともう染めるのは日常って感じですね。

神:そうですね。あとやっぱり染料が手に入りやすくて染めやすい環境だったってこともあると思います。

人と違うことを、意識する

雁屋:神さんがいつもやってる染めることを”黒染め”と意識したのっていつなんですか?

神:中学生ですね。

雁屋:やはり、「髪を染めてはいけない」みたいな校則に出会ったからですか?

神:それもあるけど、小学校の時も思ってたけど、人と違うっていうのをすごい実感してた時期でした。肌の色もだし、睫毛も白いし。染めるのもそのくらいの歳になるとなんかもう面倒くさくなってきて。

雁屋:面倒くさいですよね。

神:染めるの当たり前だから、しょうがないと思ってやってたけど、髪が黒かったらどんだけ楽だろうなって思うこともありました。

雁屋:ああ……しんどいですね。中学高校では(服装頭髪検査とか)どういう対応だったんですか?

神:“神実知っていう生徒は元々白くて髪だけ染めてる”って先生達が共通理解してて、そう見られてるから特に何も言われなかったですね。

雁屋:よかったです。

白いのも武器だと思えた

雁屋:髪や肌を綺麗って言われるのってやっぱり嫌だったりしますか?

神:私は嬉しいです。

雁屋:(髪や肌を褒められると)私も嬉しいです。

神:高校生になるまでは人と違うこと、自分だけ白いことって、すごい嫌だったんだけど、高校生になって、友達から、”白くて綺麗”とか”かわいい”とか言われるようになってから、あ、これいいんだって思えるようになりました。親とかからはその前から”かわいい”とか言われてたんですけど、親以外の他人から言われるのはまた違うというか。大学生になってからも友達に”綺麗”とか言われるようになって自信もつきました。

雁屋:それは自信になりますよね。

神:”この白いのは私の武器になるのかもしれない”って思えました。

黒染めをやめたきっかけ

雁屋:神さんはすごい長い期間を染めてますよね。

神:そうですね。幼稚園から小中高染めて、大学生染めて、社会人なって3年間染めてました。2018年4月から自分の白い髪を伸ばし始めました。

雁屋:染めるのをやめたきっかけって、何かあるんですか?

神:大学4年の時にドーナツの会のアルビノ甲子園で大阪に行った時に初めて舞さん(薮本舞さん、アルビノ当事者でドーナツの会代表)に出会って、他にもアルビノの人を見て綺麗だな、自分も元の髪を伸ばしたらこんな風に綺麗な髪になるのかなって思ったのがきっかけです。それで、社会人になる時に染めるのやめようかなって思ったんですよ。

雁屋:実際には社会人になってから3年、染めてますよね。

神:講師として働く前に面接を受ける時に面接官の人や実際就職する先の学校の校長先生に、「地毛が白くて、髪白くするけど大丈夫ですか」って聞いたりして、「人それぞれみんな違うのでこちらとしてはなんら問題ありませんよ。困ったことがあったらいつでも相談しに来てください」って言ってもらってはいたんですけど、踏みきれなくて。

雁屋:踏みきれなかったんですか。

神:自分の個性だからいいんだと思いつつも、学校の先生は黒い髪で派手な見た目はよくないという固まった考えももっていたので、踏みきれませんでした。白い部分が伸びてくると染めなきゃって感覚がまだあって。白い髪が伸びてくる途中って白髪染めてないんだ、みたいになるじゃないですか。

雁屋:伸びきってしまえば地毛だとわかるけど、伸びる途中は、そうですよね。

神:それで、去年(2018年)、先生からカフェに転職して、自分を見つめ直す転機になったので、染めるのをやめました。白い髪が伸びきるまでは帽子かぶってればいいし。

黒染めをやめて

雁屋:黒染めをやめて、周りの反応はどうでしたか?

神:家族も友達も、否定的に捉える人はいませんでした。

雁屋:それは本当によかったです。

神:伸びてくると“伸びたね~”って言ってくれたり、“(伸びるのが)楽しみだね~”っていう風に言ってもらえるしそれはよかったです

雁屋:すごいあたたかい感じですよね。

神:今となっては白いの結構見えてるから、こう髪結って、後ろで束ねてれば白いし、お客さんとかにも、“髪、すごいいい色ですね”とか言ってもらえたり“ミュージシャンですか?”とか言われたりしますね。あと美容師さんに興味持たれたり。

雁屋:わかります、”いい色に染まってますね”とか言われます。

多様性を認められる社会になっていってほしい

雁屋:(アルビノ当事者の)神原由佳さんが1月にテレビに出た時に、「黒く染めろよ」みたいなコメントがあったんですけど、そういった黒染めを強要する空気や社会に対してはどう思いますか?

神:おかしいなって思いますね。一人として同じ人間はいないのに。

雁屋:そうですよね。”黒く染めるなら”雇える、みたいなこと言ってくる会社って、結局アルビノの他の症状、弱視についてもあまり対応してくれないと思うんですよね。

神:私の場合は学校現場、特にいろんな特性をもつ子ども達がいる特別支援学校だったので大丈夫だったと思うんですが、髪の色で落とされたり、黒く染めろって言われたり、あってはならないことだと思います。理解のある会社が増えたらいいですよね。

雁屋:わかります。

神:皆同じじゃないといけないっていうのが昔からの日本の教育のやり方なんだろうけど、多様性がうたわれてる時代にそういうのはもう時代遅れなんじゃないかなって思います。

雁屋:これからは多様性を認めていく社会であってほしいですよね。


小さな頃から黒染めをしてきて、2018年4月から黒染めをやめた神さん。
神さんが”白いこと”を肯定的に捉えられるようになっていったきっかけに友人達の言葉があるように、私達は多様性に寛容になる時を迎えているのだろう。

執筆のための資料代にさせていただきます。