ノート用梅

アルビノと黒染め~廣瀬真由子さん~

アルビノと黒染めシリーズも第三弾となり、今回で終わりを迎える。

最後に協力していただいたのは、クリーム色の髪を長く伸ばしたアルビノ当事者の女性、廣瀬真由子さんだ。

廣瀬真由子(ひろせ まゆこ)さん
アルビノ当事者の女性。日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。武蔵野音楽大学大学院を卒業後、声楽家を目指して勉強中。
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小学校に上がって、人と違うと気づいた

雁屋:(髪の色などが)人と違うんだって意識したのはいつくらいですか?

廣瀬さん(以下廣瀬):小学校上がった時ですね。母が室内の遊具も充実した幼稚園に入れてくれて、小学校に入ってくる多くの子と違う幼稚園を卒園して、小学校に入ったんですよ。そしたら同じ幼稚園の子が学年に数人しかいない環境に放りこまれる形になりました。

雁屋:圧倒的に少数派ですね。

廣瀬:幼稚園の頃は何が異常で何が普通とかってよくわかってないから髪の色のこと聞かれた覚えもなく、そういうものとして受け入れられてたと思うんですけど、小学校に入ってから初めて会う子達ばかりだったので、”何でそんな色なの?”ってすごく聞かれたんですよね。それで、”そんなにこの色って皆びっくりするようなことなんだ”って自覚しました。

雁屋:聞かれますよね、すごく。

廣瀬:母が小学校の学年上がる度に最初の保護者会で「うちの娘は生まれつきこう(アルビノ)です」って説明してくれてたらしいので、小さないじめはありましたけど、そんなにひどいものはなかったです。

雁屋:黒染めという言葉を意識したきっかけ、エピソードはありますか?

廣瀬:きっかけというほどでもないんですが、小学校か中学校かどこかのタイミングで自分の色が周りと違う、圧倒的に少数派なんだっていうのに気づいて、”この色って黒くした方がいいの?”って母に聞いたことがあるらしいんですよ。自分では聞いたこと、覚えてないんですけど。

雁屋:覚えてないんですか。

廣瀬:覚えてません。母が”昔こういうことを聞いてきたよ”って教えてくれました。その時は母が”別にいいんじゃない。染めたければ染めてもいいけど別にしたくないならよくない?”って感じだったらしいです。”あ、じゃあいいや”ってなりました。

雁屋:覚えてないってことは廣瀬さんの中で重要ではなかったんでしょうか?

廣瀬:そうですね。そんなに大した命題ではなかったんでしょうね。

雁屋:中学入って、服装頭髪検査とかってどうでしたか?

廣瀬:何も言われなかったです。母が入学時に話をしてくれてたと思うんですよね。髪の色になるべく近い色のヘアゴムを使いなさいって言われた以外は特に何も言われず先生方に普通に受け入れられてましたね。

このままの色で大人まで生きれるんだ

廣瀬:母親は許容的でしたけど、周りからは”白髪ババア”だ何だっていじめられたこともあったし、少数派は排斥されるのは痛いほど感じたので周りに合わせた方がいいのかなって小中学校の時は思ってました。小学校の頃に私が周りに合わせなきゃって頑張った時期があって、頑張ってみたけど疲れてしまって、それで小学5年の3学期からずっと不登校をやってたんですよ。

雁屋:合わせるのって疲れますよね。

廣瀬:周りに合わせる努力がすごく負担だから合わせなくていいところ、家に逃げこみました。習い事はしてたので結構外に出る生活ではあったんですが。高校は通信制高校に行ったので、関わりも薄くて、気にすることもなかったです。ただ地元は田舎なので、外を歩けばじろじろ見られるし、常に気にしてはいました。どこかで黒くした方が楽かなって考えがあったと思います。

雁屋:見られると気になりますよね。

廣瀬:それで、高校の時に、今私がスタッフをやっている日本アルビニズムネットワーク(JAN)って団体が設立されたことを知って、新幹線で東京にミーティングに2ヶ月に一回くらいで、行ってたんですよ。別に染めるってことをせずに生きてる当事者にたくさん会って、“このままの色で大人まで生きれるんだ”って思ったんですよね。当時は生まれもった身体を傷つける形で変えるっていうことにも抵抗があったんですけど。

”そのままの色でいいのよ”

廣瀬:音楽好きだったし変な人に寛容なところだろうと思って私音大入ったんですけど、実際変な人もいっぱいいたし、すごいいい学校でした。”学校として対応してほしいところがあればそれぞれの授業の先生に言ってくれればできることはするよ”って言ってくれて、実際その通りに授業のプリントとかテストとか言いに行ったらしっかり対応してもらえました。

雁屋:よかったですね。

廣瀬:それで、うちの大学、学部2年の頃から年に一回ある定期演奏会っていうのがあって、それの合唱で歌わせてもらえるんです。それに出られることになって、本番前の説明の紙を見たら、”髪が黒くない人は黒く戻してきてください”って書いてあったんですね。

雁屋:ちょっとドキリとしますよね。

廣瀬:結構厳しく”あなたのそれは地毛なの?”とか言われてる子もいたりして、”私ももしかしたら言われるのかな”ってちょっとびくびくしてました。”入試は大丈夫だったけど、本番はさすがに周りに合わせなさいって言われるのかな”と思って担当の先生に聞いたんですよ。”私も髪の色を周りに合わせた方がいいですか”って聞いたら、その先生がとてもいい先生で、”あなたのそれは生まれつきの色なんだから、あなたはそのままの色でいいのよ”ってはっきり言ってくださったんですよ。

雁屋:それは安心しますよね。

廣瀬:それで私すごい安心して、大学そのものへの信頼感みたいなものができました。そして次の年、その演奏会の説明の紙の表記が”髪が自然な色でない人は自然な色に戻してきてください”って変わってたんです。本当にいい学校だなって思いました。

雁屋:聞いていていい学校なのが伝わってきます。

大学は優しいけど、外の世界は染めなきゃダメなんだ

雁屋:アルバイト等で黒染めという言葉が出てきた経験はありますか?

廣瀬:ありますね。あと視力でお断りされたこともあります。声楽学科の人がよくやるアルバイトで聖歌隊っていうのがあって、結婚式で歌うバイトなんですけど、それがやりたくて、事務所の面接に行ったんですね。そしたら黒染めの話が出てきて、”事務所としては別に構わないけど、結婚式っていうのは一回限りでその時しかあなたを見ないお客さんが大量に来てそれで、そういうちゃらちゃらした人を雇ってるのかって式場とか事務所に言われたらいろんな人に迷惑がかかっちゃうから”って言われたんです。要は”黒染めするなら雇えるけどしないなら雇えない”ってことですよね。

雁屋:ひどいですね。その話はどうしたんですか?

廣瀬:その時は“ちょっと考えさせてください”ってお返事をして別れて、私は正直“やっぱりそうなんだ。外の世界はそうなんだ。大学はやっぱり優しいけど外に出たらそうじゃなきゃ仕事なんかないのか”って思って、黒染めかかつらかどっちかするつもりでいたんですよ。でも、周りの大人、親とか先生とかにその話をしたら、皆怒りだして、“そんなこと言う事務所どうせろくなことないからやめなさいよ”とかって言われて、“周りの大人皆怒ってるしやめとこう”と思ってその事務所に行くのはやめたんですよ。

雁屋:やめて正解だったと思います。

廣瀬:そうですね。今となってはそう思います。また別の時にコンサートスタッフのアルバイトに応募した時に、”カラーコードがあるのでスプレーか何かで色を抑えていただかないと”って言われた時には”じゃあいいです”ってお断りしました。それこそ雁屋さんが書いていた通りで、色を抑えるって表現が出てくるあたりおかしいって思ったので。

雁屋:そうですよね。おかしいですよね。

廣瀬:その辺りでアルバイトに関しては”黒染めを強要されるならその仕事はしない”って考えになったと思います。舞台や演奏会で必要なら、黒染めもかつらも、喜んでやりますけどね。黒髪の何とか、っていう指定の役もあるので。歌を聴いてもらってお客さんに観てもらうためだから。あと一日限りで髪の色を変えられるヘアチョークとかで遊んだりもしてます

人の縁で、アルバイトに巡りあう

雁屋:今はどんなアルバイトをしてるんですか?

廣瀬:2つやらせてもらってて、コンビニ店員とプロのオーケストラのチケットセンターですね。

雁屋:コンビニ店員……! 私はできなさそうです。

廣瀬:2つとも人の縁で見つけたアルバイトです。コンビニの方は学生時代によく使ってたコンビニに演奏会の協賛をお願いしに行った縁で、チケットセンターは後輩の紹介です。

雁屋:髪とか視力については、どんな感じでしたか?

廣瀬:コンビニの方は”うち染めるの禁止だけど、地毛なら問題ないよ”って言ってくれて、視力についても、そのバイトで見る一番小さい文字がおにぎりの裏の賞味期限で、それを見せられて”これが読めるなら大丈夫”ってなって採用が決まりました。オーケストラのチケットセンターの方は働いてる人の縁で人を集めてるところで、後輩がそこでバイトしてて、やりたいって言ったら、髪の色のことも含め聞いてくれて採用がきまりました。最初に読める字のサイズを聞かれて、それでできる部署でやらせてもらってます。

雁屋:人の縁ってすごいですね。

廣瀬:音楽では人の縁ってすごい大事なんですよね。

そういう色なんだ、ふうんで終わる社会が理想

雁屋:黒染めを強要する社会や空気についてはどう思いますか?

廣瀬:それ自体はおかしいことだと思います。変わっていけばいいことだと思います。学校のイメージを背負う時に”ちゃらちゃらした格好をするな”っていうのは当然のことだとは思いますが、基本的に選択の自由があるといいですよね。

雁屋:選択の自由があって欲しいですよね。

廣瀬:髪を染めたら反社会的な人だとかちゃらちゃらした人って思われるのはおかしいなって今話してて思いました。そういう色なんだ、ふうんで終わる世界が理想ですね


大学でいい対応をしてもらえたものの、髪や視力を理由にいくつかのアルバイト不採用経験もして、人の縁で現在のアルバイトを見つけた廣瀬さん。

廣瀬さんも言っていたように、髪を黒くするかを選択する自由がある社会になって欲しいと切に願う。

執筆のための資料代にさせていただきます。