献血に行ってきて思ったこと

 なんだか最近、秋葉原の献血センターに漫画の女性キャラ(巨乳)のポスターが貼られていることで、なんやかんやとTwitterが騒がしくなっていた。こんなキャラを献血の場に提示するなとか、オタクの血液はキモいやらなんやらかんやら……
 言うのは別にいいとして、この話題の最先端を行きたいと思うならもう『献血をしに行く』の一択しかなくね? と個人的には思うのだ。
 騒ぐばかりで献血しない奴らが外からやんややんやと騒いでいるのを尻目に、献血できる場に優雅に赴く……これこそ最高&クール、至高の楽しみ方じゃないか、とすらわたしなどは思うのだが。

 とはいえ県庁所在地からもほど遠いこの片田舎で『献血をする』となると、基本的に献血カーがきている場に赴くしかない。
 試しに近くに献血センターはないかと検索してみたら、いずれも隣県の献血センターばかりが出てきて閉口した。そのうち一つは家からそこまで遠くなかったので、機会があったら行ってみたいとは思ったけれど。
 とにかく、献血カーの行き先を見てみたら、ちょうど本日市役所で行うとの告知が出ていた。献血カーが何日にどこへ行ってなにを実施するかは、それこそ「市町村名 献血」でググればすぐに専用のサイトに行き着く。だいたい一ヶ月先まで告知しているので、それを参考にしていただきたい。
 だいたいは市役所の前や、イオンモールなどの大型商業施設の駐車場で行っている場合が多い。二週間ごとくらいに献血カーは各所に現れ、行き交う人々に献血をお願いしますと呼びかけている。

 さて、なぜ献血について書くかと言えば、先述した女性キャラポスターでTwitterが騒がしくて興味が向いた、というのもあるが、一番は先日の台風19号だ。
 災害が起きると怪我人が多く出るため、どうしても輸血用の血が必要になる。
 現に、献血カーが止まる周りには「台風19号のために血液が不足中。協力求む」の張り紙が所狭しと貼られていた。スタッフも誰かが前を通りがかるたびに「献血お願いします」と呼びかけていた。

 とはいえ、献血はしたいと思った全員ができるものではないという現実もある。
 まず三日以内に歯医者に行って血が出るような治療(歯石を取ったり抜歯したり)をしている場合はアウト。
 四週間以内に海外から帰国したひともアウト。
 一ヶ月以内にピアスを空けたひともアウト。
 六ヶ月以内に不特定多数の異性とセックスしたひと、男性同士でセックスしたひと、麻薬覚醒剤を使用としたひと、そのひととセックスしたひと……全部アウト。
 さらにこれまで輸血や臓器移植を受けたひともアウト。
 過去にかかった病気の種類によってはアウト。
 中南米諸国で生まれた、または育ったひともアウト。母親または母方の祖母が中南米諸国で産まれた、育った場合もアウト。
 中南米諸国に四週間以上滞在、居住したことがあるひともアウト。

 ……。割と制約が多い気がする。
 言わずもがなだが、エイズ検査目的のひとはもちろんアウト。

 さらに薬を飲んでいる人、一年以内に予防接種を受けたひと、海外滞在歴があるひとも検査前に申告しなければならない。

 わたしは低用量ピルを常用しているので、それを最初の時点で申告した。問題はなかった。たとえば風邪薬とか湿布とか、そういうものであればたいてい大丈夫と言われるらしい。その日飲んだ薬があれば薬名を伝えるのが一番確実だ。

 さて、「献血したいんですけど~」とスタッフに言えばすぐに「こちらでお待ちください」と椅子に案内される。献血カーの場合は待ち時間はだいたい外になる。この時期は風が吹きさらしなので普通に寒い。これからの時期はもっと寒いだろうし、夏は暑すぎて待ち時間は大変だろう。
 献血をするに当たっての注意事項が書かれた紙(まさに上記に書いた注意が書かれている)を渡され、該当しないかを確認する。すべてOKだったら住所や氏名を記入。一度でも献血したことがあるひとはデータがあるのでここは省略できる。
 わたしはおよそ九年ぶりの献血で、最後に献血したのは大学生の頃、東京でだった。おそらく大学内にきていた献血カーでやったのだと思う。
 そのとき登録した暗証番号をすっかり忘れていたり、住所も名前も変更があったが、まぁさほど時間はかからずにそのあたりは終わった。
 それと久しぶりなので体重を申告することになったが、それは電卓のような打ち込み機械があるので口頭で伝える必要はない。女性だと全血の場合、体重が50kg以下で200ml、以上で400mlになるので、微妙な方は先に量ることをおすすめする。
 ほかには睡眠時間と朝食を何時に食べたかを聞かれた。飲んでいる薬の種類もここで申告した。
 そのほか最初に見せられた質問事項がタブレットに映し出され、それにまたイエスかノーで答えていく。タッチペンを使って。今時の献血はハイテクである。

 登録と質問回答関係が終わったらスポーツドリンクとホッカイロを渡されて、水分取りつつ指先を温めておくように言われる。そうして待っていると献血カーの中に呼ばれて、最初に血圧を測る。体調なんかもそのときに聞かれる。
 次は採血だ。両方の腕を見せて献血をする腕を決める。採血は献血しないほうの腕で行う。わたしは右腕で献血、左腕で採血だった。ここで採血されたあと、自分が何型かを告げられる。

 採血されながら思い出されたのは、始めて献血した高校三年生のときだ。
 一年に一回献血カーが学校にくるので、希望者は授業を抜けて献血に向かうことができた。
 一時間から二時間サボれるので嬉々として参加し、無事に献血している最中、わたしの次の次に採血したクラスメイトがガチでぶっ倒れた。
 彼女曰く、針を刺され血を吸い出された瞬間に意識が遠のいたらしい。今にも再び倒れそうな真っ青な顔で、献血カーのうしろに運ばれ、しばらく横になっていてね~と言われていたクラスメイト。なかなか衝撃的な光景であった。
 どうやら彼女、前夜は作品の製作のために遅くまで起きていたようで(美術部員で彫刻で県入選とかしていた)寝不足だったということだ。たとえ十代の血の気のあまりある年頃であっても、睡眠不足のときは献血はNGだと学んだ出来事である。

 あのときの彼女と同じようにぶっ倒れたら嫌だなぁと思いつつ採血されたが、幸いなことに特にめまいもなにもなく終わった。
 だがめまいで倒れるのもそうだが、意外とこの血液検査でNGが出て献血できないひとというのが結構多い。血液のチェック項目はたくさんあるのだが、そのうちひとつでも数値が、正常範囲からたった0.01外れていただけでも「献血できません」と言われてしまう。前後十五人くらいの参加者を見たのだが、そのうちの五人は献血できないと診断され、その時点で献血カーを降りていた。十五人に五人となるとわりと多い人数だ。
 この時点でわたしなどは『献血ができる』ことにちょっと得意になっていたりする。自分の健康が証明された気になっているから。

 狭苦しい献血カーの中では、すでに男性が何人か献血を受けていた。市役所で行っているので、おそらく大半が役所の方々なのであろう。一般の方と役所の方、半々くらいの割合かなぁと前後の人々を見ていて思った。

 そして席が空いたのでどちらの腕で献血するかを告げ、椅子に座る。椅子はリクライニングになっており、ほとんど横になる感じだ。
 それまで握っていたホッカイロではなく赤い色のスポンジを握らされ、二の腕にきつくバンドを巻かれる。そしてアルコールで肘の内側をガシガシ消毒され、茶色い液体でさらに消毒。それが乾くまでしばし放置。
 そして茶色の液体が乾いたところでいよいよ針を挿入する。
 普通の注射に比べてこの針は結構太い。採血用の針に比べてもかなり太い。針を刺す前には看護師さんが一生懸命血管を探すためにあれこれしてくれる。そして刺される。普通に痛い。
 よく「献血なんてそんなに痛くないよ~」と口にする輩もいるが、あれはだ。相応に痛い。針が刺さっているのだから当たり前だ。

 痺れた感覚がしたらすぐ教えてくださいと言われるも、ぶっちゃけ血液が滞っているせいか痛みはないけど腕全体なぁんか微妙な感じするなぁ、という感じなので、わからないのがつらいところ。特に気分が悪いとかはなかったのでそのまま血を抜かれる。
 不思議なことだが、最初の何分かは針が刺さっているところが痛いのだが、五分もすると特になにも感じなくなる。痺れじゃないけど妙な感じも、やはりそのうちなくなる。

 献血カーで行う献血は基本的に全血献血のみだ。成分献血は献血センターで行っているのが大半で、しかもこちらは時間がかかる。一度に献血できる人数が限られる献血カーでは難しいのだろう。
 それと献血カーでの献血は場合によっては400mlに限られることも多い。事前に情報をよく見ておくことをおすすめする。わたしは体重が50kgに満たないので200mlしかできない。今回受け付けてもらえたのは幸いだった。
 そして全血は成分献血に比べて副作用が出やすい。めまいや立ちくらみと言ったものだ。
 そのため血を抜かれている最中は「こういう体操をしていてください」みたいな説明図を渡される。足のつま先を伸ばしたり縮めたりする運動だ。適宜行うようにする。
 またふと天井を見てみると、これまで輸血を受けたひとのお礼状なんかが貼ってあった。献血してくれてありがとう、という一言を見るだけでも「ちょっといいことをしている」気分に浸ることができる。

 狭苦しい中で看護師さんたちは三人働いていたが、そのうち一人が「あら黒くなっちゃったわね」と呟いたので、わたしは思わず、わたしの血が黒ずんでいるのかと思って「黒く!?」と血が入ったパックを見つめてしまった。

看護師「あら違うのよぉ。タブレットのことを言ったの。これ中国製で古いからすぐ画面消えちゃってね~!」
佐倉「ああ、そっちですか。医療機関にくらいもっと新しいタブレット入れて欲しいですよねぇ」
看護師「本当にそう! でも全部そろえるとなるとコレ(指でわっかを作る)がそれなりにかかるから~」
佐倉「予算上げて欲しいですよね~!」
看護師「本当にね~!」

 なんて会話を交わした。そのときはなんとなしに言っていたが、あのとき献血を受けていた大部分の男性は役所の方々だっただろうから、もしかしたら強烈な当てこすりだったのかもしれないけれど。

 気のいい看護師さんはそれからも「寒くてやんなっちゃうわね~」だとか「朝曇っていたし寒かったから洗濯あきらめたわ」などと、完全に主婦の会話を振ってきた。わたしも楽しく答えるものだから、そこだけ異様な空間になっていた。居合わせた男性たちはつらかったであろう。
 合間に「献血も久々だと結構くらくらきちゃうから気をつけて~」だとか「でも元気そうに笑ってるしスポドリも全部飲んじゃってるからたぶん大丈夫~!」だとか言われたり。こういう方と話すのはとても楽しくてよい。

 そして無事に献血が終わり絆創膏を貼られ、その上からぐるぐるとテープを巻かれた。
「テープは二十分くらいで外していいんですけど、絆創膏は二時間は貼っていてくださいね~。剥がしちゃうと血がぴゅーって出ちゃいますからね~。割とそれで驚かれる方が多いんですよ~」と看護師さんが言うからには、おそらく耐えきれず剥がしちゃって血がぴゅーっに遭遇する人間が多いのだろう。
 献血するひとは十六歳以上の大人であるはずだが、わりと童心を捨てきれずにいる人間が多いということらしい。面白きかな、人間。

 特にふらふらはなかったのだが、その後丸半日ほど生理中と同じくらいの貧血っぽい症状がついて回った。身体に力が入らないしだるいし、確かに少しくらくらする。
 最後に献血した二十代前半と違い、今は三十代前半。やはり体力の衰えやら再生能力の低下は否めないのか……と思う一方、「久しぶりに献血をするとくらくらしやすい」と看護師さんは言っていたから、単に九年ぶりという時間がそうさせるのかもしれない。
 このあたりは今後要検証という形で取り組んでいきたい。また献血可能な時期になったら是非とも献血して、今回とどう違うかを体感したいものだ。

 献血カーから降りたあとは、受付をしたのと同じ場所で椅子に座って休憩。特に時間を計っているわけではなく、大丈夫だと判断したらおのおの去って行く感じだった。そこにはクッキーやチョコレートなどが用意してあって自由に食べてOKになっている。だいたいはスタッフさんに勧められて口にしていたのに、わたしはその前にさっさと二つ三つキープしていた。「いっぱい食べてください」とスタッフが笑うのに「全部持って帰りたいくらい」と笑って応じると「どうぞどうぞw」と言われるという。さすがに全部持って帰るのは自重した。
 献血が終わったあとは注意事項の書かれた紙が渡された。立ちくらみなどを起こした対処法のほか、血の使い道やら行方やら。それと万一、検査前に質問したやつで、本当は該当する項目があったら連絡をしてくれ、という注意書きも。
 プラス、カロリーメイトをいただいた。地元の市役所の献血カーで献血したときはシクラメンをもらったなぁと思いつつ。なにをいただけるのかが少しわくわくするのも地方の献血カーの面白いところだ。
 また採血などの結果、献血できないと判断されたひとにも、同じような注意書きの紙とポケットティッシュを配っていた。スタッフはいずれもとても低姿勢で、「わざわざ足を運んでいただいたのにすみません」としきりに頭を下げていた。そして「また機会がありましたら是非お願いします」とも。それだけ血が足りていないということかな、とも思った。

 そして休憩所の横には「献血ありがとう」と題したボードが置いてあり、献血カーの天井に貼られていたのと同じように、輸血を経験した患者さんのメッセージが書かれていた。
 それを読み終え、適度にお腹が満たされたわたしは、今度はトイレを我慢しつつその場を離れた。

 だいたい献血カーでの献血の流れはこんな感じ。
 意外と採血した時点で断られるひとが多いという結果に驚いた。
 同時に献血するためのハードルも、低いようで、意外と高いということも。
 三日以内に歯医者に行って出血していたらアウトというのは、割と当てはまる人が多い気がする。
 持病で薬を飲んでいるひとも多いだろう。
 わたしもピルを飲んでいるので、タッチパネルの質問時にホルモン剤を飲んでいると答えたら、その後あれこれ質問が出てきて、それを読むのも答えるのも少し大変だった。
 献血センターが近くにあるならまだしも、そうでない田舎住まいの人間は献血カーでの献血が基本になる。自分が献血可能な日に献血カーがくるとは限らないし、わたしのように200mlしかできない場合は、400mlしか受け付けていないから、と断られてしまうこともある。意外とやりたい気持ちとやれる条件がマッチしないものだ。

 単純に針が怖いというひともいれば、仕事や育児に追われ、とてもではないが献血をしている暇はないというひともいる。そういう場合は寄付という道もあるので、是非頭に入れておいて欲しい。

 とにかく、そんな中で献血をしてみて思ったことは『意外といいことをしている気分になれる』ということだ。
 スタッフさんには献血したいと言うだけでお礼を言われるし、あなたの献血のおかげで助かった命があります、などと書かれたボードを見れば、それなりにいい気分になるのは人間の性だ。
 採血で献血できますと言われれば自分が健康であることも自覚できるし、二週間後には詳しい検査結果も送られてくるから、自分の血液の状態も無料で理解できる。医者で血液検査する場合はそれなりの料金を取られるだけに、これもそれなりにありがたい。
 献血センターで献血する場合は、椅子の一つ一つにテレビがついている場合もあるし、待ち時間はお菓子食べ放題、ネット見放題、漫画読み放題、という素敵な環境もついている。自販機の飲み物はすべて無料だし、長居しても飽きないだろう。
 なにより『少しでも誰かの役に立っている』という実感を得られるのが大きい。

 ネットでぎゃあぎゃあ騒がれていようとなんだろうと、やらない善よりやる偽善とはよく言ったもの、献血したことで少しでも気分がよくなれればそれでいいではないか。

 ただ、確かに血を抜いたことで貧血っぽい症状はあった。
 その日一日ずっとなんとなく気持ち悪かったので、仕事の合間に抜け出して献血する場合には、その日一日のパフォーマンスに影響が出る可能性を考えておいたほうがいい。
 もちろんなんの影響もないひともいるだろうし、こればかりは個人差がある。わたし自身もこれから検証していきたい。

 なんにせよ、たかだか一時間くらいで『なんとなく人の役に立っている』気分は味わえるので、時間と体力があり針が怖くないひとは、献血に行くのもいいかもよ、とおすすめをしておく。

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