手洗いを頑張る代償

2019年1月8日。今日も私が住む北関東の某所は晴れ。天気予報で連日伝えられているのは「とにかく乾燥していてカラカラです」ということ。

というのも東京は昨年12月24日からずっと天気が崩れず、連続して晴れの日が続くということで新記録を出したとかなんとか。毎日布団が干せるのはありがたいことだが、晴れても別にぽかぽかと暖かいわけではなく、むしろ山から吹く風はびゅーびゅー強いし、冷たいし寒い。ビルが建ち並ぶ東京であればさらなる寒さは必須であろうて。

さて、そうなると気をつけるべきは火事と感染症である。

インフルエンザも猛威を振るい始めたらしく、実際年末の小児科はすでにインフルにかかっていそうな子供とこれからインフルの予防接種を受ける子供(大人やお年寄りも何人か)でひしめいていてなかなか賑やかな有様だった。

我が子たちも例によってインフルエンザの予防接種を二度受けたわけだが、親であるわたしと夫は打っていない。子供を預けて内科に打ちに行くのもなんともたるいし、打ったところでかかるときはかかると思うとたちまち腰が重たくなる、どうしようもない性分ゆえである。

そう、打ったところでかかるものはかかる。要はかからないよう予防に努めることが大事。そして予防で最も大切なものと言ったら真っ先に出てくるのがこれだ、『手洗い』。

看護師さんやら医師やらも、ニュースやらネット記事やらで一番大事なのは手洗いだと豪語している。それもただ水でざーっと流すだけではなく、石鹸をつけ、まんべんなく洗うのが鉄則だというのだ。

元来真面目なわたしは寒くなってきてから手洗いを特に徹底するように心がけた。外から帰ってきたときはもちろん、トイレに入ったあとも必ず泡ハンドソープをプッシュし、指のあいだ、爪のあいだ、親指の付け根、手首、と、小学校で習う手順をそのままなぞった方法で洗いまくっている。

それはいい。それはいいのだ。問題は、わたしの皮膚が年齢とともにだんだん傷みやすくなっているという悲しい事実だ。

子供の頃はもちろん、10代の頃も手荒れに悩まされることなどまずなかった。思春期特有のニキビのおかげで顔は吹き出物だらけのすごいことになっているし、今現在もまぁすごいけれども、乾燥して荒れるなんてこととは無縁だった。20代でさえ前半のうちは無縁だった気がする。

20代後半――もっと言えば、子供たちを産んでからだ。手荒れというものをじわじわと感じるようになってきたのは。

子供を産んだ時期と重なることと言えば家事、特に料理をする時間が増えたことではなかろうか。それに子育てというのはなにかと清潔を求められるもので、出産後に産院にいるあいだは、子供を抱っこするだけでも手を洗えと指導される。

とにかく子供にさわる前に手を洗え、おむつを替えたら手を洗え、スケールに乗せて体重を量り終えたら手を洗え、授乳する前に手を洗え、終わったあとも手を洗え、という手洗い精神を徹底的に叩きこまれた新米経産婦は、家に帰ったあとも割と真面目にこれらを頑張るものである。

おまけに哺乳瓶の消毒やら、汚れた衣服の手洗いやら、とにかく洗剤に手を浸す時間も長くなるのだ。そうして毎日睡眠不足でボロボロになると、肌も髪も歯もとにかく荒れる。わたしの場合、髪はそうでもなかったけれど、肌のボロボロ度はなかなかすごいものがあった。

ここからだ。急激に手荒れというものを意識するようになったのは。

それまでハンドクリームなど使わずとも特に荒れることのなかった手が、今やちょっとでも洗い物をすればあちこち白く粉を吹く。こうしてタイプしているあいだも指の股の部分が真っ白く粉を吹いているのだ。30分前にハンドクリームを塗ったにもかかわらず。

哺乳瓶の消毒が必要のない時期になったというのに、食器洗い用洗剤を使って、一日二度は必ずシンクにたっぷり溜まった洗い物をする生活を続けまくっていると、手の皮膚はあっという間にボロボロになる。この頃は洗い物をしただけで皮膚が突っ張り痛みが走るほどになってきた。食器用洗剤マジで怖い。一時期、手にも優しい感じでできています♪ 的な洗剤も使ってみたけどフツーに荒れた。フツーに荒れたよ。

テレビのCMで見るようなぱっくり割れこそないけれど、なんのケアもしなかったらあんなもん速効でできあがる。先日ハンドクリームがなくなってしまったときは本当につらくて、ぱっくりとは行かずとも普通に関節部分に筋が入って、なんだか血が滲んでいた。……いやこれ、ぱっくり割れじゃね?

なのでこの時期、主婦にハンドクリームは必須なのである。

が、悲しいかな。同時に猛威を振るう感染症から逃れるためには、手洗いは絶対に欠かせない。だって看護師も医者も予防のためには第一に手を洗えって言ってるんだもん。洗うしかないじゃんよ。

ただでさえ食器用洗剤で疲弊している主婦の手に、手洗いというさらなる負荷がかけられると、もはや皮膚はボロボロになり続けるしかないと言われているようなものではないだろうか。わたしの手は日々順調にボロボロになっている気がしてならない。主婦によっては洗濯物を手洗いしたり、もっと過酷な作業に従事して指先を荒れさせているひともいるのだろう。

……こういうことを書くと「使っている石鹸の成分が問題なんじゃ」とかいろいろ言われそうだけど、どうなんだろう? 正直どれがきても荒れるような気がする。牛乳石鹸ですら洗い上がり突っ張る感じするし。


とにかくだ。そうやって疲弊する主婦にとって『手洗い』という予防法はどことなく痛みを伴うものだ。

手洗いを頑張れば頑張るほど感染症の予防に役立つ。同時に、手から潤いというものが順調に奪われていく。

なんならぱっくり割れができて、唐揚げを作ろうとするとき鶏もも肉に醤油と酒とショウガを混ぜ込むのがものすごく痛い。使い捨ての手袋を使えという声が聞こえてくるが、いちいちそんなんやってられっか。

だけどインフルにもなりたくないしほかの感染症にもかかりたくない。先月は子供たちから胃腸風邪をうつされたわけだが、まぁ最悪だった。そもそも普段からワンオペで家庭を回している主婦が倒れたら一家はたちまち全滅である。

だからわたしは今日も頑張って手を洗う。ぱっくり割れに沁みようとも、身が凍るほど冷たい水にひぇっと首をすくめようとも。潤いと引き換えに健康を維持する。

連日晴れて空気はカラッカラ。だがそれ以上に、主婦の手もカラッカラに乾きまくっていることをしたためておきたかった所存である。


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