有明月☾ 【シロクマ文芸部】
みなさん、こんにちは。
シロクマ文芸部の今週のお題はこちら。
「今朝の月」から始まる創作です。
どうぞよろしくお願い致します❗️
有明月
今朝の月は儚い。
それは明日が朔日、月の無い日となる日。
その前日の月ほど幻想的な存在はない。
しばらくは私の好きな暁の月を見ることは出来ないだろう。
平安貴族は、暁に浮かぶ月を「有明の月」と呼び、特別な寂寥感を持っていた。
月を愛で、夜こそ人の生とするならば、恋しい人を待ちわびて、いつしか朝ぼらけに浮かぶ月が涙で霞むのを身が捩る想いで堪えたものだ。
それももう千年以上昔のこと。
私は夜に咲く花だから、月を見ない。
夜に咲くのだから月を見てしかるべきと人は言うが、相性が悪いとしかいいようがない。否、あの満月の夜の高揚感はこれ以上にないほどの力を漲らせる。
満月の夜、私は大量の殺戮を繰り返した。
それは本能のままに食い散らかす怪物として。
時代は変わり人も進化した。
高層ビルの陰に埋もれるネオン街はまるで昼日中のように明るい、しかして変わらぬのは悦楽を求める男と女。
徒花は夜気に紛れて蜜香を放つ。
白日に晒されれば形を失ってしまう。
私はこの街から出ることはできない。
でもそれでいい。
酒とほんの少しの血があれば今宵も楽しく過ごせるのだから。
〈了〉
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?