Starrydataのデータ収集プロジェクト一覧

Starrydataプロジェクトでは、論文中のグラフから実験データを抽出して公開しています。このとき、論文の中のすべてのグラフを集めようとすると膨大な時間がかかってしまうので、研究プロジェクトの目的に合わせて、データ収集対象のグラフの種類を絞っています。

Starrydataのトップページにアクセスしたあと、ユーザーが自分のアカウントでログインすると、以下のDatabases画面が現れます。一番上にあるのがすべての登録データにアクセスできるGeneralデータベースです。そして、その下に並ぶのが個々の研究プロジェクトです。本ページでは、これらの研究プロジェクトでどんなデータを集めているのかについて紹介します。

Starrydata2 webシステム内のデータ収集プロジェクトの例(2022年4月現在)

1. ThermoelectricMaterials: 熱電材料プロジェクト

担当:田中敦美

熱電材料は、熱と電気を相互に変換できる材料です。熱電材料の両端に温度差を与えると電位差が発生するので、廃熱からの発電(熱電発電)に利用できます。また、温度差のない状態で熱電材料の両端に電位差を与えると温度差が発生するので、冷却などができる温度制御素子(ペルチェ素子)に利用できます。
熱電材料としては、室温付近で高い熱電特性を示すBi2Te3(ビスマステルル)が広く使われていますが、さまざまな無機化合物半導体や合金、有機分子などが熱電材料の候補物質として研究が進められています。
本プロジェクトの主なデータ収集対象グラフは、横軸が温度で、縦軸が熱電特性(ゼーベック係数、電気抵抗率、電気伝導率、熱伝導率、出力因子、無次元性能指数)となっているグラフです。これらと関連の深い特性として、キャリア濃度やホール係数などの実験データも一部集めています。
熱電材料のデータはStarrydataで最初に集め始めたデータであり、2017年12月から本格的なデータ収集を行ってきました。

StarrydataのThermoelectricMaterialsプロジェクトに収録された熱電特性の温度依存性の例

2. MagneticMaterials: 磁石材料プロジェクト

担当:坂本吉宏

磁石は極めて身近に使われている機能材料です。鉄酸化物で作られたフェライト磁石や、強い磁力を持つネオジム磁石などが有名です。モーターの回転にも磁石が必要であり、電気自動車のモーターに使用できる新規磁石材料の開発が求められています。飽和磁化が大きく保磁力の高い磁石材料が求められますが、普及のためには、耐熱性や強度、環境に優しく安価な元素で構成されていることも求められています。
本プロジェクトにおける主なデータ収集対象グラフは、磁化ヒステリシス曲線(磁化率の磁場依存性)と、飽和磁化の温度依存性のグラフです。
磁石材料のデータはStarrydataで2番目に集め始めたデータで、2019年4月から本格的に集め始めました。以下の図は、Starrydataに収録された磁化ヒステリシス曲線を1枚のグラフに重ね描きしたものです。

StarrydataのMagneticMaterialsプロジェクトに収録された
磁石材料の磁化ヒステリシス曲線の例

3. CondensedMatter:固体物性プロジェクト

担当:細野史一

固体物性科学は無機化学・物性物理・材料科学の分野にまたがった巨大な研究分野です。変わった結晶構造の無機物質を合成して、その電気伝導性や磁性などを調べることで、新しい物理現象を探し、新しい機能材料を生み出す研究です。これらは基礎研究の段階なので、何に使えるのかまだわからない物質も多くありますが、多様な物質についての豊富な実験データを得ることのできる研究分野であると言えます。
本プロジェクトで集めるグラフは、熱電材料や磁性材料プロジェクトで集めるグラフとほぼ同じです。電気抵抗率の温度依存性や、磁化率の温度依存性、磁化ヒステリシス曲線です。ただし、データが理論モデルに合うかどうかの考察を行うために、横軸や縦軸の物理量に複雑な演算が施されていることが多いことや、磁性の単位系が複雑であるために、一筋縄ではいかないデータ収集となります。この中で、できるだけ多様な物質についての実験データを集めることを目標にデータ収集を行っていきます。
固体物性のデータ収集は2022年5月から本格的に開始する予定です。現在は収集に向けた予備調査を進めています。

4. Hypermaterial:準結晶プロジェクト

担当:藤田絵梨奈

準結晶(Quasicrystal: QC)は、原子が規則的に並んでいるにもかかわらず、周期的な構造(並進対称性)を持たないという特殊な物質群です。正五角形を5回対称に敷き詰めたペンロース格子が有名ですが、このほかにも正二十面体を空間に敷き詰めた3次元準結晶などがあります。
準結晶の持つ周期は「準周期」と呼ばれ、X線や電子線を当てるとはっきりとした回折パターンが現れます。この準周期構造は6次元空間で表現され、フィボナッチ数列などのさまざまな数学概念と関連しています。一方、バンド理論などの固体物性の基本概念は、並進対称性を前提としたものばかりです。このため、準結晶の中で電子がどのように振る舞うかは固体物性における大きな謎となっています。
本プロジェクトではその謎を解明するため、準結晶の電気抵抗率や磁性の温度依存性の実験データのグラフを集めています。関連物性として、磁化ヒステリシス曲線や比熱、ホール係数などの実験データも集めています。また多くの準結晶には、原子の局所クラスター構造がほとんど同じでありながら、並進対称性が存在する「近似結晶 (Approximant crystal: AC)」もあります。このため本プロジェクトでは、準結晶と近似結晶をまとめてハイパーマテリアルと読んで、同時にデータを収集しています。
ハイパーマテリアルのデータは、科研費新学術領域「ハイパーマテリアル」の開始に伴い、2019年4月頃から本格的に収集を開始しました。

Hypermaterialプロジェクトの実験データと、結晶性物質(熱電材料、単体金属)との比較

5. BatteryMaterial: 電池材料プロジェクト

担当:Dewi Yana, 藤本雅之
リチウムイオン電池は、スマートフォンやノートPCなどの電子機器や、電気自動車、航空機などに搭載された、現代社会に欠かせない蓄電池(二次電池)です。一方、リチウムイオン電池の原料には貴重なレアメタル資源が使われており、より環境に優しい新規電池材料の開発が求められています。
このため本プロジェクトでは、論文に掲載されたさまざまな二次電池材料について、充放電曲線、サイクル特性、レート特性の実験データを集めています。1つの論文に掲載されている実験データが非常に多いため、本プロジェクトでは解析を簡単にするために代表的な測定データを抜粋して収集しています。1つの測定セルを1試料として、正極、負極の構成物質と組成、電解液の種類などの、詳細な情報を記載しています。

6. PiezoelectricMaterial: 圧電材料プロジェクト

担当:坂本吉宏
圧電材料は、電圧をかけると結晶が歪んで変形する材料です。高周波の電圧を与えると振動するためスピーカーの音源に使用できます。また、電圧によって微小な動きが実現できるので、インクジェットプリンタのヘッドや、原子レベルでプローブを操作する顕微鏡などでも使用されています。
本プロジェクトでは、圧電材料の変位が電場によってどう変化するかを示したヒステリシス曲線のデータを集めています。この曲線は蝶のような形になることからバタフライプロットと呼ばれています。
このデータは現在試験的なデータ収集を終えた段階であり、Starrydataでの本格的な収集と公開は今後行う予定です。


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