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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その8

2022年4月5日、デービッド・キルガー元カナダ国務省アジア・太平洋担当大臣が永眠されました。2006年に臓器収奪に関する最初の報告書をデービッド・マタス弁護士と共著で発表された方です。今回はキルガーさんの思い出を綴ります。

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(8)キルガーさん

【幸運(しあわせ)の道しるべ】

マタス弁護士同様、デービッド・キルガー氏(ここでは故人を偲んで「キルガーさん」と呼ばせてください)も2006年の調査報告発表以来、臓器収奪問題を各国政府や人々に知らせるため、世界各地を休むことなく訪れていた。

2016年11月、日本での会合に出席するが、次のオーストラリアでの会合まで少し日程が空いているので、数日、日本に滞在できるという連絡が入った。2016年に発表された〈更新版〉を日本で報告するために、12月にマタス弁護士との来日が予定されていたのだが、この11月の数日間の来日は想定外。私もアテンドには不慣れで、どんなスケジュールを組めばいいのか戸惑った。

折りしも大阪で紹介していただいた方に、ラジオ番組のゲストとして出席していただければ、という話がまとまり、新幹線で大阪へ。収録のためだけに東京から日帰りをしたかなりの強行スケジュールだった。

お疲れのところ、方向音痴の私が不要に引き回すことになってしまった。「女性には絶対自分の荷物は持たせない」という紳士でもあり、私の罪悪感はさらに悪化。

なんとかスタジオ入りした。「こんな状態で大丈夫かしら」という心配は全く不要だった。マイクの前で突然シャキッとされ、見事なプレゼンテーション。さすが元政治家。プロというのはこういうことなんですね、と勉強させてもらった。さらに女性インタビュアーの方が、自分が初めて就職した時の日本人上司とそっくりだったそうで、親切な日本人のイメージが沸々と湧き上がったご様子。大阪まで出張した甲斐があった。

こちらに収録の背景が掲載されている。キルガーさんのプロフィールも細かく書かれている。

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[日本のスタジオでのキルガーさん。]

「これまで嫌がらせや妨害を受けたことは?」という質問に「Never!(一切ありません)」と回答されていた。心から明るい方で、人間が大好きで、人の良い面しか見ない。だから妨害に遭っても気がつかないのでは?悪い要素がみんな溶けてしまうんだろうな、という印象を受けた。

【大好きな家政婦さん】

2016年に収録された「キルガー独占インタビュー」というシリーズがある。その中で、ご自身が人権問題に取り組むようになった出発点を語られている。

ポーランド人などの家政婦さんたちから共産主義政権下で苦労したことを聞いて育ったため、共産党が中国でしていることを聞いたとき、大好きだった 親友の家政婦さんが語ってくれた話を思い出したという内容だ。(下記の映像「疑いの余地なし」[全5分10秒]の25秒から1分18秒までが該当部分)。

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...人類の「善」のために、身を粉にして尽くしてくださったキルガーさんに、深く感謝し、ご冥福をお祈りします。キルガーさんが掲げていた松明(たいまつ)の火が消えることはありません...

追記:マタス弁護士による追悼文が発表されました。最後の2段落だけ、私の意訳ですが、こちらに引用させてください。

4月5日、デービッドがなくなった。安らかに眠るよう祈るが、彼は眠らないだろう。彼の精神は常にこの地球の残虐行為に対して苦しみ続け、加害者に対して永遠の怒りを燃やしつづけ、忍耐力が試され続けることだろう。同時に、終わりのない犠牲者を常に抱擁し、永遠に懸念していくことだろう。
デービッドを知る者は、皆、彼がいなくなった寂しさを感じる。しかし、彼はいなくなってはいない。無関心と共感の違い、たわ言と誠実の違い、妥協することと毅然と立ち向かうこととの違い、まあまあ良く行うことと真の善行の違いを示した彼の生き様は、我々の中に生き続けることだろう。彼は私たちの一部となっただけで、いなくなったわけではない。

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