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テックイベント登壇者の男女比を分析してみた 【#WTMTokyo LT資料】

この記事は2020年5月31日実施されたオンラインイベント
Women Techmakers Tokyo 2020】のLT枠で発表した内容を、note用に再編集したものです。

問題提起

テックイベントに参加したり、その開催記事を読んだりしたときに、以前から感じていた疑問があります。

仮説1.
元々女性比率が低い業界だが、登壇者の女性比率はそれ以上に低いのでは?

仮説2.
女性登壇者は今回(Women Techmakers Tokyo)のような女性対象イベントくらいにしか登壇していないのでは?
(=一般イベントへの女性登壇妨害要因がある)

仮説3.
一方で、女性が一般対象イベントに登壇する場合、決まって司会者役ばかりやらされていないか?
(=【お茶汲みのような補助的な役割は女性はやるもの】的な、偏見に基づく登壇者選好)

下記の記事でも紹介されているように、テックイベント(勉強会)に参加するのみならず、
登壇することがエンジニアとしてのキャリアに大きく貢献することは、昔からこの界隈では有名な話です。

1〜3で挙げたような、女性だからという理由で登壇機会の損失を被っているのであれば、
当然それは実力ではなく性別を理由にした不当なキャリアの制約に繋がります。
本当にそれが起きているのであれば、是正に向けた取り組みが必要でしょう。

ただしぶっちゃけこれは、あくまで今まで私がイベントに参加して感じた、ただの
主観
です。

主観的な感覚客観的なデータが実は大きく違っていた、という話は往々にしてあります。
そういうわけで、女性のエンジニアキャリアを疎外する要因を正しく取り除くためにも、まずはこの仮説が正しいかどうか検証しようと思いました。

検証方法

とはいうものの、テックイベントに関する記事は星の数ほどネット上に転がっていますが
これらの情報を分析に適した形で収集・整理するのは至難の技というもの。

そこで注目したのが、イベント書き起こしサイト ログミーTech

テックイベントの内容を書き起こすというサイトの性質上、分析に嬉しい下記のような情報がきちんと整理された形で掲載されています。

・イベント名
・イベント日時
・登壇者氏名
・登壇者のモデレータ(=司会者)フラグ

というわけで、サイト開始から2019年末までの期間に掲載された
 ・835件のイベント記事情報
 ・各イベント合計1489名の登壇者氏名
の情報を収集することができました。

一方で、ある意味今回一番欲しい情報である「性別」情報や、性別推定に役立つ氏名の「名前部分」だけを抽出することはできません。

まぁそれでも合計1500名弱となれば手動で調査できなくもない・・・ですが。
やはり私もエンジニアの端くれ、なんらかの自動化にチャレンジしてみたいもの。

実は最近機械学習やデータサイエンスといった分野に興味を持っていることもあり、TOKYO DATA SCIENCEというスクールに通っていました。
東大で研究をされている先生が大学の授業を一般の人向けにも講義してくれる、みたいな雰囲気です。

ここで学んだ知識を生かして名前の姓名分割性別推定推定精度の分析などなどを通じて
最終的に合計1483名の性別を推定できました!

(ここで技術的詳細を語り出すと軽くLT3枠分くらい消費するので、盛大にカット😅)
(少なくともnoteには別途まとめる予定です。ヤルゾー)

分析結果

では登壇者の男女比率分析結果を見ていく前に、まずはテック業界の男女比率を確認していきましょう。

業界の男女比率
(IPA 【IT人材白書2017】「情報処理・通信に携わる人材の男女比」より)

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2015年時点で、情報処理・通信に携わる日本女性の割合は13.1%とのこと。

これから見ていくデータを論じるにあたっては、この数字が一つの比較指標になりそうです。

余談ですが、同データによると米国の女性割合は23.7%らしい。

米国でも業界に女性が少ない少ないとよく言われますが、日本はそもそもこのさらに半分近い割合しかいないのだ、というのは
この業界の人材多様性を語るに当たって念頭に入れておいた方が良いかもしれません。


登壇者全体の男女比率

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・登壇者全体のうち女性比率は9.7%
・司会者、女性向けイベントを除いた登壇者のうち女性比率は8.5%

なるほど、確かにテックイベントの登壇者は、業界の男女比率より悪化していく傾向がみてとれます。
比率が下がる原因を調査・改善していく必要がありそうです。


女性登壇者の参加イベント種別

次に、女性登壇者の方は一般イベントに登壇しているのか、女性向けイベントばかりに登壇しているのかを検証しましょう。

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90.3%の女性登壇者は一般イベントでの発表でした。

一見悪くはない比率かな〜と思ったのですが、ふと思い立って登壇者数全体の一般イベント/女性向けイベント登壇者比率を確認してみました。

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そもそも女性向けイベントの登壇者は全体データの1%しかないという衝撃。

極論、この世に女性向けイベントが皆無だとすると、結果的に女性の一般イベント登壇比率は100%になります。

女性登壇者が女性向けイベントにしか登壇機会がないのか議論以前に、そもそも
その議論ができるほど女性向けイベントが開催されていない
ひいては
女性向けイベントを数多く開催できるほど業界に女性がいない
と考えた方が良さそうです。


司会登壇者の男女構成

最後に司会者(モデレーター)フラグのあった登壇者の男女比を分析した結果がこちら。

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女性比率は15.8%、うーん、残念ながら今までのデータの中で、この区分が一番女性比率が高い。
女性は司会役を任されがちな傾向はあり得る、のですが。

正直、このデータを見て私は
あれ、それでも20%以下なのか・・・
と思いました。

考えてみれば、テックイベントの司会者って、当然ながら大なり小なりディスカッションに参加します。
だから、ある程度のテックに関する知識がないと務まらないはず。

女性にばかり司会者役が任されるか、の前に
女性にテックイベントの司会者役を任せようにも、テックが分かる女性がいない
という事態が潜んでいる可能性がありそうだ、と感じました。

まとめ

というわけで、このデータを元に改めて冒頭に挙げた仮説が正しそうかどうか検証すると

仮説1.
元々女性比率が低い業界だが、登壇者の女性比率はそれ以上に低いのでは?

→ 低い。ボトルネックの解消に向けた取り組みが必要。

と言えます。

一方で

仮説2.
女性登壇者は今回(Women Techmakers Tokyo)のような女性対象イベントくらいにしか登壇していないのでは?

仮説3.
女性が一般対象イベントに登壇する場合、決まって司会者役ばかりやらされていないか?


→ 今のところこれらが起きていると強く言える要素はなさそう。

が、そもそも女性向けイベントを開催する女性が少ない、司会者役をできるほどテックが分かる女性がいないとの理由で
事象が顕在化していないだけの可能性も。

と言えそうです。

仮説2,3の結果を大雑把にいうならば
まずはテック業界自体に女性人材増やせ。話はそれからだ」というオチですね、はい。


補足:男女要因以外の疎外要因について

さて、こっからはLTで話さなかった話。

この分析は、あくまで「男女」の切り口からテックイベントの登壇を疎外する要因が無いか調査したものです。

登壇を疎外する要因は「居住地」「年齢」など他にも様々なモノが考えられます。
人手不足に喘ぐテック業界としては、男女の区別だけでなくこういった他の要因で登壇−−−ひいてはキャリア形成を疎外されてきた人たちの支援にも、勿論取り組む必要があるでしょう。

実際、LT後のコメント欄では「地方在住だから機会がなかった」との反応を複数頂きました。
私自身、就活時に上京を決意した理由の一つが、「地元での勉強会の少なさ」でした。
なので、頂いたお声に対しては「やはりそうだよね〜・・・」との思いでいっぱいです。


ただ一方で、このオンラインイベントで多数この反応を貰えたこと自体が、今までテックイベントが超えられなかった疎外要因の一つである
居住地
の壁を超えられた一つの証左であるのかもしれません。

もし私がこの内容を東京の中継なし物理イベントで発表していたら、こういった声を聞けること自体がまずあり得なかったでしょう。
地方に住んでいる方は、そもそもイベント自体を見ることができないのですから。


テックイベントのオンライン化を機に、性別を始めとする様々な要因でイベントへの参加機会がなかった方々の参加が進むことを願っています。


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