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とびらを足で閉めない

2023年から2024年のはじめまで、
個展やらなんやらで本当にいそがしくて
楽しいけれども、暮らしがとても雑になっていた。

モノを取るときは不安定な持ちかた、
歯を磨きながらドライヤー、ながらながら、
とびらは足で閉める。

けれども、実際そのさなかにいると
雑とはうすうす思っていても、なかなか治せない。

そんななか、2月の個展が終わって
横浜の実家に帰ったとき、
お母さんがたいそう大事に
まな板を洗っていることに気がついた。

ごしごしごしごしごしごし。

同じところを10回ぐらい。
子供の歯を磨いてあげているみたいに。

それをみたとき
「わたしの暮らし、すごく雑かも」
と、ハッ。

帰省が終わり、6畳ワンルームの
名古屋の部屋に戻ってからは、
なるべく、モノも、動きかたも、
大事にしてみよう、と決めてみた。

ご飯はよく噛んで食べる。
モノを持つときはなるべく両手。
脱いだ上着はハンガーにかける。
朝起きたらカーテンを開け、
日が暮れたらカーテンを締める。
…とびらは足で閉めない。

書いてみると、なにも面白くない
たいそうなことじゃないけれど、
そんなふうに暮らしてみると、
なんだか全てのものが、いとおしく思えてきた。

街を歩いても、道で控えめに咲いている勿忘草を
かわいいねえと、しばらくしゃがんで眺めたり、
ずーっと遠くの音が聴こえてきたり。

見えてなかったものが見えるようになって、
聴こえてなかったものが聴こえるようになった感じ。

この、感覚が敏感になっていく感じが
本当に心地よくて、
今の感じを忘れたくないなあと思う。

とびらはやっぱり、
足じゃなくて、手で閉めたほうが心地がいいなあ。

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