ひとり旅でいのちの洗濯を
先日、ひとり旅一泊旅行から戻り、まだなんだか頭がふわふわしている。
人一倍体力のないわたしにとって、移動が堪えたのだろうか。それだけでもないように思う。
体のしんどさはそれとして、まだ夢から醒めていないのだ。
大きくそびえ立つ由布岳の麓の、小川道沿いに建つお宿、玉の湯。その玉の湯ワールドから抜け出せないでいるのだ。
あの、折り重なる繊細な木々がそよそよ揺らぐ姿や、ざぶんと首まで浸かる柔らかいお風呂の湯の感触が、ふとした瞬間に甦っては、現実社会に戻ろうとしているわたしを邪魔してくる。
もう20年も前、クロワッサン特別編集版に掲載されており、そのページに付箋を張り、いつか行ってみたいと願っていた宿である。なんとなく子連れでワイワイいくのでなく、ひとりでじっくりと堪能したいと、その機会を虎視眈々と狙っていた。かくして、20年後にそのチャンスはふいに訪れた。
実は、あんなに行きたいと思っていた反面、色々調べているうちに、すこし古くさいかな?もっと新しい洗練されたホテルがよいかな?とか、そこかしこに飾られているお花の生け方も野暮ったいような、折角ならインテリアひとつひとつに感動したいなぁと、一抹の迷いが生じだした。
そんな不安は宿の敷地に一歩踏み入れた途端、吹き飛んだ。前述の通り、玉の湯ワールドに引き込まれたのだ。
細い繊細な枝や葉がうっそうとしげる中、とにかくテーブルというテーブルに色とりどりの花が飾られている。生け方がどうとか、そんな事ではなかった。かしこまらず、ただ、生き生きと花やみどり、自然や香り、色を楽しむ空間なのだ。
暖炉の火がぱちぱちと燃える談話室。木の香ばしい香り。低いソファに机。あぁ、ここでずっと過ごしていたい。本を数冊かりて、お茶を飲みつつ過ごしていたら、いつのまにか外が薄暗くなっていた。しまった、夕暮れ時の赤い空と雑木林の組み合わせを見過ごしてしまった。
翌朝の朝ごはんもまた素晴らしかった。こんなに一つ一つがしみじみ美味しい朝ごはんは初めてだった。
多いに五感が満たされ、浸り切ったあと、帰りの大分空港も伊丹も大混雑で、現実に戻るにはちょうど良かったかもしれない。
いち主婦の贅沢な旅にすこしの罪悪感と、いやいいんだよ、状況が許すときに楽しまないと!と
いろんな思いが交差しながら、夢と現実の間を、いまだうろうろしている。クレソン買ってきてスープ作ろうかな、お花も補充しようか。
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