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「雪の残像、そして憧憬」

Fate/stay night [Heaven's Feel]
Ⅰ. presage flower に寄せて

「雪の残像、そして憧憬」
イシカワ ユウカ

夏の日の汗の滲む昼弓を引く鋭く射るは私の少年

「俺なんて」などと言うのかお前には勝てぬ僕のこと知っているのか

兄さんに言われて来ました私はね言われて来ただけそれだけなんです

何度戸を開けてもそこに在るという有難き君の存在がここに

言いつけは絶対なので間桐(この)家の人形でしかない私には

合鍵を預けることは合意です君がただここに在っていいこと

お前にはお似合いだよと嘯いて僕には無かった才能という罪悪

さようならそう言うことなき唇の噛んで合わせた血が滲んでる

遠き日の炎の色に焼かれつつ君の声で起きる朝の尊き

みづみづと生い茂る草 私たち家族のようだと思いませんか

良い人になれない僕は良い人のお前への憧憬握りつぶして

残酷にお前は僕にも優しくてだから嫌いでそして好きだよ

吹く風の蝉の声へと引き寄うて出会うは禍々しき古狐

かつて見たはずのない幼女そこに在りまたこの身だけが焼け朽ちるならそれで

欲しかった返事はそんなものじゃないお前の偽善に反吐が出そうだ

僕は言うせいぜい善人気取っていれば でもお前は本当(ほんと)の善そのもので

混沌とした中から生まれし私には 地上の幸福似合いませんと

望まれし在り方知りてそれ以来救いも呪いも同じに過ぎぬ

ヒトでありたい私 信仰の中で足掻けど理解しきれぬ

万能の杯(うつわ)に惹かれし人々の罪も背負いてこの身を捧げる

闘えと云うのだこの身がこの奥底が 俺は永遠に英雄でのみ在る

ねえパパと問うわたしの声消え去りて貴方(セイバー)の記憶にわたしはいない

俺はただ、ただ嫌なんだ、目の前の、人が救えない、それなら俺じゃない

願うもの過去を変えたきこの私間違えているのは過去も今もか

僕だけの才能(もの)が欲しくて僕だけを見て欲しかったそれだけなんだ

助けすら呼ぶ資格なき僕が在り許しすら請う資格なき僕の無能よ

俺の父、俺のヒーロー、俺だけの、優しき人間、俺の英雄

僕はただ正義の味方で在るためにあらゆる犠牲を心に包みて

宿敵に魅入られし私自身には出来ぬ生き方彼は聖人(ざいにん)

欠けてゆく月のようだね俺たちは二人でひとつになれるのかもね

愛してたそれ以外の言葉を知らぬわたくしは貴方のためなら自らを穿つ

命など自分のものなど要りませぬただ在る日々の尊きことよ

惹かれ合うように手を伸ばすわたくしは満たされていた願いなどもう

傷つけよう、この人形は僕だけの、僕だけのものを奪っていった

その顔が見たかったんだ僕はただお前の心の奥が知りたくて

ストーブに点火せし時君の心ぽうと燃え出す優しさに触れる

我の見し貴方のままでいてくれたそれだけでいいのそのままでいいの

もし私悪い人になるその時に貴方がいるなら貴方だったなら

ゆらめきて冷たい夜に舞う黒き邪悪と交える刃は沈む

傷ついて欲しくないのよ貴方だけ救われて欲しいのよ我儘な私は

希求する生も愛も性も恋すらもそれが絶望への近道なのね

殺されることを選ぶなら私はな望まぬものにも犯されゆこう

沈み込む黒き海の中振り向けばそこに在るのは反転(オルタ)の私

求めゆく過去の精算私の罪滅ぼしの為の戦争なのだ

眠りつつ世界すら滅ぼす我の闇開きて気づくのこの欲望に

凄惨を見し時初めて理解るのだあの子の絶望あの子の希望

守りたい人がいること向かい合い愛したいこと死にゆく心すら

君がため待ち続ける日は長き夜独りの貴方も私と共に在れ

ただいま、と ただそれだけの言の葉の雪のように降り積もる罪と罰

どうすれば正義の味方になれるのか 俺に教えて父よ世界よ

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