オリオン(仮題)

扉を開くと
そこには闇と
私の熱を吸い取る
白くてもろい
とりとめのない息
縁側に腰掛けると
雨避けと隣の家との間の
その10センチほどの隙間に
オリオン座がぴったりと収まり
輝いている

しゅぽっと音をたて
煙草に火を灯す
煙は引き寄せられるように
高く 高く
消えていく

オリオンは瞬く
ちかちかと音を立てて

その信号は640光年を飛び越え
何かを発する
ちかちか
ちかちか
その一寸たりとも狂わない光に
私の瞳は
すがる

ああ
と息をもう一つ吐く
目の前がその度に白け
それは私の口から飛び出す
水蒸気のせいなのか
煙草の煙なのか

ふと気づく
いや
どうなんだろう
本当のところは

一体この星々は
どうしてこんなにも
規則的に並んでいるのだろう
オリオンの中心に位置する
その3つの星
こんなにも幾度も見つめてきたのに
唐突に
そんなことを不思議がる

一体この星々は
一体
その誕生から今に至るまで
幾つの
人々の願いを
寄せられなければならなかったのだろう
身勝手に積み重ねられた
その願いたちを

あなたはどんな気持ちで
それを受け止めてきたのだろう

私はとてつもなく
哀しい気持ちになる
いきなり
どうしてだか

私に今降り落ちる
あなたの光
それを目指し送られた
無数の願いたち
それらはどこへもいかず
飛ばされたまま
きっと
あなたにも届かず
私とあなたの間の
そのどこか
640光年のその間に
埋められている

土ではないから
その種はいつまでも芽を出さない
降り注ぐ雨は
ただ透明の空間を通過し
誰かの視線を感じて振り向いた時
それがただの勘違いなのだと気づき
期待を寄せた視線の主へ寄せた
淡い期待が溶けて
ただ虚しさが押し寄せるあの時のように
あっという間に
心が翳る

遠かった
遠い
遠すぎる

あなたはあまりにも
遠すぎる
ここにいても
どこにいても

私に今送られる
信号たち
それは
私とあなたの間で
行き場をなくし
彷徨い続けてきた
彼らの願い

私は何故だか
とても怖い
とても辛い
驚くほどに
その感情があまりにも大きく
私は圧倒される

あなたの抱える
重荷を思えば
労わらなければならないのに

それでも私は我儘に
思ってしまう
どうして私の願いを
無視するのかと

自分の希望と
あなたを労る思いとの
その間で
私は何を考えればいいか
ついには分からなくなる

自分がここにいることを
思い出すために
大きく息を吸い
わざと大きな
白い塊を吐いた

私はここにいる
私はここにいる

だけどそれを証明できるものは
何もない
オリオンの一寸も狂わない
その信号が
今はとても
恐ろしい

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