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空と海と、16日目

2019年5月11日
 三十五番札所
三十六番札所

昨夜は疲労で参っていた。

いつもの疲労より1ランク上だった。回転ずしから、板前さんが握るカウンターに座るくらいランクが上がっていたのだ。宿に着いて購入したものを貪るように食べると、お決まりの洗濯をしてベッドに寝転がってSNS投稿後、起きないといけない起きないといけないと思いつつ11時半まで寝ていた。その後はお風呂に入って歯磨きをして寝るが、いつものように夜中は何度も洗濯物を気にかけている。それがいけないと思う。


その日の疲れをその日に取れきっていない。

年齢も大いに関係しているだろうけど、ブラック企業で働いている社員はこんな感じなのかと思うとゾッとする。

疲れで正常な思考回路でなくなると思う。しっかり休みを取ることは、しっかり働くことに繋がる。Maxの疲れが精神を弱っちくしていた。

今この時間は後で思い起こしたときには、間違いなく宝の時間として刻まれるだろう。

でもあまりの疲れから、もしアウトになったらどの交通手段にするのかと頭を巡った。

   立つんだジョー!!

自分の中の丹下段平が叫んでいた。
もう、明日のことだけ考えよう。  

このところマメの話題がないのは、確実に硬くなり少しずつ痛みが引いている。小指はかつて経験したことのない程にコチコチになり不安もあるが、今は歩けるから良しとしよう。

だが、ザックだけは軽くならない。このまま背負い続けると、年齢的に身長が微妙に縮む気がするけど、どうだろうか。あの重量挙げの選手たちが背が低いのは、重いものを持つからではないか。 

前座が長くなったが、今朝はチェックアウトの前に、部屋に荷物は置いたままにして三十五番を打ち宿に戻ってくる。 ザックの中は、納経帳・ローソク・線香くらいで軽い。


朝6時5分にホテルを出て、清滝寺を目指す。地図が分かりにくいのか地図を読めない自分が愚かなのか、道行く人に教えてもらって何とか辿りつくのだが、朝からまたもや登山だ。  


















車道を通ってもあれだけの急勾配なのだから、端折って通る遍路道はそれは大変な筈だ。

遍路道を選ばなくて本当に良かった。朝からの汗は仕方ないが、やはり朝から登山は好きじゃない。

じゃ、昼からは良いのか❓
・・・それも違うな。

清滝寺の納経所に行くと誰も居ないので「すみませーん」と私の声で、奥からスタスタと女性が出てきて納経帳に書いてもらった。

パジャマではないが完全な部屋着だった女性は、300円を払うと又スタスタと奥の方に入って何か喋っている声が聞こえる。お寺に関する話とは逆で、日常の揉め事のような会話なのだ。納経所の奥が住まい?そんなこともあるのだろう。



納経所を出た後にトイレを探すが、坂の下にあって杖があっても歩くには危ない。そのトイレも昔のタイプで優しさを感じない。高齢者にはとても厳しい場所だと思う。私がおばあさんになって、もしも遍路に行こうとするときは此処は省くに違いない。もしも、である。

        🚾

お寺や道の駅、コンビニや休憩所で何度もトイレをお借りしていた。海外から来た人は日本のトイレに感動していると思う。稀に江戸時代のような場所もあるが、コンビニのトイレはどこも清潔だし田舎町のトイレがウォシュレットだったりする。

トイレ文化は最先端だから、フランス人が日本のトイレの中で寝れると言ったことは、本心だと思う。  
















  ●暑いのでアイスを売ってる





無心に歩き宇佐湾を渡り、横綱だったあの朝青龍の名前の由来となる『青龍寺』に行って打ち戻るのだ。



途中、奥田釣具店でお遍路さんの荷物を預かってくれるとの情報をゲットしていた。ありがたい。背中の白砂糖7個分を下ろせるなんて、ウキウキだ。予定通りザックを預かってもらう。釣具店で購入するものなどなかったので申し訳なかった。後で知ったが、隣のファミリーマートも快く預かってくれるとのこと。コンビニだと何か一つでも買えたのだった。






花の子ルンルンで宇佐大橋を渡るとパイナップルの木みたいな南国を思わせるソレが、海と見事に調和していて気持ちがいい。遍路じゃなかったら、こんな場所を歩く人はいないだろ。
車でも気持ち良さそうだが、紫外線さえなければ最高なのだ。
ザックはないし…


  ●旧道は、ゴリゴリだ  NG






程なくして青龍寺の近くまできた。土佐湾に位置するお寺なので、勝手に高い場所ではないと思いきや、階段階段階段。参拝者の年齢が高いのに、筋トレなのか何なのか。
命がけで上っているお婆ちゃん等を見ると、もうそれだけで手を合わせたくなる。   











今日は『瀧』と『龍』で足の筋肉鍛錬をして、須崎市浦ノ内にある人気宿に向かった。
実は昨日、三十三番か三十四番のどちらかで、先達さんが声をかけてくれていた。明日のルートも把握しておらず宿も決まっていない私に、この先は国民宿舎もなくなっていて近くの宿は1万円以上するからNGで『民宿なずな』しかなくなったと言う。実は話しかけられるも半分しか聞いていなっかたのだが「そこの電話番号教えて下さい!!」と、自分で調べることもせず言ったのである。すぐ先達さんが教えてくれたその場で、電話して予約をとったのだったが今日の宿だった。人気宿としてチェックはしていたから、疲れていても名前を聞いて反応できたのが幸いした。
親子で漁師だからご飯が豪華で美味しいとの情報もくれた。あのとき声をかけてもらい、本当に感謝だ。こんな先達さんも居るのだと思った。
私はA型の上に石橋を叩いて渡るタイプなのに、このところ寅さんみたいにその日暮らしをしているようだった。


  ●お接待場所を見つけて、休憩















この辺は釣り客が多いらしく、釣具店と貸船屋が点在している。釣り経験のない私が見ても気持ちが良いだろうなぁと思うのだ。 
途中、海に向けて釣り竿を持ってる男性に ●何が釣れるんですかーーーー  と叫ぶと ●黒鯛!
と返ってくる。平和な光景である。



浦内湾沿いを歩くと、ようやく建物が見えてきた。
あそこだ!と近付くと、食品・衣類・雑貨等なんでも売っている地方のデパートみたいな商店だったのだ。
「なずなはどこですか?」と、扉を開けて尋ねると「すぐそこよ!」即答。
そして「すぐそこの、500ⅿ くらい!」と。
此処では500mはすぐそこの距離なのだ。昔、韓国の歌手に『ナフナ』という人がいたと思い出すが、民宿とはたぶん関係ないな。確実に関係ないと思う。 



宿に着いたのが2時50分。

昨日予約したとき、3時じゃないと入れないと念を押されていた。

どうしよう・・・

それでも「こんにちは!!」と言うと、中から可愛いおばあちゃんが出てきた。  

「3時前ですが」と言うといいですよ、と優しくて個性的な声。一度聞いたら忘れられない声だ。    

宿にあがって色々話していると、ジブリに登場するアップルパイを焼いたりする西洋のおばあちゃんと重なるのだ。可愛いだけではなく、どことなく品がある。

一昨日まで20連チャン休みなくお客があり、2日間風邪を引いてしまったとのこと。それで私が電話した時に、強い口調で気を悪くさせていたらごめんなさいね、と。

   とんでもない❗️

休みもなく宿を取り仕切るのは、どんなに疲れることか。

この歳になっても過ぎた事に対して、ちゃんとお詫びを伝えようとするこの方はとても律儀だと思った。




この近くから巡航船が出ていて、遥か昔の空海も船で移動したらしいので歩きでもOKな乗り物だ。だが、明日は日曜なので船は安みとのこと。

その情報すらここで始めた知った私におばあちゃんは「運が悪いですよ」とぽつり。

曜日まで計算にいれて歩く人もいるんだろうな。







噂どおりの夕ご飯は本当に美味しかった。




この宿もご飯だけ食べに再び来たいと思う、おススメの宿だ。 

夕ご飯前から、宿泊客とのいざこざがあった。今日は私以外にもう1名の予約客があるのに来ないし連絡すら取れてない。相手の携帯に何度も電話を入れ、留守電には『連絡ください』と入れている。何かあったのか。宿の息子さんは、遍路道を車で探しに行くが見当たらない。

     事故?


この状況が心配で、宿の親子3人は気が気でないのが見て取れた。
私がご飯3杯🍚🍚🍚を食べ終える頃に、やっと相手の電話が繋がったのだ。心配していたその相手は、36番近くの宿に入っていた。電話越しなので会話のすべては知り得ないが、相手の人はここにキャンセルの電話を何度も入れたが通じなかったと反論している様子。

は?

宿のおばあちゃんは、違う施設にかけたんじゃないですか?と相手に何回か問いかけるも、ちょっとしたバトルになっているようだった。

そして、おばあちゃんはゆっくりとした口調で

「私が残念に思うのは、ご飯もお風呂も用意しているのに、留守電に何度入れても返してくれなかったことです」と、泰然自若である。

それでも会話は平行線らしかった。

そりゃーいかんぜよ!



小さな宿にこうして行き違いがあったら、本当にお気の毒である。事の経緯を聞いてしまった私であるが、おばあちゃんの平然とした顔に少し安堵。

おばあちゃんは、仕方ないんですよ、と言い「この料理を食べられなかったのが、実は残念なことですよ」と、ぽつり。


どう考えても変だった。着信があったら、そのままポチっと押してかけたら繋がる訳なのに。

そういう相手を攻撃するのでもなく、相手が損をしたであろうとの思考。

優しいなぁ💧

私は貴女の考え方に感服します。

どうしたらこの方のように、丸い角のない心になれるのだろうか。人の心は、少しずつ少しずつ人相になっていく。40を過ぎたら自分の顔に責任を持てと言ったリンカーンの言葉には深い意味がある。生きてきた轍(わだち)が、表情に滲むのだと思う。この方のように。

**そしたら、営業の似非笑顔の女性の顔が浮かんでいたのだった。 **

今日は相当に暑かったけど、そんなにへたばってない気がする。体力が付いたのか。いやいや、又カメレオンのように直ぐに変わるのだった。

明日は初のゲストハウスぜよ。

そこはヤングばかりじゃないかと、一抹の不安があるが・・・ 

本日、45.004歩 


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