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第二十二話 シノノメナギの恋煩い

今日はカウンターでなくて事務所内で作業。図書館内での作業も重労働だが歩いて回れるのでそこそこ楽しい。

あ、常田が入ってきた。今日は彼が早番でわたしが遅番だったから行き帰りすれ違い。

わたしたちは数日前に喧嘩した。寧々が出て行った件もあってわたしのイライラでちょっとした口喧嘩しちゃって。
社内恋愛ってあまり良くないってこういうことかしら。


「梛、今いい?」
常田は周りに人がいないことをキョロキョロ見渡してわたしに声をかけてきた。デスクの斜め前に座って。
「うん、いいよ。作業しながらだけどいい?」
「……うん」
周りにバレているって知ってるしパートさんたちにも噂されてるけどさ。

「今度さ、落語見に行かへん?」
「えっ」
斜め前にはいつものように犬歯剥き出しで笑う常田くんがいた。ヘラヘラって。……こうやってあっちから折れてくれるタイプか。

手にはその落語のビラを持ってて渡してきたから受け取った。
「金風亭蛙の息子、金風亭鯉鯉が来るんや。チケットも手に入ったから観にいこう」
「い、いいよ……」
しばらく全く話もしてなかったし、てか仕事中にデートの誘いとか。

「しばらくさ、梛に色々言っても嫌な雰囲気になっちゃうから黙ってた」
「ごめん」
「いやいや、まぁこういうこともあるよな。悪かった」
な、なんていい子っ! わたしのイライラから始まった喧嘩だったのに……!!

「帰りは梛の家に泊まって行くよ。部屋が見たい」
 !!! 

てか喧嘩の仲直り職場でするもんじゃないけどさ。それにこういう会話すると誰かに聞かれてそうで、それがドキドキっとする。
て、なに年下に転がされてるのよ。

「東雲さーん、受付で呼ばれてますよ」
いきなり事務所にパートさんがやってきて手元があたふた。いかにも作業やってましたよな体制に戻す。
パートさんはわたしのあたふたさと常田がいるのを見てなんか気づかないかしら。平常心、平常心。

「梛さん、早く行かなきゃ」
「あ、うん……」
常田はニコッと笑う。もおおお、平常心でいられないっ。

わたしは慌てて受付に行くと……仙台さんだった。

軽く手をあげて目を細めてこっちを見てる。夏姐さんも常田もこの場にいない……とりあえずカウンターに座ってもらった。

「図書館案内がとても好評で、これですが……生徒たちがまとめたレポートと、お礼の手紙です」
とトートバックから綺麗に製本されたこの図書館についての子供たちのレポート。今の子たちはパソコンを使うのね。綺麗にまとめられている。写真も使って。

あら、わたしや常田、夏姐さんも写ってる。……そいや常田と写真撮ったことないなぁ。ほんといい笑顔、だってわたしの彼氏だもん……はっ。

目の前に仙台さんがいることに気づいた。

仙台さんは眉毛を垂らしてわたしの方を見ている。
「図書館のお姉さん、お兄さん。とても楽しく図書館あんないしてくれてありがとうございました」
と生徒たちが書いた手紙。
わたしはお姉さん、お兄さんどちらなのかな。それよりもうれしい。

「うれしいです。他の二人にも、図書館のスタッフにも見せます」
「子供たちにとっていい勉強になりました。そしてその、子供たちが一番興味を持ったのが点字図書だったようで……」
そうだったんだ。常田喜ぶだろうな……。

仙台さんが笑う。やばい、またにやけてた。私。
「二人、付き合ってるんでしょ?」
仙台さんが手を向けた方を見た。


常田がこっち見てるし。
「え、あの、その……」

付き合ってるということを否定せずあたふたしてたら仙台さんは途中で職場から電話がかかってきて慌てて去っていった。

なにあたふたしてるのよ、わたしは常田と付き合ってるって言えばいい話なのに。

この日の夜は常田は泊まっていったけどいつもよりもしつこいくらい愛された。
ああ、嫉妬……???

続く

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