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第二十一話 シノノメナギの恋煩い

数日経ち、いつものように彼を見送った後に家に帰る。

寧々が居間に居た。各自の部屋以外は共同スペース。
わたしが常田と付き合ってから更にただのルームシェアになった。

会った頃は友達のように楽しくキャッキャしてたのよ。
互いに彼氏ができるとこうなるのね、そういうものしら。

でも周りからしたら本当の女と中身は男の外見女の偽物女の同棲なんていい印象なんてない。でも全くやましい関係はないから成り立つ訳であって。

「ただいま」
「おかえり……」
元気がない。わたしがいないときには仕事以外では彼氏と過ごしているんだろうと思っていたけど。

寧々が抱きついてきた。いきなり。

「ね、寧々? どうしたの? 仕事は……」
「休んだ。仕事してられないし、こんな調子だから帰れって店長に言われてさ」
「体調悪いの?」
何も返さずに寧々はぎゅーっと抱きついてくる。しかも胸を押し付けてくる。わたしにはない、この胸。

「彼氏にふられた」
「えっ、それで休んだの? まさか」
「バカでしょ。いい年してさ、フラれたから休むって」
「どうしたのよ。何かあったの?」
さらにぎゅーっとしてきた。ダメだ、わたしの中のオスという機能がこんなときに働くなんてっ。
しかも寧々わたしにしがみつく腕が下におりてきた。わたしは反射的にその手を掴んで彼女と向かい合った。

「ちょ、寧々。冷静になって。まずお話聞かせて。愚痴だったら聞くって」
寧々は首を横に振る。泣きじゃくってる。相当ショックだったのかな。ひどい男もいるものね。

「梛、あんた馬鹿?」
「……えっ」

寧々はすごく至近距離でわたしを見つめる。かと思ったらキス!

「私、下心無しであなたと暮らしてるって思ってた?」
それは服の売り上げとか家賃の折半とか。私も服安く買えたし、家賃も安く済んだし。

「オスとメスだよ。私たちは! そりゃ私には彼氏いたけど……最後の恋だと思ってたのに若い子と浮気されて捨てられた。もうこれから恋をするのは無理……」
「そ、そんなことはないよ。わたしだって彼氏出来たし……寧々可愛いじゃん」
寧々……正気になって。

「可愛いって思ってくれてるの?」 
わっ、やばっ……。
「もう他にはいない。ずっとそばにいてくれた梛なら私と幸せになれる!」

寧々がマジな顔してる。そんなつもりで言った訳じゃないの。
「だってあなたの恋人、男でしょ? 幸せそうだから言わなかったけど。男同士じゃ結婚できない、セックスもできない、子供もできない、幸せになれ……」

 パシッ

「痛い……」
「ごめん、寧々」
しまった、つい手が出てしまった。

「多分寧々とわたし結婚しても幸せになれない」
「……」
寧々はわたしをオスとして見てたのか。そのままオスとメスとして結婚してセックスして子供を産んだら幸せ人生、そんなテンプレな人生……それでいいのだろうか。

わたしは幸せに感じない。うちの親もデキ婚で。わたしが生まれてからすぐ離婚。お母さんはまた別の男見つけて。
お父さんは蒸発。長い間今は亡きおじいちゃんおばあちゃんに育てられた。
たまにお母さんはわたしに会いにきてはお父さんと会う前はいろんな人に言い寄られてた、他に好きな人いたけどたまたま恋に落ちたお父さんとの間にわたしが出来てしょうがなく結婚して産んだって。
 来るたび来るたび違う男の車でわたしに会いに来てたの知ってる。おばぁちゃんはわたしのお母さんに向かって帰ったら塩撒いていたけど、おばあちゃんも二度離婚をしていた。色恋沙汰による理由で。

あー、わたしの惚れやすい性格ってお母さんとおばあちゃんから来てたのっ? あああ。

って、その話を話したことあったけど寧々には響かなかったようね。

「寧々、ごめん。無理。でもね、恋は年齢も性別も関係ない。諦めないで。たしかにこの先全く見えない。でもわたしは少しずつでも解決していこうともがきながらも進んでいるわ」
ほんともがき続けてる。将来のことを語りだすとその先真っ暗だからあえて見ないようにしているだけだけど。

「遥か先、未来、どうなってるかわからないけどわたしはあなたとは一緒にいる未来は見えない……」
「梛……」
もう部屋に戻ろう。でもこれだけは伝えよう。

「あとね、男同士でもセックスできるんだから」
寧々はエッていう顔をした。……実際はまだしてませんけどね。

数日後、仕事から帰ってきたら寧々の荷物ごとごっそりなくなっていた。お店もやめていた。連絡もつかない。


数年仲良くしてたのにこんなふうに友情も崩れる、残酷なものね。

続く

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