「ひとり広報の戦略書」著者小野茜さんに聞く!広報職への思いと、書籍出版の広報的効果とは?
近年広がりを見せる書籍出版の広報的な可能性を考えるため、昨年末に出版されて話題となっている「ひとり広報の戦略書」著者の小野茜さんにお話を伺いました。書籍出版の進め方や効果について考えている広報パーソンの方のヒントを探りたいと思います。
広報職に就いたきっかけは、前職時代に当時の社長からの声かけ
藤村:小野さん初めまして。本日はお忙しい中貴重なお時間いただきありがとうございます。小野さんのお話をお伺いできることをとても楽しみにしていました!よろしくお願いいたします。
小野さん(以下、小野):こちらこそ楽しみにしていました!よろしくお願いいたします。
藤村:ではまず、小野さんの今までのキャリアについて教えてください。
小野:はい、私のキャリアのスタートは広報職ではなく、カフェやレストランなどのサービス業や、都内ホテルでの法人向けセールス部門でのアシスタント業務でした。その後、ABCクッキングスタジオという料理教室を運営する会社で広報職に就きました。同社で広報職を5年間務め、その後独立し5年が経ちました。合わせて約10年間広報職に携わっています。
藤村:ABCクッキングスタジオでは、どのような流れで広報職に異動されたのですか?
小野:当時の社長とトイレでお化粧直ししている時に、「小野ちゃん広報どう?仕事として興味ある?」と声をかけていただいたことがきっかけです。私はもともと広報に興味があって、ホテル勤務時代に希望を出していたんですが通らなかった事があって、その事を社長に話すと、翌月に広報に異動になりました(笑)。
藤村:それは運命を感じますね!その時は広報部門の立ち上げだったんですか?
小野:前任者はいたんですが、私が着任した時には退職されていたので引継ぎもなかったですし、その方は秘書業務も兼務されていたので広報業務のきれいな型が残っている訳ではなかったです。ですので、実質立ち上げたという感じですね。
藤村:そうすると実質的に立ち上げて、ひとり広報をされていたのですね。独立された現在は、どんな企業さんを担当されていますか?例えば私はスタートアップ企業が多いのですが。
小野:業種・業界・規模、共に様々ですね。シード期のスタートアップ企業もあれば、上場企業も担当したこともありますし、皆さん誰しも知っているようなブランドを展開している企業も担当しました。様々な企業を担当させていただいて、色んな経験をさせていただいております。
強いて言えば、私のバックグラウンドもあって「食」に関する企業さんが多かったですね。しかし、クライアントさんが、別のクライアントさんをご紹介くださるという形で案件が増え、色々な企業さんに携わらせていただいております。
広報職についての理解がもっと深まって欲しい
藤村:では本題の(笑)、本の出版についてのお話をお伺いしたいと思います。ご出版に至る背景を教えてください。
小野:本題(笑)。
なんで本を出したいと思ったかというと、広報の仕事の理解がもっと深まって欲しいなと考えたからです。日々仕事を行う中で、「広報という職業や役割があまり正しく理解されていないな」と感じることが多かったんですよね。会社の課題を広報の力で解決できることがあるのに、現時点ではまだ広報の理解が少ないために、その選択肢が得られていない企業さんも多々あると感じます。そこをどうにかしたい!という思いがありました。
藤村:加えて、広報つまりPRは”パブリックリレーションズ”でありながら、ハッシュタグPRやsponsoredのタグの影響もあってか、プロモーションに誤解されることも少なくないですもんね。
小野:そうなんです。広報業務の理解を促す、分かりやすい手段として本を執筆したいと思うようになりました。
藤村:実際に、書籍出版に向けて動き出すきっかけはあったのでしょうか?
小野:Twitterで呟いたことがきっかけなんです。具体的に考えていた訳ではなくて、せっかく広報の仕事に長く就いていますしnoteもちょこちょこ投稿しているので、noteをしっかり書き溜めて、ある程度自分の中でまとまったら、最終的に1冊の本を出すという事が理想だと考えていたんです。
それをTwitterで呟いたら、クロスメディア・パブリッシングの担当編集の方から「ひとり広報のテーマで本を出しませんか?」と直接ご連絡をいただきました。
その時の呟きがこちら
藤村:Twitterで呟いたことがきっかけとは面白いですね!実際に書籍出版を考えている読者の方がイメージが湧くように、具体的な質問になりますが、お声がかかってどのくらいで動き出したんですか?
小野:Twitterで呟いたのが2021年11月。クロスメディアの方から1番最初に連絡を頂いたのは2021年の年末だったかと思います。そして2022年の年明けから担当編集さんとコンタクトを取り始め、まずは出版社内で企画を通すための企画書と簡単なプロットの作成から始めました。その後とんとん拍子に出版することに決まり、2022年の春くらいから執筆作業に着手し始めて、2022年11月に出版しました
藤村:打合せから出版までほぼ半年なのですね!もう少し時間がかかるかと思っていました。執筆方法についてなのですが、一から書き上げる形式や、インタビュー形式で執筆を代わっていただくなどいくつかあると思いますが、小野さんの場合はどのような感じだったのでしょうか?
小野:私の場合の進め方で言うと、まず担当編集さんに私のnoteを全て読んでいただき、「ひとり広報をテーマにするならこういう事が書けそうですよね」という目次案を最初にご提案いただきました。
そして、ひとり広報さんが読んで楽しいか、為になるか、これは本当に私が言いたい事かなどの観点でブラッシュアップし、大目次と小目次を少しずつ決めていきました。
それらが決まると早かったです。最初に本の構成を決めると、トータルのページ数から割り出し、各章立てや見出しではこのくらいの文字数で書けばいいという目安ができるのでnoteを書いている感覚に似ていました。私の場合で例えると、5章立てで全体で約何万字と決め、そうすると小見出し分の文字数は1000文字〜2000文字くらいだなと把握できるという感覚です。文字数のイメージが掴めると、noteを何十個・何百個書くようなイメージで進めることができたので、目次が決まってからは、私が章ごとに原稿を書き上げて書いて編集さんに提出するということの繰り返しでした。結局私が出版した本は8万5000字でしたね。
自ら執筆するというチャレンジをして良かった
藤村:なるほど。小野さんの場合はnoteでしっかり考えて書いているので、ゼロから書くというよりは、ブラッシュアップすることに時間をかけた感じでしょうか?
小野:最初はnoteを上手く活用すれば書くこともそんなにハードではないですよという話だったのですが、実は結局、全部書き直しました(笑)。
noteを書いた時と、半年や1年経った今だと、状況も違えば感情も変わってきてしまうんですよ。「当時こう思っていたけど、今はやっぱりこうだよね」と感じることが多々ありましたし、これだけでは足りないと思う部分も沢山あったので、結果的にはほぼゼロから全部自分で書き上げましたね。
藤村:たしかに、私もこのnoteを書きながらnoteやThreads(スレッズ)の登場など、外部環境でもコミュニケーション領域の変化の早さを日々感じています。
本を出すと決めてからは、どのように執筆を進めてきましたか?
小野:週末に書いていました。1章ごとに締切があったので、その締切に間に合うようにスケジュールを立てて執筆していました。土日はほとんど執筆に時間を費やしていましたね。本当に1日中書いていたような感じでした。とはいえ集中はずっとは続かないので、小見出し3つ分書いた後、少し休憩したり調べものしたり外出したりもしていましたけど。夜に出かける前にここまでは終わらせたい!と頑張ったり、アクセルの踏み具合にバラつきはあったものの、執筆作業は毎週末続けていました。
藤村:ある種週末のルーティーンにして計画的に進めてきたのですね!書籍出版の際に想像していなかったことや、大変だったことなどありましたか?
小野:やっぱり自分で執筆することは大変でしたね。最初にライターさんに入っていただくか聞かれたのですが、折角の機会なので自分で書いてみようと思いお断りしたんです。執筆中にライターさんにお願いすれば良かったと後悔したこともあったんですが(笑)、でもやっぱり本が出来上がると、いろいろな意味で自分で書いて良かったなと思っています。
藤村:確かにライターさんこそ言葉のプロですが、私たち広報パーソンも言葉を扱いニュアンスにもこだわりたいところというのもあるのでしょうか。
小野:そうですね。難しいことを書こうという思いはなかったので、教科書のような本にはしたくなかったんです。日々の業務の中で、読み返してもらったりとか、日常的に使ってもらえる本にしたかったんです。なので、ライターさんにお願いすると綺麗になりすぎるかなという懸念がありました。だから敢えて自分でチャレンジしました。その結果として「分かりやすいです」や「すごく共感できます」と感想をいただくことが多いのかなと思います。繰り返しますが、本当に自分で書いて良かったなと思っています。しかし、あくまで私のケースなので、ライターさんにお願いすることも手段として大変有効だと思います。何より「書く」プロフェッショナルであり知識豊富でとても読みやすい文章になることは間違いないですし、何より著者の時間と労力が削減されますしね。
広報活動の「5つの不足」を解決したい
藤村:とても共感します。本の中身についてもお伺いできればと思いますが、この著書で一番にお伝えしたかったのはどのようなことでしょうか?
小野:まず第一に、広報担当者や広報を担当したいと思っている方に読んでいただきたいと思っています。私の本は広報実務の具体的なことを記載しているので、広報に関係ない人には読んでいてあまり面白くないんじゃないかと思います。
この本を企画する際に、ターゲットはどうするか担当編集さんと話をしたのですが、自分自身も毎日もがきながら広報業務をしているという道半ばな状態で、そんな私がアウトプットとして本を出版するとしたら、現役広報さんをターゲットにして、日本全国のひとり広報さんにとって意味のあるものを作りたい!とターゲットを絞りました。
藤村:「ひとり広報の戦略書」というタイトルにもその思いが反映されてますね。本の冒頭に、「広報担当者がおらず自ら広報活動を行う必要性を感じている経営者の方にも...」と書いてあったので、その意味だと広報に携わる方全般にも役立つ本なのかなと感じました。
小野:そうですね、広報マインドが必要と感じている方も含まれますね。小さな会社だと社長自ら広報活動をしないといけないという会社さんが多いので、そういう方々にも向けてはもちろんあるんですが、結構ニッチな感じにしちゃいました(笑)
藤村:様々な本を読みますが概念だけは実務がピンとこないこともある中で、小野さんの本の内容はとても実務のイメージが湧きやすく分かりやすかったです。では、この本がターゲットの方々の助けになることとは具体的にどのようなことでしょうか?
小野:広報活動の「5つの不足」を解決するということが本のコンセプトなんです。
①「知識」の不足
②「情報」の不足
③「話題」の不足
④「時間」の不足
⑤「繋がり」の不足
これら5つのいずれか、もしくは複数で悩んでいる方に読んでいただき解決できればと思っています。また、ひとり広報さんは相談相手はいない、誰に聞いたらいいか分からないという悩みを持ってる方も凄い多いと思うんです。上司から丸投げされちゃう方も結構いらっしゃるんじゃないかと。そういう方に手を取ってもらいたいですね。
本を出版することはゴールではなく通過点
藤村:最後に、書籍出版前後の影響というところで何か変化はありましたか?本を出すメリットについて伺えればと思います。
小野:メリットは、3つあると感じています。
1つ目は自分を表現しやすくなったことです。自分のことを「あの本を書いた人」と、広報の方ならすぐ分かってくださることが多くなりました。最近だと、「本を読みました」と言ってくださる事が増えたので、そういった意味でセルフブランディングには確実に繋がっているんじゃないかと思いますね。
2つ目は、他の方が私のことを紹介しやすくなったことです。「彼女、本を出してるんだよ」の一言でニュアンスが伝わる事が多く、コミュニケーションコストが下がったと感じます。そういう意味ではこれもメリットの1つだなと思います。
3つ目は、広報の仕事内容について伝わったという実感です。広報の仕事って何をしているのか、分からないことが多く、伝わりにくいじゃないですか。
藤村:私も人を紹介する際に出版されている方だと、そのリンクや著書の名前を伝えることが少なくないのでよく理解できます。また、広報の伝わりにくさについてもそうですよね。
小野:そうですよね。「広報」という言葉は知っているけど、実際どんな業務内容なのか理解されていないと感じる場面が多くて。
広報の業務内容は理解されないことが多いですが、これだけ1冊にまとめられるくらい「広報に対しての知識や考えがある人」ということは伝わると思うんです。そういう意味では、広報という職種にとっても、私にとっても書籍出版がプラスになっていますね。
藤村:専門家としてのブランディングにも寄与していると想像していますが、その辺りのお考えはいかがですか?
小野:そうですね...もちろんないよりあった方が良いと思います。
出版を機にインプット意欲も増してきました。私が自分で書き上げたからかもしれませんが、今回たくさんアウトプットしたんです。自分の中で考えている「広報とは」ということを出し切りました。そうすると、もっと勉強しなきゃというインプットに対する意欲もめちゃくちゃ出てきました。全てアウトプットしきってしまうと、新しいことを言えなくなってしまいますよね(笑)。とにかく勉強したい学びたい!と感じています。
他にも、この本はどんなプロットで構成されているんだろう、どんな意図でコンセプトは何なんだろうと、本の構成についても考えるようになりました。その意味では、情報の接し方の質が向上しましたね。
これらのことから、本を出すことはゴールではなく、あくまでも通過点だと私は思います。書籍出版は一つのスタートであり、書籍を活用してキャリアを広げたり、より多くの方と繋がりが持てたり、あらゆる可能性を引き出す「きっかけ」だと思います。
藤村:とても勉強になります。以前出版社のクロスメディアさんの方とお話しした際に「背景にあることを言語化することでより伝わりやすくなる」という話に私も共感していて、そのひとつの手段として書籍出版し、ブックマーケティングを展開していくことは有効ですよね。
広報や書籍出版について様々なお話が聞けて楽しかったです。小野さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
小野:こちらこそ!私の話が誰かの参考になれば嬉しいです。ありがとうございました!
取材:藤村侑加/文・岡空直子
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?