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私は最先端の開発者になった―スカートめくりの話―

未知との出会い

「架空のできごとを書く」。
そんなことが、こんなにタフな作業だったとは。

「童心を取り戻せ!」をテーマで制作された前田デザイン室の雑誌「マエボン」。この中で私は、童心を想像の中で具現化する「ビジュアル遊び企画・スカートめくりやすい手袋」の執筆を担当させてもらうことになった。


もともと「科学的根拠大好きエビデンス至上主義」だった私にとって、今回の執筆は新しい挑戦だった。脳の未使用だった部位に電気ショックを流されたようなものだ。

最終的にはこの電気ショックが、すっかりクセになってしまったのだけれど。なので、今日はその時の話を書こうと思う。

完璧なラフに安心しきっていた私


ある日、前田室長の口から出た「スカートめくりしたいな。スカートめくりの手袋つくろ」という言葉から、この企画は生まれた。


ゲラゲラ笑いながら話を聞いていた私は、完全にノリで「やります!」と手をあげたのだ。

デザイナーの只野さんと私で結成されたスカートめくりチーム。そこに浜田編集長も加わって、7月下旬にはじめての打ち合わせが行われた。浜田編集長が用意してくれた完璧なラフのおかげで、何の問題もなく話は進んだと記憶している。

(浜田編集長の完璧なラフ)

ネタがネタだけに、下品なイメージにならないよう気を付けなくてはならない。結果「スカートめくりやすい手袋の開発成功した前田室長の緊急記者会見」を新聞記事風にアレンジするということで、話はまとまった。この案を考え出した浜田編集長は天才だと思った。


「なんや行けそうやな」


ちょっとでもそう思ってしまった1ヶ月前の自分を、正座で説教してやりたい。

当時の私はこの企画について、春先に女子大生が履くふわふわフレアスカートくらいの軽さでしか認識していなかったのだ。それが実は十二単なみに重たいものだったと分かったのは、締め切り前日の夜だった。

筆が進まず四苦八苦


猛烈な熱量で超大物編集者・佐渡島さんのインタビュー記事を執筆し終えた私は、「よし!次、スカートめくりやるぞ!」と意気込んでワードを開いた。


「書くぞ!」

「書く・・・ぞ・・・」

何も出てこない。びっくりするほど、何も出てこない。


そこで気付いた。「あ・・・これ、ゼロから書くんや」。

「まじかー・・・」と、相棒のsurfaceに顔を突っ伏した。


浜田編集長のアドバイスもあり、その日のうちに前田室長に「スカートめくりへのお気持ち」をうかがい、それをもとに開発者インタビューをしたためた。


そうこうしている内に、気が付いた。


私の使命は、前田室長をスカートめくり界のジョブズにすることだと。


「室長の夢を具現化する、開発者になろう(頭の中で)」


そう腹をくくると、止まっていた筆が猛烈に進みだした。


もう、何を書くべきかは分かっていた。


使えそうな最新技術について徹底的に調べ、スカートめくりをする際のニューロン(脳の神経細胞)の動きも考察してみた。その後の行動変容の可能性についても、仮説を立てた。効果測定するとしたら、何人ぐらいサンプルがあれば足りるだろう。例えば、IoT技術を搭載したら何ができるか。


締切日の夜中0時を過ぎて原稿を渡すという大変な迷惑を快く拾ってくれた只野さんには心からの謝罪と感謝をしたいと思う。こうして、なんとか初稿を乗り切ることができた。

2ラウンド目、使用例に悩む


怒涛の初稿提出を終え、気を抜いて子ども達をお風呂にいれていたある日。ふと気付いてしまった。それは「スカートめくりやすい手袋の使用例」に隠されていたイラレトラップだ。


只野さんから最初にもらった原稿デザインには、「使用例」が配置される場所にあるコピーが入っていた。


「山路を歩きながら」


私はこれを、只野さんが考えた使用例のコピーでありテーマリクエストだと勝手に思い込み、それに応えようと山路でスカートめくりをするメリットを考え、文章を書いたのだ。

イラレを普段触っている人ならお分かりだろう。これは、イラレ上で文字を入力しようとしたときに、自動で表示されるアタリの文章なのだ。

実は初稿を出し終わった後、山路でスカートめくりをするのはやっぱり危ないんじゃないかと心配になっていた。架空の手袋でスカートめくりに興じる架空のカップルが、山路から転げ落ちることを本気で心配していたのだ。もはや、阿呆である。

そんなこともあってこのイラレトラップに気付いた時、使用例の舞台をより安全かつ童心への回帰を加速させるであろう「学び舎の校庭」に変更することを決めた。

まさかの小説化決定


ドツボにハマったのはこの後だ。


「学び舎での使用例」を書いてみたものの、普段、仕事で刑事事件や裁判をよく扱っている私は、ある不安に襲われた。


「この使用例が、よからぬ犯罪を誘発したりはしないだろうか・・・」


脳裏に、謝罪会見を開く前田室長の姿が浮かんだ。


もはやスカートめくりの世界に取り込まれ、状況を全く客観視できなくなっていた。

心配する私に対し、原稿に「大丈夫ですよ」と優しく赤入れしてくれた編集の赤松さんには、心から感謝の意を表したい。

それでもとにかく、私はこの「犯罪誘発臭」を消すことに躍起になった。

「そうだ!「海辺で走るカップル」の設定だったら、行けるんじゃないだろうか。できるだけ爽やかに――――。」


できあがった使用例「海辺のスカートコミュニケーション」は、すでに新聞記事として相応しい文体を逸脱していた。まさか自分がこんな純愛小説ちっくなライティングをする日が来るなんて。


完全に迷走状態に入った阿呆を助けてくれたのは、またもや只野さんだ。なんと、この部分を別枠に出して「小説化決定!」と広告風に仕立ててくれたのだ。天才すぎる。

さらに前田室長より、デザインをより良くするために「小説の装丁も載せたらどうか」とアドバイスをいただいた。載せたい・・・。でも、只野さんには既にかなり無理をさせている。

最終締め切り2日前。

果たして救世主は現れるのか。

茶番屋・かわし氏


ヒーローは颯爽と現れた。
(正しくは、私が装丁と言えばこの方しかいないとメンションを飛ばしまくった)。


むちゃぶりを快く引き受けてくれたのは天才茶番屋・かわしさん
短時間で、想像を超える装丁デザイン作ってくれた。しかもパターン出し。

私も、只野さんのアイデアとかわしさんの装丁がより引き立つよう、文章をさらに磨こうとがんばった。

この時の様子を、運営の三浦さんこう語ってくれている。

何度も言おう。これは、スカートめくりの話だ。でも、なんだか美しい。


優しさと少年のいたずら心(ドS)を内在させたかわし氏。
デザインの面では、前田デザイン室の貴公子しんさんも助けに来てくれた。


そんなこんなで、なんとか完成した「ビジュアル遊び企画・スカートめくりすい手袋」

楽しんでいただけたら幸いです。

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