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J.S.バッハは厳しくも愉しい
令和6年4月20日
昨年から、フルートの演奏家としてのお仕事をするために準備をしています。昨年はモーツァルトの作品に取り組んで、今年はそれに加えてJ.S.バッハの作品にも取り組むことを目標に掲げていました。
過去を振り返っても、実はあまりバッハの作品を演奏する機会がなく、殆ど知らない状態で取り組んでおります。しかし、実際に楽曲を吹いてみるとモーツァルトとの関係の濃さを感じるんですよね。
今、取り組んでいるJ.S.バッハの楽曲は「管弦楽曲 第2番(BWV1067)」です。バディネリ、メヌエットなど名曲が詰まった曲です。私もバディネリは聴きかじったことはありますが、全編を知ったのはこの楽譜を入手してからです。
ただ、この曲に取り組むにつれて、J.S.バッハの厳しさを感じるのです。シンプルに聞こえる部分でもとても緻密な楽譜を書く方だなという印象を受けております。
どのように緻密で厳しい譜面なのかと言うと、「お化粧をせず、黒や紺、茶などの落ち着いた色彩のシンプルな服を着用し、派手な装飾をつけない。その状態でなおかつ存在感が滲み出るような佇まい」を表現することに匹敵するような楽曲だなと思ったんですね。
もう少し音楽的に表現しましょう。つまり「あまり抑揚をつけず、ヴィブラートもかけず、かつ音質の良さを際立たせる演奏を求められている」ような印象を受けました。要するに「元の土台がしっかりとして良質な音でないと表現することができない音楽」ということ。生半可な気持ちで取り組んではいけないというのは、そういうことなのではないかと。もちろん、何らかの信仰心も必要でしょう。それがあることが前提で、音楽以前の「発する音」がしっかりしていないと、バッハの音楽を表現することができないのではないか、と思ったわけです。
様々な演奏家の方が「バッハを基礎練習で使っていた」とおっしゃるのですが、バッハの楽曲を練習曲にするというのは(確かに理解できる部分はあるのですが)、音の羅列だけを見ていると指の練習になりそうな要素が多々あります。しかし、バッハの音楽は、日本に当てはめていうなら「祝詞」や「経文」のようなところもあるのではないかと思うんですね。音楽に対して畏敬の念を持つと言いますか、「この音楽を表現するための精神性」も求められているように感じます。繰り返し練習すればするほど「この音楽にふさわしい音を鳴らすことができているか。そして、その音楽にふさわしい精神を持ち合わせているか」を問われているような感覚になるのです。
ですので、色々なことを削ぎ落とす作業がでてきます。私の場合、油断するとヴィブラートをかけたくなりますので、その気持ちも技術も削ぎ落とさないといけない。単なる楽曲の練習ではなく、その練習に精神の鍛錬も重ねていくことを求められていると私は受け止めています。
そして、モーツァルトの楽曲に取り組んでいたお陰もあり、J.S.バッハの楽曲に取り組むと「こういうところからモーツァルトは影響をうけたんだな」と気づくことがあり、また逆にモーツァルトの協奏曲を練習すると「ここはバッハの影響をうけているのかな」と気づくのです。ここにハイドンの楽曲に取り組み始めたら、さらに立体的にモーツァルトを理解できるようになる、そしてヴェートーヴェンの楽曲についてもどう影響を受けたのかを感じることができるようになるのではないかと思うのです。
お話しし始めると止まらなくなりそうですが、しばらくバロック音楽、古典派の音楽に取り組もうかなと思っています。もちろん、他のジャンルの音楽を演奏する機会も出てくると思いますが、クラシック音楽に関してはバロック音楽をモダンフルートで演奏することについて、しばらくの間もっと磨いていこうと思いました。
実は、次のJ.S.バッハの曲で取り組みたい楽曲の楽譜を楽器屋さんに注文致しました。それは「無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調(BWV1013)」。バッハの楽曲に取り組んでいて「これは能楽(のうがく。能と狂言の総称)の舞との共通性がある」と気づきました。それは「何も頼るものがない、自分の素が滲み出てしまう藝術」という部分。そのようなことから、この無伴奏パルティータで能楽師さんとの共演もできたらいいなという思いもありまして、練習しようと考えております。
どの楽曲でデビューするかは未だ決定していませんが、今は現時点で可能な限りの準備をしておくという感じです。良い演奏を皆様にお聞かせできるよう、精進してまいります。
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