フィレンツェ歩き ここだけの話

フィレンツェ、シエナ県公認ガイド。日本の大学で学んだイタリア美術好きが高じて、イタリア…

フィレンツェ歩き ここだけの話

フィレンツェ、シエナ県公認ガイド。日本の大学で学んだイタリア美術好きが高じて、イタリアへ留学。気づいたらイタリア居残り部15年目。 自分の目から見たフィレンツェ、美術の解釈、美味しいものを発信します。

最近の記事

本物を見ることで培う感性

アカデミア美術館の夜間開館に行ってきました。 アカデミア美術館は毎年夏から秋にかけて週に一度夜間開館を行います(19時から22時。最終入場は閉館の40分前)。人気美術館なので夜でも人はいますが、昼に比べると静かで作品とゆっくり向き合うことができます。 なので復習のため、何よりもただ作品たちに囲まれて何も考えずに楽しむために、夜に行くことが多いです。先日は今年最後の夜間開館日でした。 パンデミックが起こってから国際情勢の不安定もあり、日本からのお客様は依然として少ないです

    • イタリア式の甘い朝ごはん。フランボワーズジャムのブリオッシュ。ここは何時も変わらずおいしい。

      • ミケランジェロのピエタ

        あまり知られていないけど、間違いなく見逃せないミケランジェロの作品の一つ。 昨日の投稿で触れたミケランジェロの「ピエタ」の一つ「バンディーニのピエタ」(1547-55年)です。十字架の上で亡くなったイエスを、身近な人達が降ろしている場面を捉えています。 向かって左にマグダラのマリア、中央には彫刻家自身の顔を持つニコデモ、向かって右には聖母マリアがいます。 この彫刻はミケランジェロが自身の墓碑として作り始めたものです。伝統的にニコデモは依頼者の肖像であることが多いために、

        • ミケランジェロ 「パレストリーナのピエタ」 1550-60年 アカデミア美術館

          帰属とする研究者もいますが、晩年の作風や完璧な解剖学から、ミケランジェロの作品と広く認められられる作品です。 彼は若い頃から「ピエタ」(哀悼。イエスの死を身近な人間が悼む様子)を何点か制作しています。一番有名なのはヴァチカンの「ピエタ」で、イタリア旅行にいらした方なら必ずと言っていいほど目にする作品です。マリア様が若すぎるとの批評も出ながら、その美しさと完成度の高さ、他者が入り込む余地のない二人の存在感から絶賛される彫刻です。 ですがミケランジェロは次第に、のみの跡を残す

          古代ローマからの人生の教訓

          前回、シエナ大聖堂の魔法陣に触れたついでに、もう一つご紹介します。 シエナの大聖堂と言えば 56 の場面から成る床の装飾で有名です。内部だけに注目が行きがちですが、入り口の前にも興味深いパネルがあります。 中央の扉の前にある「MEL (蜂蜜)」と「LAC (ミルク)」と書かれたアンフォラ(大型の壶)です。 本来なら「LAC(ミルク)」でなく「FEL (胆汁)」なのですが、1800年代の修復中に蜂蜜とミルクのおいしい組み合わせにすり替わってしまったそう です。恐らく、文字

          古代ローマからの人生の教訓

          中東や欧州で見られる魔法陣

          古代ローマの遺跡やユーフラテス川、起源の古い教会で見かける事がある石碑。 これはSATOR (サートル) と呼ばれる魔法陣です。 「サートル、アーレポ、テーネト、オーペラ、ロータス」 不思議な事にこの魔法陣は、左上から横と縦に読んでも、右下から横と縦へ読んでも同じように読めます。内容は創造主としての神を讃えるという説がありますが、はっきりと分かっていません。 そして、サートルが刻まれている街や建物は、絶対に崩れる事がなく形が残ると言われます。 例えば、ポンペイ。ヴェ

          中東や欧州で見られる魔法陣

          ルネッサンス時代の聖母子像

          頬を我が子の小さな顔にぴたっとつけて微笑む聖母。ルネッサンス期のフィレンツェで典型的な聖母子のポーズです。 聖母子、というより裕福な家の母子の様です。 マリア様の赤い服はフィレンツェのお家芸、ブロケードで装飾されたもので、描かれた当時の流行を取り入れています。よく見ると光が当たる箇所は薄っすらと光をたたえているので、かなり質のいい布地であることがうかがえます。 肩に掛けたショールの縁には、真珠が静かに揺れています。それと頭のヴェールにも。結婚や出産と結びつけられた宝石なの

          ルネッサンス時代の聖母子像

          実験としての絵画 ― パオロ・ウッチェロ

          1432年、フィレンツェ軍が宿敵シエナの将軍を討ち取った瞬間です。左にフィレンツェ軍、右にシエナ軍、真ん中で槍で刺され落馬しているのが、シエナ軍の指揮官ベルナルディーノ・デッラ・チャルダです。 軍に関与していたリオナルド・バルトリーニ・サリンベーニという貴族が、フィレンツェの勝利を記念して注文しました。本来は3翼なのですが、真ん中の敵将を押さえた場面のみウフィツィ美術館に残されています。 この作品、戦闘画でありながら、血生臭さを全く感じさせません。寧ろブリキのおもちゃが並

          実験としての絵画 ― パオロ・ウッチェロ

          フィレンツェ公主夫人の肖像画

          ブロンズィーノ 「エレオノーラ・ディ・トレードと次男ジョヴァンニの肖像」 1545年頃 ウフィツィ美術館 何度見ても豪奢な衣装と宝石に目を奪われる作品。トスカーナ公主コジモ・デ・メディチ1世の妻、跡取り息子の母としての威厳を公に示す作品です。 先日軽い気持ちでThreadsに載せたら、たくさんのいいねをいただけたので、やはりすばらしい芸術品は世界共通だと思いました。 柔らかい光沢をたたえる純白のシルク生地、生地を飾る黒と金の糸。この布はフィレンツェの特産物だったリッチョ

          フィレンツェ公主夫人の肖像画

          命懸けでイスラエルを救った王妃の話

          今回は旧約聖書をテーマにした作品をご紹介します。 パオロ・ヴェロネーゼ 「アハシュロス王に謁見するエステル」 1560−69年 ウフィツィ美術館 大きく、壮麗で、水面の光数々の色が散りばめられたような作品です。ツアー中に美術館を歩いていて目を留める方も多いのですが、展示の後半にあるため次の予定を考慮して、中々説明することのない絵です。 エステルは旧約聖書に出てくるイスラエルの女性です。 ある日、前妻と別れ新しい妻を迎えるためにペルシャ王アハシュロスは国中の美女を集めま

          命懸けでイスラエルを救った王妃の話

          2000年前、理想の女性と結ばれるために

          生成AIで作り上げた3次元もしくは2次元の女性と並ぶ男性のツイートを見かけて、思い出したのはポントルモの作品でした。 ポントルモ 「ピグマリオンとガラテア」 1529−30年頃 ウフィツィ美術館 この作品は、初期帝政ローマの時代(紀元前1世紀)に生きたオウィディウスという詩人の「変身物語」に出てくる行を表しています。 左手に立つ女性に跪く若い男性。 彼はピグマリオンというキプロスの王もしくは、市民だったと言われます。 ブロンズィーノの作品では、ピグマリオンを彫刻家と

          2000年前、理想の女性と結ばれるために

          キャンティ・ルーフィナの試飲会へ

          キャンティ・ワインの一つ、ルーフィナの試飲、販売会に行ってきました。私の近所にある商店街で19のワイナリーが生産するルーフィナと他のワインを試飲できるイベントでした。今年は第一回目です。 インフォ・ポイントでスタンプラリーとワイングラスを10ユーロで受け取り、テイスティング開始です。 あくまでもグラスを借りる保証金なので、試飲の後返却すれば返金されます。なので、実質無料で味わえる2重に美味しい企画でした。 お目当てのスタンドでじっくり味わう事も、全てのスタンドで味わうこと

          キャンティ・ルーフィナの試飲会へ

          フィレンツェで滅多に公開されないレアな名作

          ラファエッロの先生、ペルジーノの「最後の晩餐」です。フィレンツェ中央駅の直ぐ側にあるのですが、ほとんど公開されないことと、目立たない横道にあるため、あまり知られていません。 元々、アウグストゥス派の女性修道院でした。その後、ウンブリアからやってきたフランチェスコ会が入ります。尼たちは夜が明けたばかりのひんやり、しっとりとしたような空気が漂う絵を見ながら、毎日食事をしていました。贅沢ですね。 フィレンツェに来たペルジーノはサン・マルコ寺院のフレスコ画から多くを学び、随所に先

          フィレンツェで滅多に公開されないレアな名作

          ルネッサンス時代の夫婦 ― ウルビーノ公夫婦の後日談

          前回の話の続き。 仲睦まじかったフェデリコ・ダ・モンテフェルトロとバッティスタ・スフォルツァ。今日ご紹介するのは、彼らが残した長男と奥さんの肖像です。 ラファエッロ 「ウルビーノ公夫婦肖像」 1502−4年頃 ウフィツィ美術館 息子の名前はグイドバルド・ダ・モンテフェルトロ。 傭兵出身だったお父さんが猛々しかったのに対し、息子は線が細く女性的です。お母さんに似ていますね。 彼は武芸よりも文芸に関心を持った人でした。そのため、ウルビーノの宮廷でもルネッサンス文化が花開き

          ルネッサンス時代の夫婦 ― ウルビーノ公夫婦の後日談

          ルネッサンス時代の夫婦の肖像画

          前回ご紹介したような貴婦人の肖像画は、本来なら対となる男性の肖像画と共に描かれました。 典型的な例が、同じくウフィツィ美術館に展示されている「ウルビーノ公夫婦の肖像」です。 通常、女性は向かって右、男性は左に描かれます。それは、感情豊かとされた女性は心臓がある左側を、男性は剣を握る右腕を見る者に向けるように描かれていたためです。実際、前回のピエロ・デル・ポッライオーロの貴婦人は、体の左側をこちらに向けています。 ですが今回の夫婦像は逆です。何故でしょうか。 それは、ウ

          ルネッサンス時代の夫婦の肖像画

          ルネッサンス時代の貴婦人の肖像

          澄んだ青空を背景に、落ち着いた優しい眼差しで左手を見つめる女性。少し濃いけど、紅潮した頬から生き生きとした感じられる、私の好きな作品の一つです。依頼主や描かれた女性については謎ですが、身につけている衣装や宝石、丁寧に結い上げられた髪型から、高貴な家柄であることが分かります。 赤いベルベットの外衣、金色の縁取りと多色の房飾り、ザクロの模様があしらわれたチュニックの袖、髪や首元を飾る真珠、胸元のブローチなど、豪華絢爛です。 恐らく、ルネッサンスの時期慣習となっていた、結婚の際

          ルネッサンス時代の貴婦人の肖像