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運命の靴って本当にあるんだ③


まずお店に行けなかった

「靴は自己評価」。あきやあさみさんの著書「一年3セットの服で生きる」に書いてある言葉です。

私がその言葉の意味を思い知ったのは、実際に動き出してからでした。

まず、お店に行けませんでした。地元では恐らく「一番高い方の靴屋」のひとつになるであろう「銀座ヨシノヤ」。百貨店の中のテナントです。ふらりと通りすがりに入ることぐらい、何の苦でもないはずなのに。でも、入ることが出来ませんでした。それまで、市内の靴を売っている場所をしらみつぶしに当たっていて、その時は何も考えず、スイスイとお店に入れていたのに。

ムーンプランナーを広げて、行く日を決めようとして、決められないまま閉じました。単に「スケジューリングが出来ない」という話ではない。それが自分でも分かっていたからです。

頭の中で、自分を引き止めようとする声がずーっと喋っているかのような感覚です。

「そんなに高い靴を買ってどうするの?」
「分不相応じゃない?」
「そもそも店に行っても場違いの客じゃない?」
「安い靴でも大事に履けばそれで良いじゃん」
「靴だけいきなりそれは高すぎるでしょ、他はプチプラまみれなのに」
「絶対合う靴ないでしょ」

めっちゃうるさかったです。ハイ。自分の中にこんなに強力な引き止めマシーンが存在することを、実際に靴を探すために動いてみて、改めて気付かされました。

「靴が自己評価」だとしたら、多分、私はとても自分への評価が低いのです。「お店に行く」という行動ですら、ストップがかかるぐらいに。

ここで、この状況を「なんだコイツ…おもしれー女…」と思えたのは、「noteに書く」という行為をしていたからです。

noteに書くということ

「一年3セットの服で生きる」に、アウトプットをしてみましょうという提案があります。Twitter(今はXかな?)、Instagram、そしてnote。私が選んだのはnoteでした。それも、アウトプットがしたい!というよりは、あきやあさみさんとムーンプランナーさんに、片田舎からお礼の言葉を伝えたいというただそれだけの理由です。

私の人生を変えてくれたお二人へ、手紙を書くような感覚です。手紙を書くわけですから「こういうことがありました」と、経緯やあった事、流れを書かなければいけないわけです。

その時その時の自分の状態は、極論すれば「手紙のネタ」です。いずれ手紙に書かないといけないネタなので、何が起きてるのか観察して覚えておこう。そういう下心(下心?)がありました。そしてこれが、結果的にとても良かったんです。

今までの経験から断言できますが、恐らくこれまでの私だったら、きっと「銀座ヨシノヤ」には行かずに終わっていたと思います。

きっと今まで見てきた中で、一番足に合う、値段も安いものを買っていたでしょう。そして一年保たずに爪先の革あたりからダメになってきて、買い替えての繰り返し。今までずっとやってきたことです。そこにまた戻っていったことでしょう。

それぐらい強力だったから。
自分の中の引き止めマシーンが。

この「引き止めマシーン」の正体が何かは分かりません。例えば、心理学的な観点から分析してみたりすれば、回答があるものかもしれません。

でも、この時の私は、既に「原因なんてどうでも良い」という気持ちでした。自分の中の「引き止めマシーン」の存在になんて、だいぶ前から気付いていました。原因にも心当たりがいくつもあります。

でも、もう良いんです。私が今、やりたいことは、私の中のどこかに存在している「引き止めマシーン」を蹴っ飛ばして追い出すことです。そうしなければ、私の中の何かが永遠に変われないまま、人生が終わってしまう。多分そこまで行ってしまうから。

地元に唯一の百貨店にあるテナントで、恐らく地元では一番高いであろう価格帯の靴屋さんである「銀座ヨシノヤ」の、いつも店の前を素通りしながら、それでもずっと覚えていたディスプレイに並ぶ美しい黒のベーシックなパンプス。私にとって、昼職の象徴だったんじゃないかと思います。きっと憧れていました。あれが似合う人生に。でも、消えない前歴がついた自分には分不相応じゃないかという思いがどこかにあるんでしょう。今までも、そして今も、お店に入ることすら出来ません。

じゃあ、あきやあさみさんとムーンプランナーさんに、「結局行けませんでした☆」とお手紙書くの?

市内の靴が置いてあるお店は全部回りました! でも肝心のお店に入れず、結局今までと同じパターンで同じような靴を買い、特に何も変わりませんでした☆ そう書くの?

せめて行ってみようよ。
行ってみてダメなら、正直にそう書けば良い。
もしくは、もう書かなくても良い。
まずは、行ってみようよ。

結局、行くまでに一ヶ月かかりました。

随分強力な「引き止めマシーン」があるなと気付き、でもこの「引き止めマシーン」、もうウンザリだな。自分の人生から蹴っ飛ばして追い出したいなと思って。

お店に行ったぐらいで追い出せるようなものなのかな?と不安になって。でも「お店に行った程度じゃ何も変わらんよ」という状態なのであれば、こんなに強力に引き止めマシーンが稼働を始めるわけないよな~とも思って。

脳内ぐるぐる状態です。「一年3セットの服で生きる」を何度も何度も読み返して。ムーンプランナーと自問自答ファッションのコラボ動画も何度も見返しました。

そして一ヶ月後のある休日。唐突に「えーい!! もう今日行く!!」とスイッチが入って、百貨店の開店時刻とほぼ同時に家を飛び出しました。

勢いで飛び出したので、服装はいつものプチプラまみれ、ヘアメイクも適当。それでも良いんだ! とにかく行くんだ!という、まるで引き止めマシーンに包囲された刑務所からチャンスを狙って脱獄を図る囚人みたいなテンションでした。でも実際、そんなものだったと思います。

開店間もないお店に飛び込んだ私。無駄にバクバクしている心臓とテンションを落ち着かせるため、取りあえず一番入口に近い棚へそっと近づき、置いてある靴を眺めるポーズを取りました。脳内で、あきやあさみさんの試着動画の要点を思い出して心の準備をしようとしました。その時でした。

「何かお探しですか?」

(うわあああああああああ(;´Д`)来たああああああああああああ)
※脳内で絶叫しました笑

いや本当に脳内で絶叫しました。待って! まだあきやあさみさんの動画の要点を思い出せていないんだ! でもこれ知ってる! 本に書いてあったやつだ! 動画でも言ってたやつだ! 大丈夫! 店員さんは私が何を探しているか知りたいだけ! 店員さんは友達!(本当に脳内テンションがやばかった)

「あの… パンプスを探していまして…」

靴屋さんで、こんなに緊張することってあるんですね。正直、挙動不審に近かったんじゃなかろうか。今だから笑いネタとして書けますが、この時は本当にアワアワしていました。多分、初めて「引き止めマシーン」を自力で蹴散らした瞬間だったんです。

「銀座ヨシノヤ」の店員さんは、そんな挙動不審に近い客にも、本当に優しかったです。

色々なことを訊いてくれました。どんなパンプスが欲しいのか。ヒールはどのくらいが良いか。いつ履きたいのか。仕事の時に履きたいのであれば、どんな仕事か。どのくらい歩くか。通勤手段は? 今まで新しい靴が足に慣れるまで、よく痛める部位がありましたか?

ひとつひとつ答えて、今までどんな靴を主に履いていたか?等も伝えて、こちらもだいぶ落ち着いてきた頃、靴を脱いで足を計測し、どんな結果だったかを説明してくれました。

私、何故か足の横幅が広いんです。でも外反母趾ではないという不思議な足で、「それって要するにただの幅広足~!。゚(゚´Д`゚)゜。もっとスッとして可愛い足に生まれたかった~!」と何度嘆いたことか。見た目には基本自信のある私が、二つだけ持っている根深いコンプレックス。そのひとつがこの幅の広い足です。

「こんな足に合うパンプス、正直ありますか?」そんな私に店員さんはもちろん、と頷いて3つのパンプスを持ってきてくれました。最初の2個は、なんか違いました。でも、最後に履いたパンプスが凄かったんです。

もう、足を入れた瞬間に違いました。すっと足が入って、ぴたっと馴染む。どこも痛くない。どこもきつくない。履いていて不安が何も無いんです。

よく自問自答ガールズの皆さんが、「これだ!!!」という運命の靴やバッグ、服やアクセに出会うと、脳内で音楽が流れるって書いていらっしゃるじゃないですか? 私もこの時、唐突に脳内に流れました。この曲が。

(なんでだよ!!!!!!!!!)
※脳内で絶叫しました(当日2度目)

どうしてですか?
中学1年から高校3年までDQN界隈にいたからですか?(実話)
でも暴走族とは特に関わり無かったんですけど。

それとも、今、週末でなくてもブオブオブオオオオンと田舎の暴走族が元気に走り回るような場所に住んでるからですか? でも彼ら別にゴッドファーザーのコールを鳴らしながら走ったりしていません。

ゴッドファーザー、名作映画なので何度か見ています。かっこいいですよね~! でも、こんな時に脳内で流れるほど大好きなわけではありません。

本当に何でこの曲だったのか分かりません。
でもきっと、この曲には人の心を動かす何かがある。
暴走族が走る時に鳴らしたくなる何かが。
運命の靴に出会った女が脳内で思わず鳴らしたくなる何かが。

いや待って…ゴッドファーザーの曲を聞いて暴走族しか浮かばない方がどうかしているのでは…?

混迷を極める脳内BGMに翻弄されながら、店内をあちこち歩き、大変良いことを確認し、でもその日は買わずに帰りました。

帰ってから、銀座ヨシノヤの公式HPを見ました。なんと、お店に行く前にHPのチェックすらしていなかったんです。驚き! 引き止めマシーンがいかに強力かが窺えるエピソードのひとつです(説明口調)

公式HPを見て、銀座で始まった100年以上続く靴屋さんであること。今は鞄なども作っていること。そんな歴史をふむふむと読んでいて、ブランドコンセプトのページに辿り着きました。

あきやあさみさんが、著書の中で、自分のコンセプトを決める作業の際、ブランドコンセプトをヒントにしてみようと書かれています。それを思い出して、コンセプトのページを探してみたのです。銀座ヨシノヤの公式HPには、こう書いてありました。

「履きよさは、美しさ。」

「マジでこれ…」
※部屋で思わず声が出ました

合う靴を探すのに苦労するタイプの方は、きっと同意してくれる方が多いと思います。靴を探す時、デザインより何より、まず「足に合うかどうか」です。足に合う靴の中から、一番マシなのを選んで履く。そのぐらいの感覚です。

痛みも無く、足のどこかを痛めもしない、ちゃんと足に合う靴を履いていられる時の安心感は、とてつもないです。その安心感があってこそ、自信を持って立ち、歩き、動いていけます。

きちんと足に合っていて「履きよい」こと。それこそが美しさである。そう書かれた銀座ヨシノヤのコンセプトに、心の底から同意しました。なかなか合う靴が見つからない私にとって、本当にすんなり「まさにそれ!」と納得できる言葉でした。

そして週末。試着した靴を買いにいきました。
私にとっての「運命の靴」を。

初めて「引き止めマシーン」を振り切って買う靴でした。
安月給であっても、自分で昼職で稼いだお金で買う靴でした。

行くまでに一ヶ月かかったお店に、今度は何の気構えも緊張も無く、むしろ嬉しくてうきうきしながら入っていきました。

お手入れの仕方も訊き、お手入れグッズも一緒に買い、嬉しくて嬉しくて歩道をスキップしたいぐらいの勢いで帰りました。きちんとお手入れすれば、うちのパンプスは10年もちます。という店員さんの言葉に感動しながら。

ハッピーエンドですね。週明けからは、きっと新しい靴を履いて、晴れ晴れと職場に通えたでしょうね!

いいえ、出来ませんでした。

根深いんです。本当に根深いです。私の中の「引き止めマシーン」は! 次回、「靴を履くまでにまた一ヶ月かかったし、実際に履いてみたら履いてみたで大変だった」みんな見てくれよな!(続く)

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