葬儀屋の1日【殺人事件】

出てくる業界用語①【仕事の依頼の事を下げと言います】

僕は警視庁お墨付きの葬儀屋さんです

僕の会社では出社時間が9時とゆっくりなので朝のニュース番組を見てから出社していました

秋晴れという爽やかな朝、その日のニュースはどこも世田谷で殺人事件があったと報道されていた、そう強盗殺人事件である

誰だってそうだと思うが、僕もこういうニュースを見るのが嫌いだ、特に朝から殺人のニュースなんて。。。

しかし嫌いという理由の中に他の人と違う理由があった

「これ、呼ばれたら嫌だな」

普段は何気なく嫌だなくらいのニュースが

警視庁管轄の事件になると、これから自分の身に降りかかってくるかもしれない、防衛本能のような物がより強くそう思わせる

会社には営業部と業務部があり、営業部は各署の営業周りをし主に刑事とコミュニケーションを図る

業務部は実際に亡くなった方のお迎えなど、葬儀当日までの現場を取り仕切るのが主な仕事になる

出社するとラジオでも殺人事件の事が流れている

そのラジオの声と共に営業の山村さんの声で社内はざわついている

「私の担当署!昨日の泊りは2班だから白鳥係長がいっているはず、係長はうちを贔屓にしてるから様子を見てくる!」

そんな営業の山村さんの声と同時にクラシックのメロディが鳴り響く

クラシックのメロディは刑事たちに宣伝している専用番号でこのメロディが流れるときは100%刑事からの下げの依頼である

社員全員が身構え、電話を取った者の近くでメモを読み取る者もいる

僕はこのメロディが鳴った瞬間に立ち上がり若手の名前を呼び、情報もなにもないまま外に飛び出ている

警視庁の現場では1分1秒を争っている事が多いからだ

飛び出してはいるが世田谷署という事だけは聞いているので、その警察署方面へ車を走らせる。

すでに警察署は聞いてわかってはいたがそうでない事を願っている自分がいた。

携帯電話が鳴り取った僕の一言目はこうだった

「殺し?」

やはり世田谷区の殺人事件の下げであった

現場は会社から15分ほど、飛び出して情報をもらうまでに走っているので、10分そこらで現場に到着する

車内は張り詰めた空気だけが漂い、会話は一切ない、殺人事件の現場へ向かうのは相当気が重い

窓の外を見て気持ちを入れ替えるが、朝の秋晴れが嘘のように思えてくる


続く




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