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北朝鮮ミサイルが東京に落ちない理由


 こんにちは、医者をやっている中山祐次郎と申します。本記事でnoteデビューを果たしました。noteの皆さま、宜しくお願い致します。医者になって11年目、妻ひとり、福島県郡山市に住んでいます。ふだんは病院で医者をやりながら、ヤフーや日経ビジネス、メディカルなどのサイトで連載をしています。ここではたまにエッセイを書きたいと思い、始めました。有料無料の記事を交えて書きたいと思います。

 写真は私の住む郡山市の景色。ある日の夕暮れです。自分のiPhoneで撮りました。

 さて、15日にまたしても北朝鮮はミサイルを発射。北海道上空を超えて太平洋に落下しました。朝一番から携帯と町中のサイレンが鳴り響き、すでに起きていた私は驚きました。7時ちょうどくらいでしたかね。この音(クリックすると音が出ます、注意!) です。ああまたか・・・と思いつつ、テレビをつけると全てのチャンネルでJアラートの情報が。そして翌16日には北朝鮮が「火星12号を発射した。核武力の完成目標はほぼ終着点に達した」と発表しました。

 そこで「ミサイルは日本に落ちるのか?」という疑問について書きたいと思います。

なぜ防衛専門家でもなく、ただの医者の私がこんなテーマを書くのか。理由としてひとつには防衛関係者や災害医療の専門家などから色々な情報を集めた結果、かなり現実的に可能性が高いと思われる結論に達したということ。そしてそれについて、あまり主張している人がいないということもあります。

 結論から書きます。

「ミサイルは日本に落ちない。もし東京に落ちても、火の海にはならない」

です。

 順に理由を述べていきましょう。

・ミサイルが日本に落ちない理由

 まず、ミサイルは日本に落ちません。いくつか理由はありますが、その最たるものは「北朝鮮にとって日本に打ち込むメリットがないから」です。考えるべきは、日本に打ち込んだ場合北朝鮮がどうなるのかということ。日本にミサイルを打ち込みかなりの被害が出た場合、日米v.s.北朝鮮で開戦するでしょう。そして日米両国からガンガンに攻められ、数日という短いスパンであっという間に敗戦となるでしょう。

 それは北朝鮮にとって得策でないのは明らかです。では、なぜミサイルをバンバン打つのか。それはひとえに、「カード」を手にいれるためです。これはすでに多くのメディアや識者が指摘していますから真新しいことではありませんが、一応解説します。

 北朝鮮がもしグアムや米国本土を直接攻撃できるミサイルを持ち、そのミサイルに核爆弾を載せることができたら、北朝鮮は大きな交渉のカードを手にいれることになります。交渉のカードとは、具体的に言えば

「国を滅ぼしたり独裁政治を辞めさせるなよ、もし辞めさせようとしたら一発核ミサイルをグアムか本土に打ち込むよ」ということ。

 このカードがあると、北朝鮮は米国に対して強気の交渉ができます。経済制裁をやめさせたり、攻撃しないようにしたりという交渉ですね。この構図はなにも私が思いついたわけではなく、皆さんがよく知っているあのときの北朝鮮の生存戦略なのです。そう、拉致です。北朝鮮は日本人を拉致し、彼らを返してあげるというカードをちらつかせながら、数億円以上の食料支援や医薬品、経済制裁の回避という利を得たのでした。拉致被害者というカードでお金を引き出したわけです。そして今回は、核ミサイルというカードで国家独裁体制を守るという利益を得ようとしているのです。

 つまり、北朝鮮はなにもミサイルをどこかの国に打ち込みたいのではなく、「いつでも打ち込める能力」を持ち、「いつでも打ち込める事実」を知らしめるというただそれだけのために発射実験を行なっているのです。ただの開発のための実験と、お披露目をしているだけなのですね。

 正直なところ、私は今年の4月ごろにはこういった予想をしていませんでした。もしかしたら実戦力を蓄えるためにミサイルを繰り返し発射し性能を上げているのではないか。そう思っていたため、「ミサイルが飛んできた時、生きるためにすべきこと 医師の視点(追記;防衛関係者からの情報)」なんて記事を大慌てで書いたりしていました。

 しかし、度重なるミサイル乱射により、先に書いた予想は確信に近くなりました。その理由は、「グアムを狙う」という発言と、実際にグアムまで届く距離を目指したミサイル実験です。

 ミサイルについて少し説明しますと、前回(8月29日)の飛距離は約2700kmでしたが、今回は約3700km飛んでいました。発射された北朝鮮西岸の順安(スナン)からグアムまでは約3400kmですから、今回のミサイルは完全にグアムを射程圏内におさめたことになります。さらに高度は800kmだったそうで、日本が持つミサイル迎撃能力といわれる高度500kmを超えた高さです。これではミサイルの着弾前に撃ち落とすこともできません。

(参考:日本経済新聞 北朝鮮ミサイル再び日本通過 中距離弾道か 3700キロ飛行 2017/9/15)

 この一連のミサイル発射を見て、私は「日本に打ち込む可能性はまずない」との確信に至りました。しかも、そもそも日本を射程圏内に入れたノドンやムスダンといったミサイルの開発と配備(すぐに使えるようにすることです)はとっくの昔に終わっています。つまり打ち込むならとっくに打ち込んでいるのです。

・万が一落ちる可能性

 それでも、万が一日本にミサイルが落ちる可能性について考えましょう。可能性は二つです。

① 失敗して途中で落ちる可能性

② 国際的に孤立し、ヤケクソで韓国・日本・米国に打ち込む可能性

 これらの可能性は低いとは思いますが、ゼロではありません。これらがどの程度迎撃できるかはわかりませんでしたが、では、もしミサイルが着弾したらどうなるのでしょうか。次にそれを検討しましょう。

・ミサイルだけではたいしたことがない

 実は、ミサイルが着弾するだけでは、想像しているほどたいした被害にはなりません。その理由として2点を指摘します。

① 正確に狙えない

 ミサイルの着弾地点の精度は、実はそれほど高くありません。平均誤差半径(へいきんごさはんけい、Circular Error Probability、CEP)という言葉があります。これは、円内に着弾する確率が50%になる大きさの円の半径のことです。ジェーン年鑑(防衛機器・兵器などの情報を収録した資料のこと)によれば1〜3キロメートルでした。つまり、地下鉄の駅1個ぶん(数km)ほどの誤差があるのですね。さらに日本が発表している防衛白書(http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2016/html/n1221000.html)によると、特定の施設をピンポイントで狙う能力はないと評価しています。これは私の知人の防衛筋に聞いた話です。

② 殺傷能力はたいしたことがない

 こちら、ミサイルが落ちた時には何人ほど殺傷されるのかを示したものがあります。このページによると、「イラン・イラク戦争では実数及び負傷者は明らかではないが、弾道弾1基当たりの被害は2~18人程。

イスラエルでは38発で直接の死者2人、間接的な死者は5.5倍の11人。」だそうです。

 これが正しいとすると、ミサイル1発で数千人が死亡ということではなさそうです。100発撃たれても死亡者が500人と考えると、「火の海」という表現はあまりそぐわないでしょうし、都市機能が失われることはないでしょう。もちろんこれでも大きなダメージではありますが、それよりは大地震の方がはるかに甚大な被害となりますね。

・しかし考えるべきは「弾頭」

 しかし一点検討すべき項目があります。それは「弾頭」です。

 弾頭とは、ミサイルの先っぽかその付近につけて、ミサイルが着弾する時に爆発し人々を殺傷するものです。通常弾頭では石や釘、爆薬などを入れ、その威力は「小学校の体育館1個分」(この記事より)。それだけならたいしたことはないと思いますが、この弾頭に核爆弾を搭載するととんでもないことになります。威力は数百倍になりますし、核の被曝の被害もあります。この弾頭に核爆弾が載るかどうかで脅威のレベルが変わるのです。

 しかしながら、核爆弾を弾頭としてミサイルに搭載するのには技術が必要です。小型化し、さらにミサイルが大気圏外に出て再突入するダメージに耐えなければならないからです。これについて、先の防衛白書では北朝鮮が核弾頭を持ち得るかどうかをこう論じています。

「一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去4回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」(平成28年度版防衛白書

 なんとも気が重くなりますが、核弾頭を持っている可能性はあるということですね。

 しかし、核ミサイルを日本に打ち込む可能性はやはり低いと私はみています。そんなことをしたら国際的に孤立し、米国・日本と開戦になり総攻撃を受けるからです。それは北朝鮮の狙いではありません。

 つまりまとめると、北朝鮮はかなり技術を高めてきており核ミサイルを持っている可能性がある。しかしそれは自国の独裁体制を生存させるための、交渉のカードとして保有するだけで、実際に日本に打ち込む可能性は極めて低い、と考えます。

 これは様々な情報や知人の防衛関係者と話した上での、あくまでも私の意見です。ぜひ皆さんも、自分で考えてみてください。

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